第六十話
「それではそちらの三つでよろしいですか?」
二人が合計で三つ選んだのを確認したガザルスが確認をする。彼らが選んだものもガザルスにとっては自慢の品らしく、気に入ってそうな二人の反応に満足そうに微笑んでいた。
「あぁ、これで構わない。そもそもこの間の依頼の報酬があるから金には困ってないんだ。だから。俺たちが便利そうだと思ったものが手に入れば十分だ」
出された魔道具のそれぞれのおおよその値段も聞いていたが、アタルたちが差し出した大量の核の買取価格よりは安くすんでいた。だが二人は自分が使うものというのを基準に選んでいたため、そんなことは気にもならなかった。
「お二人が納得されたのであればよかったです。もし、他に変わった核やサイズの大きいものを手に入れたら持ってきてください。お二人からであれば色をつけさせてもらいますよ」
ホクホク顔でガザルスはそう言うと、待ちきれないといわんばかりにさっそく買い取った核の確認を始めていた。そんな二人の姿にキャロも嬉しそうに微笑んでいた。
「何か手に入ったらそうさせてもらうよ。とりあえず核の納品、報酬の受諾は終わったから俺たちはそろそろ行く」
核に夢中になり始めた親子にアタルはそっと声をかけてキャロと共に店をあとにする。
アタルたちが店を出るとそこには数組の冒険者パーティが待ち構えていた。
「なんだ?」
大抵、こういう場合は受け取った報酬をよこせという流れだと相場が決まっており、アタルもそう考えて警戒し始めた。同じ考えにいたったキャロもさっと武器をいつでも抜ける態勢をとって相手をじっと見据えている。
「なあ、よかったら俺たちのパーティに入らないか?」
だがそれは二人に対する勧誘だった。今回の依頼に参加したメンバーはアタルとキャロに対して高い評価をしていた。そのため、各パーティがこぞって勧誘に集まっていたのだ。
「おいおい、そんなやつらのパーティじゃなく俺たちのところに来ないか?」
「やめておけ、そいつらは貧乏だぞ。うちなら苦労はさせないぜ」
我先に仲間にしたいと集まったパーティリーダーが互いをけなしたり、自分たちのパーティの良い部分を誇ったりと競い合っていた。
思ってもいない展開に気の抜けたアタルは目の前で言い争う冒険者を呆れた目で見ていた。この状況にどうしたものかとキャロは困ったようにあっちを見たりこっちを見たりしている。
「お前たち、二人と全然話したこともないのに誘うのも無粋だろ。なあ、アタル、俺たちのパーティに入ってくれよ」
聞き覚えのある声が聞こえて来たと思ってみてみれば、それはクラウスの言葉だった。
確かにこの中ではクラウスとは何度も話をしており、キャロは共に前線で戦った中であるため、知らない仲ではなかった。相変わらずの眩しいまでの爽やかな笑みを浮かべてクラウスは誘うように手を差し出してきた。
「断る」
しかし、アタルの答えは即答だった。
「キャロ行くぞ」
その答えに唖然としている冒険者たちを置き去りにし、キャロの肩をそっと支えながらアタルはこの場から去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。一体何が問題あるんだ? それを聞かせて欲しい」
うろたえながらクラウスはそう言って食い下がる。拒否されたことを怒っているわけではなく、単純に理由を聞きたいという風だった。
「まず一つ、この中で知っているのはクラウスだけだから、もし選ぶとしたらクラウスのパーティになる」
それを聞いて、期待にクラウスの目が輝いた。他の冒険者パーティはやっぱりか、と思いながらうなだれている。
「だが、クラウスのパーティを選ばない理由もいくつかある」
次の言葉に一体何が駄目なのか、そこがクラウスが最も聞きたい部分だったようで食い気味に近寄ってくる。
「まず一つ、男嫌いのメンバーがいること。見てわかると思うが俺は男だ、その状況でパーティに入っても気まずいだけだ。二つ目、この中では知っているほうだが、それでも俺の戦い方や武器のことを話せるほど気を許せる関係ではない」
