第五十七話
「あれ? 増えないのか? よく限界まで使えば上限が増えるとか、なんか修行すると増えるとか聞くけど」
「うーん、私はちょっと聞いたことないです……」
アタルのそれはゲームや小説からの知識だったため、ピンと来ていないキャロがへにゃりと耳を垂らしながら首を傾げる。
「でも、私も魔法には詳しくないので、詳しい人に質問してみるのがいいかもしれませんねっ」
「そうだな……誰か探してみるか。さて、俺たちもあいつらのところにいってみよう」
もしかしたら自分が知らないだけかもしれないとキャロは笑顔で助言する。
それに頷いたアタルが視線を動かすと、冒険者たちがフラリアの尋問を見ようと集まっているのが見えた。
「お前は一体何者なんだ、なんのためにこんなことをしたんだ!」
アタルたちがその輪に近づくと問い詰めるように荒げたフラリアの声が聞こえる。その質問内容にアタルは思わず怪訝な顔をする。
「なんで、そんな基本的な質問をしてるんだ?」
フラリアが男のもとへ移動してからしばらく時間が経過している段階で、このレベルの質問しているというこはうまく進んでいないことを表していた。なぜこんな状況なのか首を傾げながら自分も話に加わるべきだろうと前へ踏み出した。
「ちょっと通してくれ、悪いな」
アタルとキャロが人垣をわけいってフラリアたちがいる場所へと辿り着くと、男は縄で縛られ座ったまま尋問されている。男は目を瞑って、口をギュッと結んでおり、その態度から答えるつもりが一切ないのが伝わってくる。
「これは、なかなか大変そうだな」
「おぉ、来ましたか。そうなんです、この男なかなか頑固で……」
アタルが現れたことにほっとしたように息を吐くフラリア。どうやら彼はアタルに対しての敬語はそのままでいくことにしたようだった。
「そうか……だったら、こいつは何人かに見張らせておいて奥に行こう。これだけの数のゴーレムをここに配置するってことはおそらく奥に研究所なり作業場なりがあるはずだ。むしろ、奥をまだ調べに行ってないのが不思議なくらいだしな」
男を一瞥したのちに洞窟の奥を見ながらのアタルの言葉にフラリアはハッとしてすぐにそのための指示をし始めた。黙っていれば平気だろうと高を括っていた男は目を開いて、事の元凶であるアタルを睨み付ける。
「おい、俺の研究を勝手に触るんじゃないぞ!」
そんな恫喝ともいえるようなことを口にするが、この状況では何を言っても無駄だった。
「そうか……だけどそれは俺たちが決めることだ。こちらの質問に答えなかったお前にはなんの権利もない」
睨み付けも恫喝も全く気にせずにアタルはきっぱりと男に言い放ち、すたすたと洞窟の奥へと歩を進めていく。
それを見送ったキャロは縛られている男の側で見張りをすることにしたようだった。
「お、おい、待て! 勝手に触ったら危険なものがあるんだぞ!」
なんとかして引き留めようと慌てたように男は叫んでいたが、だからどうしたと言わんばかりにアタルは気にせずに進む。指示を終えたフラリアや数人のAランク冒険者がそのあとについていく。
奥へ繋がる道中にはガラクタとも何かの部品とも判断がつかないようなものが落ちていた。
「これはあいつの言うとおりかもしれないな……」
「危険ということですか?」
アタルの呟きにようやく追いついたフラリアが聞き返す。
「あぁ、あんたたちもそこらへんのものに触るなよ。俺が確認しながら進む」
眼の力を使いながら、魔力反応が高いものを確認しながらアタルは慎重に進む。ついて来たフラリアたちはその言葉に頷いて数歩遅れるようにしてついて行った。
しばらく進んだところで、部屋のような場所に辿りつく。
「ここがあいつの研究所か……さすがに多いから、ここにある資料を持って帰って専門家の話を聞きながら分析でもするといいんじゃないか?」
ぐるりと眼の力を使って中を見まわすが、特に触れたらまずいものは見当たらなかったため、アタルはそう提案するが、彼自身は内容にあまり興味がなかった。
「そうですね、少し時間がかかりそうですがここの資料は全部集めましょう。ではアタルさんは危なそうなものがあったら教えて下さい」
フラリアはそういうと散らばってる書類や本などを適当にかき集めていく。彼もマジックバッグを持っているため、それにどんどん集めた書類や本を詰めていった。冒険者たちもフラリアを手伝いながら周囲を興味深そうに見ている。
それを横目にアタルは指示されたとおり、周囲に置かれた紙以外のものを調べていく。
ふと、その中でひときわ魔力反応が強い核が隠れているのを発見する。それは二重底になっている棚に隠されており、サイズもひと際大きいものだった。
「これは……なあ、これどう思う?」
アタルがそれを手にして振り返りつつ声をかけるが、フラリアや同行してきた冒険者は資料を持ち帰る準備に追われて返事がなかった。
「あー、まあいいか」
特に危ないものだという感じもしなかったため、返事を返してもらえなかったことを気にした様子もなくアタルはそれを自分のバッグに黙って入れておくことにする。これだけ強力なものだと誰かの手に渡らないように自分が持ち帰り、あとでギルドマスターに渡すのが安全だと考えたのだ。
それ以降もアタルは周囲を確認するが、めぼしいものは見当たらず、その頃にはフラリアたちも作業を終える。
「ふう、これであらかた片付いたか。そろそろ撤収しよう」
散らばっている書類たちが片付いたことで少し綺麗になった部屋を見回したフラリアがみんなに声をかけ、それに頷いた一同は広場へと戻って行く。
アタルたちが戻ってくると、男は縛られたままの姿勢で彼らがやってきた方向を憎らしげに睨み付けていた。特に暴れる様子もないことからキャロは男に気を向けながらも、帰って来たアタルが無事な様子でいることに内心ほっとしていた。
「おい、お前たち余計なことはしなかっただろうな!」
身を乗り出すように男は怒りを込めて怒鳴りつけてくるが、アタルは肩を竦めるだけでフラリアに視線を移した。
「お前はそんなことを言える立場じゃないだろう。ゴーレムをこれだけ大量に製造していただけで、ここに来る者を危険にさらしている。更に言えばあの巨大なサイクロプスとかいうゴーレムを我々にけしかけたことは明らかな敵対行為だ」
この山は誰の所有地でもないため、そこに籠っていることは罰せられるものではない。だが例え防衛のためだったとしても好き勝手にゴーレムを配備するようなことは許されなかった。
「ぐむむむ、ここなら誰の邪魔も入らないと思ったのに……あいつめ、嘘をつきやがったな」
フラリアに正論をぶつけられて不満げに男は唸っている。そしてぼそぼそとした後半の呟きはあまりに小さすぎて誰の耳にも届かなかった。
「さて、そいつはギルドまで連行して改めて我々のほうで取り調べをしよう」
「ほら、立て」
冒険者の一人に強引に立ち上がらされて、引きずられるように男は連行されていく。
何か見落としがないようにとアタルはもう一度周囲を観察していく。他に何か隠していないか念のための確認のためだったが、特に見当たらないため、問題ないとフラリアに向かって頷く。
「よし、みんなギルドに凱旋だ! 怪我や疲労のある者も多いだろうから、慎重に戻るぞ!」
アタルを信用しているフラリアはそれに頷き返すと大きな声で冒険者たちに呼びかける。その声に返事をできる者は大きな声で、戦いの疲れから返事を返すのも大変なものは座り込んだままだったが喜びに手をあげていた。
こうして、ゴーレム討伐の大規模依頼は終了となった。
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