第五十三話
「ゴーレムたちがいる場所は広場のようになっているエリアだ。天井も高くて戦いやすい場所ではあると思う。数は、さっき確認できた範囲では通常のゴーレムが三十体くらいいる」
アタルのその報告に冒険者たちはざわついた。普通のゴーレムでさえ数体相手取るのも難しいのにそれだけの数がいるとなると冒険者たちに緊張が走る。
「それと、巨大ゴーレム。俺たちが前に来た時は一体だったはずだが、今回はそれが二体いる。巨大ゴーレム一体で通常のゴーレム十体くらいだと思ってくれればいいと思う」
ぐっと眉を寄せながら続けたアタルの言葉に一同は先ほど以上に驚く。そんな話は聞いていないと怯んでいる者さえいた。
「それほどのゴーレムがいるのか……」
真剣な表情で聞いていたフラリアは、前に聞いていた状況よりも悪化していることに酷く頭を悩ませていた。
そこへアタルは追撃をするかのように追加の情報を口にする。
「前回と同じであれば、ゴーレムの数は実際もっといると思う。巨大ゴーレムは後方にいるんだが、更にその奥から通常のゴーレムが何体も出てくるはずだ」
それは冒険者たちの気概を削ぐのに十分の効果を発揮していた。皆揃って絶句している。
「……何かいい情報はないのか?」
口ごもる冒険者たちを見かねたクラウスが質問するが、アタルは腕を組んで考え込む。
「うーん、俺が知っているのは巨大ゴーレムは他のゴーレムに比べてかなり硬いということ、それからこっちは予想になるが巨大ゴーレムをなんとかしないとゴーレムは沸き続けるだろうってことだ」
何も知らないよりは良いものだったが、それが状況を好転させるものではないため、クラウスも難しい表情になる。
「これまでの戦いを見てもらえばわかると思うが、俺とキャロは通常のゴーレムであれば一定のペースで倒すことができる。体力もそれなりにあるから戦闘継続時間も長いはずだ。それにある程度の数がいても戦える自信がある」
アタルが急に自分たちの能力について話し始めたため、何の自慢だとイライラする冒険者もいたが、冷静さを保っているクラウスやフラリアはその発言から何を言いたいのかを察した。
「……いいのか?」
真剣な表情でクラウスはアタルに問いかける。
「危険な役目だ……」
そんなことをさせたくないと葛藤している様子でフラリアもゆるりと首を振っている。
だが二人に向かってアタルとキャロはしっかりと頷いた。話の流れからキャロもアタルが何をしようと思っているのかを理解しており、そのために身体を動かして準備を始めていた。
そんな二人を見てフラリアは覚悟を決めたように冒険者たちに振り返って話し始める。
「みんな聞いてくれ……まず、二人がゴーレムの群れの中に飛び込んで戦いを始める。みんなは、敵の集中が彼らに集まったところで戦闘を開始してくれ。それまでは、二人が持たせるはずだ」
その宣言に冒険者たちは呆気にとられる。
この二人が大量のゴーレムを相手取って、しかも他の冒険者が参戦するまで二人だけで戦うということに信じられないという気持ちが強かった。
「まあ、俺たちはここにいるほとんどの冒険者と関わりがない。しかも、今回の大規模依頼はもとはといえば俺の報告が発端だ。これくらいはやらないと申し訳ないだろ」
気負う様子もなくアタルは肩をすくめながら言うが、それを実行するのは簡単なことではないと全ての冒険者がわかっていた。尻込みしていた自分たちが情けないとさえ思えるほど、アタルとキャロの戦いへの姿勢は潔かった。
「さて、みんなも準備をしていてくれよ。……キャロ、まずは俺ができる限りのゴーレムを倒す。一体でもこっちに向かってきたらそこからはお前の出番だ」
「了解しましたっ」
二人は既に戦いに臨む決意はできており、戦い方のシミュレーションも行っていた。互いを深く信頼しあっているのがそのやり取りから伝わってくる。
「みんな、戦闘準備をしてくれ。洞窟内での戦いになるから強力な魔法は使いどころに気を付けてほしい。それと広いとはいえ、壁や天井があるところだ。武器の取り扱いにはくれぐれも注意するように」
「じゃあ、行くぞ。少し離れてついてきてくれ」
フラリアの注意が終わったことを確認したアタルとキャロが先行していく。
攻撃しやすい位置まで移動するとアタルは銃を構える。他の者が見たら一体どこに攻撃をする余地があるのかと疑問に思うような場所だったが、アタルの目には敵の姿がくっきりと映っていた。
「いくぞ」
ぼそりと呟いた声はキャロに向けたものであり、彼女がこくりと頷き返すと開始の合図となる。
アタルが引き金を引くと、弾丸はゴーレムの核を見事に貫いた。
いきなり目の前の仲間が倒れたことで、ゴーレムたちはどこから攻撃されたのかと周囲を探るが、アタルの姿は彼らが視認できる位置にはなかった。
「今のうちに……」
相手が混乱しているうちにできるだけ数を倒しておこうと、アタルはすぐに次の引き金を引いて銃弾を一発二発と次々にゴーレムの核に命中させる。それは全て的確に核の中心を貫き、瞬時にゴーレムの動きを止めていく。
この方法で倒せたゴーレムの数は、既に十を超えている。
ここまで来ると巨大ゴーレムが状況を把握し、倒れたゴーレムが受けた攻撃から方向を予測してそちらへゴーレムを向かわせる。統制のとれた動きでゴーレムたちがアタルの方向へと向かってきていた。
「いきますっ」
ここからがキャロの出番だった。
真剣な表情で飛び出していったキャロはショートソードと短剣を構えてゴーレムを迎え撃つ。
彼女はここまでゴーレムの腕を弾きあげて隙を作っていた。それはアタルの攻撃のほうが強いため、確実に止めを刺すための選択だった。
しかし、今度の戦いはアタルの攻撃を期待できない場面もあると考え、キャロは自分だけでゴーレムを倒す方法を考えていた。
「攻撃は受けませんっ!」
本来、ゴーレムの攻撃を剣で受けることは武器と肉体への負担が大きく、立て直すまでの硬直時間もできてしまうため、複数の敵を相手するのには向いていない。
であるならば、彼女本来の持ち味である素早さと手に入れたショートソードの攻撃力を活かした戦いをしていくことをキャロは選んだ。
キャロはあえてゴーレムたちの前に自ら飛び出し、できる限りアタルから距離をとっていた。
「いい判断だ」
ふっと微笑みが漏れるアタルはキャロの動きを褒める。キャロが飛び出したことで彼女に敵の注目が集まっており、後方に誰かがいるとは思われていない。
キャロはゴーレムの拳をひらりと避けると素早く腕の中に潜りこみ、核目がけて一身にショートソードを突き刺していく。舞うように確実に核だけを攻撃するキャロ。その流れるような動きに他の冒険者たちは思わず見惚れていた。
そして、キャロに向かってゴーレムたちが集まってくるところで待っていたかのようにアタルが攻撃を再開する。その攻撃は決してキャロの動きを邪魔することなく、反対にキャロの邪魔になりそうなゴーレムを狙ったものだった。
更に奥から追加のゴーレムがキャロに向かってきたところで、横に回った冒険者たちがいよいよ戦闘に加わる。
「いけえええええええ!」
指をゴーレムたちに向けて叫んだフラリアの合図とともに冒険者たちが一斉に飛びかかって行った。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