きっぱりとアタルがここまで言って、自分でも自覚がある部分を指摘され、クラウスは悔しげにむぐぐと唸っていた。
「三つ目、確かにクラウスの実力はそれなりに高く、他のパーティメンバーともバランスがとれている。どんな関係なのかは知らないが、息がぴったり合っていて連携も上手くとれている」
それはクラウスも誇っていることだった。だがまさかアタルに褒められると思ってなかったのか、嬉しそうに頬が緩んでいる。
「だからこそ俺たちはそこに入りたいと思えない。三人だからこそできている連携、そこに俺たちのような異物が入ったら途端にバランスを崩してしまうだろう」
アタルのそれはクラウスにとって思ってもいなかった指摘だった。クラウスは雷に打たれたかのように呆然と固まっている。
クラウスたちのパーティは強い、そこにもっと強い二人が入ったら更に戦力がアップするはずだ。それがクラウスの考えだった。
「反対に俺とキャロの戦いを見てもらってわかったと思うが、俺たちには俺たちなりの連携というものがある。そこにそちらの三人が入ったとしても、うまく機能するとは思えない」
アタルとキャロの戦い方は他に例をみない特殊なものであり、そこにクラウスたち三人が加わって戦っているというイメージはここにいる誰も浮かばなかった。
「確かに……」
アタルに言われて初めてそのイメージを思い浮かべようとするが、どう考えても思い浮かばず、ついにクラウスはそれを認めてしまう。それはつまりアタルたちの勧誘を諦めることに等しかった。
「というわけで、俺たちはどこのパーティにも入るつもりはない。わかってくれたか?」
ここまでの理由を聞いて、それでも! と誘う気概のある者はいなかった。
「それじゃ、俺たちはもう行くぞ」
肩を落とす彼らの間をすり抜けて、アタルは宿へと向かって行った。しばらく心配そうに後ろを時折振り返っていたキャロも、アタルについて行かなければと彼のあとを追いかけた。
「び、びっくりしましたね……」
彼らが見えなくなったところで胸を押さえながら息をついたキャロが口を開く。
「まさか俺たちを勧誘するとはな。だが俺たちは俺たちでやりたいことがあるから、縛られるわけにはいかない。……キャロはどこかのパーティに入ってみたかったりするか?」
アタルの質問に即答するかと思われたが、キャロはしばし考え込む。
「……いいえ、やはり私はアタル様と二人がいいと思います。先ほどの話にもありましたが、他のパーティに入ったとしてうまく連携してやっていけるとは思いません。反対にアタル様と一緒に戦う時はなんの不安もなく背中を任せることができますからっ」
実際には背中ではなかったが、そこは比喩表現として使っていた。
にっこりと純粋な笑顔を見せたキャロに、アタルは嬉しそうに彼女の頭を撫でる。
「考えたうえでの判断でよかったよ。キャロは一応俺の奴隷という立場だが、そうだとしても俺に遠慮して自分の考えを口にしないのはあまり健全な状況じゃないからな」
「普通はこんなふうに奴隷が意見を言ったら怒られるとこです。でも、アタル様は私の意見をしっかりと聞いてくれるので話そうとも思えるんですよっ」
ぱたぱたと嬉しそうに長い耳を揺らしながら答えるキャロにアタルは心から喜んでいた。これこそ二人が打ち解けてきた証でもあった。
「あぁ、今後もそうやって考えて答えてくれていい。それくらいじゃ怒ることもないからな」
だがまだ気恥ずかしさがあるのか、アタルはその喜びを顔に出さないようにしながらも優しい声音でキャロへと返事を返した。
「はい、ありがとうございますっ!」
一見素っ気なさそうな態度に見えたそれの中にある優しい気持ちに気付いたキャロは、アタルとは反対に喜びを目いっぱい表情や態度に表していた。
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