第五十一話
翌朝
昨日早く就寝できた二人は気持ちの良い朝を迎え、朝食をとってから馬車を伴ってギルド前に向かった。
「早いほうかと思ったが、結構みんな来てるもんなんだな」
そこにはアタルたち以外にも何台かの馬車と冒険者が集まっていた。
「やはりランクが高くなってくると、そういう部分もしっかりとされるんですかね?」
きょとんとしているキャロもアタルと同様のことを思っていたらしく、目の前の光景に驚いていた。冒険者といえばなんとなくルーズなイメージがあったことが彼らにそう思わせる要因だった。
「おぉ、あんたたちも来たか」
そんな二人へ声をかけてきたのは昨日、宿屋で話しかけて来た男だった。早朝にもかかわらず、爽やかな笑顔を浮かべている。
「……昨日話しかけて来たやつか」
めんどくさい奴が来たなとアタルは悪びれる様子もなくそっけない態度で言った。昨日キャロはどんな人物かと男を見定めるように警戒していたが、今日は特に怯える様子もなく控えめにあいさつ代わりに頭を下げている。
「ははっ、覚えててくれたんだな。よかった」
男はそんなアタルに対しても特に気にした様子もなく、さらに眩しささえ感じるほどの爽やかな笑顔で対応する。キャロにも手を振るほど気さくな男の態度に、朝から元気なやつだとアタルはうんざりした視線を送る。
「あっちにいるのが俺のパーティメンバーだ。今日はよろしく頼む」
彼が指し示した方向に視線を送ると、馬車に乗った二人の女性がこちらに気付いたのか軽く会釈をしてくる。
「三人パーティか。装備を見る限りランクもそれなりっぽいな」
瞬時に彼らのパーティを見定めたアタルの指摘に男はにやりと笑う。
「一目で俺たちの装備のよさを判断するとは、やっぱりあんたもランクが高いみたいだな」
好戦的に微笑む彼はアタルとキャロが放つ独特のオーラを感じ取り、強者のそれだと判断していた。
「俺はBランクでキャロはDランクだ。そんなに高いほうでもないだろ?」
だがさらりと告げられたアタルの答えに目を見開いて男は驚いていた。昨日の反応からもっと隠されたり誤魔化されると思っていたようだ。
「あっさりとランクを教えてくれるんだな。それにしてもBとD……もっと上でもよさそうな気もするが、受けた依頼数が少ないとかなのか?」
そのものずばりを指摘してくる男に今度はアタルが驚く番だった。爽やかな人好きするような笑顔の裏には、冒険者としての経験を感じさせる観察眼があったからだ。
「よくわかったな。今回の依頼で結果を残して少しでも上がることを願ってるよ」
「二人なら大丈夫だろう。そうそう自己紹介がまだだったな、俺はAランクパーティ雷の槍のリーダーをやってるクラウスだ。俺の仲間はまた今度機会があったら紹介させてもらうよ」
にっこりと笑顔を浮かべて自分の名前だけ名乗ると、クラウスはパーティの元へと戻って行った。戻った先で馬車に乗っていた女性二人に何かを言われて苦笑している様子が見えた。
「……あいつら、強いかもな」
Aランクという肩書ではなく、彼の物腰や余裕を持った表情からアタルはそう感じ取っていた。
「はい、私もそれを感じましたっ。それにあちらの女性二人、アタル様と私の動きを終始さぐっていました」
アタルとクラウスが会話している間もずっと周囲を見ていたキャロだからこそ、彼とは別の部分で彼らの強さを感じとっていた。
しばらく二人が他の冒険者の様子を眺めていると、時間になったのか、冒険者ギルドからフラリアが姿を現した。それはギルドにいる時と異なり、鎧を身に着け、帯剣している。
「みんな、朝早くから依頼のために集まってもらい感謝する。我々は大量に現れたというゴーレムの討伐と、その原因の究明し、それを取り除く。それを目的とし向かうこととする。今回の依頼は私も同行するので、基本的には私の指示のもと動いてもらいたい!」
きびきびとした声で話すフラリアの演説を冒険者は黙って聞いている。Bランク以上ともなれば、この演説に異を唱えるような者はいなかった。
大勢での依頼となるため、各自が好き勝手に動いては本来の力を出せないまま、危機に陥ってしまうこともあるからだとわかっているからだろう。
「全てのパーティが揃っていれば早速出発したいが、大丈夫か?」
ギルド前に集まっているメンバーを見渡しながらのその質問に、そこにいたものたちはそれぞれ頷く。
その間にも受付職員が一覧とメンバーを照らし合わせて、全員が集まっていることを確認し、フラリアへと報告していた。
「よろしい、ならば出発しよう! 先頭はアタル、キャロの二人に頼む」
そして出発の音頭をとったフラリアは今回の依頼の報告をした二人を名指しして先行させた。これは他のパーティにも事前に伝えており、ゴーレムの事情を知っている者が先頭にいた方がいいだろうという判断だった。
合図を送るようにアタルがキャロに向かって頷くと、御者台にいた彼女は馬車を操縦する。ゆっくりと馬車が走り出すと、それに続くように他のパーティも移動を始めた。
「しかし、まだ山まで距離があるんだから何も俺たちが最初から一番前じゃなくてもよさそうだけどな……」
誰にも聞こえないようぼそりと少し不満げにアタルが呟くが、近くにいたキャロの耳には届いており、彼女は思わず苦笑していた。
山へと向かう道中に魔物が出現することもあったが、馬車の幌の上にいたアタルの射撃によってことごとく撃破されていく。
その様子は後ろに続く他のパーティからも見えていたが、アタルが何をしているのか、どうやって倒しているのかは誰も理解ができず、新たな魔法なのか? 誰も見たことのない武器なのか? と噂しあっていた。アタルの活躍のおかげで魔物が馬車に近づくことがないことから、思い思いに話す余裕がたっぷりあったのだ。
だがどうしても気になって仕方なくなったクラウスが彼に声をかけてそれを探ろうと試みる。
「な、なあ、ちょっといいか?」
単騎で馬に乗って来た彼はアタルたちの馬車に並走する形で近寄り、アタルに声をかける。
「ちなみに、俺の攻撃方法については何も説明するつもりはないぞ。……それで、一体なんの話だ?」
近づいてくる存在に気付いていたアタルはおそらく銃についての質問だと思い、答えるつもりはないと先に質問を潰すことにした。
「うっ、いや、その……なんでもない」
質問しようと思ったことを口にできなくなったので、口ごもったクラウスはすごすごとパーティのもとへと戻って行った。興味本位で単騎先行したことをパーティの女性たちに叱られているのが後ろから聞こえてくる。
「まあ、そりゃ興味があるよな……だが、これについて調べられても何も理解できないだろうから困る」
何も理解できないような武器を使っているとわかれば、出所を聞かれたり、どうやって使っているのかなど質問攻めにあうことが目に見えていた。それでもこの愛銃は誰にも渡すつもりはないし、これを使ってこの世界を生き抜いていきたいと思っているアタルは武器を変えるつもりもさらさらない。
「そのアタル様の武器は唯一無二ですからね……もしどうしても答えなければならないことになったら、一子相伝の武器で詳しく話すことは代々の決まりに反する。とか言っておくといいかもしれないですっ」
「なるほどな」
どうやって質問を避けるか、言わずに済ませるかだけ考えていたアタルにとってミスリードさせるというキャロの案は頭になかったため、すっと入ってきた。茶目っ気たっぷりに笑顔で告げるキャロにアタルも微笑み返す。
「キャロ、ありがとう。その方法で行くことにしよう」
「い、いえいえ、お役に立てたのなら幸いですっ」
他には素っ気ない態度のアタルから素直に礼を言われたため、キャロはこみあげてくる内心の嬉しさがばれないようになんとか慌てて取り繕っていた。
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