第四十八話
二人が報告を終えると、一緒に帰って来た男が近くに来るように呼ばれ、聴取を受けることとなった。緊張にガチガチになりながらも必死にフラリアに説明しているのを横目にアタルたちはもういいだろうと部屋をあとにした。
そして二人は話が終わるのを待っていたテイルとともに受付へと依頼完了の報告に向かった。受付の女性が前回と同じだったため、ゴーレムの依頼に関するものだということがすぐに伝わる。
「はい、それではアタルさんとキャロさんの回収してきた核を確認させて下さい」
受付の女性に促されてマジックバックから取り出したゴーレムの核をカウンターの上に並べていく。
「こ、これは!」
次々に出されるそれらはみな傷一つなく、きれいにゴーレムから取り出されたものであることが一見してわかるほど質が良かった。通常、魔物の核は様々な原因から傷がついていることが多く、そこから研磨など加工を施すことも少なくない。
「傷一つない、綺麗なものですね……見事です」
彼女はギルドの受付として仕事をするようになってから、これほどの仕上がりのものを見たことがなかった。見入るようにうっとりと魔物の核を見ている。
「すごいな、これなら親父も喜ぶはずだ!」
覗き込むようにテーブルの上のそれを見たテイルも同様に驚き、心から喜んでいた。
「とりあえずはこれだけある。依頼受付期間がまだあるからひとまず数の報告だけにしておこうと思ってな」
テイルと受付の女性の反応を全く気にした様子もなく、アタルは受付職員が数を数え終えたのを確認すると、てきぱきとそれらをカバンの中にしまってしまう。
「ちょっ! もういいじゃないか、あんたたちより多く持ってこられるやつなんていないだろ?」
慌てたようにテイルはその動きを止めようとするが、それでもアタルは無視して全てをしまってしまう。
「そうしたいところだが、依頼の期限がまだあるからなあ。市場のものを買い占めて持ってくるやつとかもいるかもしれないだろ?」
念には念を入れたいとアタルに言われ、その可能性を考えていなかったテイルは思わず閉口してしまう。
「そ、そうですね。これほどの質と量を用意できるパーティが他にあるとは思えませんが、それでも可能性はありますし、今回は期限を指定していますからね」
「と、いうわけで親父さんにも少し待ってもらうように言っておいてくれ……それよりも準備をしないと。キャロ、行くぞ」
テイルが勢いに押されるように頷いたのを確認したアタルは少し急いだ様子でキャロを伴ってギルドをあとにする。
外に出ると隣にいるキャロに話しかけながら足早に移動をしていく。
「キャロ、回復薬とかを買いに行くぞ。おそらくゴーレムのあれは大規模の依頼になるはずだから、近くにいない場合は俺が回復してやれないかもしれない」
他の冒険者たちが買いに来る前に良い品を押さえたいと思っているアタルに置いていかれまいと、その言葉に込められた意味を感じ取って何度も頷いたキャロは小走りになって隣を行く。
そうして魔法薬を扱っている錬金術師の店へと入ると、さっそくアタルは商品棚を物色していく。キャロも見慣れないものがたくさんおいてあるため、きょろきょろと興味深そうに見ていた。
「三つずつあれば十分か……すまない、これをもらいたいんだが」
商品棚からアタルがカウンターに回復薬を合計6つ置くと店主のおばあさんが対応する。すると店主は持ってきたものを見て、意外そうに目を少し見開いた。
「ふむ、いくつかある中でどうしてこれをもってきたんだね?」
アタルは陳列してあるものを端から持ってきたわけではなく、その中でもまるで選んだかのように歯抜けの形で回復薬の小瓶を持ってきていた。
「……他のやつは少し劣化が見られた。回復の効果も俺が持ってきた六本と比較して少し低いように思う。それが理由だ」
少し黙った後の的確なアタルの指摘に、店主は驚いている。だが店主に嫌悪感などは全く感じられず、むしろにんまりと笑っていた。
「あんた……いい目をしているようだね。確かにあそこの棚には、良いものとそうでもないものを一緒くたにしておいている。まあ効果が低いといってもあんたが言うように少しだけだし、一応回復量には若干の差があると説明しているからいいんだけどね」
そう言った彼女の表情は悪びれのないものだった。おそらくそこまでちゃんと見て買う客がいないために、ちょっとした悪戯心を出したのだろう。
「なるほどな、まあ俺たちも他言はしないから安心してくれ」
「ひっひっひ、そうさね。ただ黙ってもらうのも悪いから、これをおまけにつけてあげようか」
特に気にした様子もなく、アタルが棚に書いてあった回復薬の料金をトレーに置くと、それと引き換えのように店主は回復薬とは色の異なる小瓶を二つ、すっとカウンターに乗せる。
「これは……中ランクの回復薬だな」
それをじっと見たアタルの言葉のとおり、店主が置いたのはアタルが買った回復薬よりもワンランク上の回復量のものであった。
「やっぱりわかるかい。あんたのそれはいい目だがそのことはあまり知られないほうがいいよ。その力を利用しようと考えるやつらが出てこないとは限らないからね」
店主は老婆心といった様子でアドバイスをしてくる。ここに店を構えてから、棚にあるポーションをしっかりと選別して購入する客はほとんどいなかったため、アタルの存在に店主は喜んでいた。アタルのハッキリとした物言いにもむしろ好感を抱いたのだ。
「それじゃあ、ありがたくもらっておくとするよ。また何かあればこさせてもらう……あと、もしかしたらだけどしばらくしたら回復薬を求める客がどっと押し寄せるかもしれない。在庫は少し多めにしておくことを推奨する」
アタルは回復薬のお礼に、今度発生するかもしれない回復薬不足を考えて店主にアドバイスを残していった。
「ありがとうね! 何か薬で必要なものがあったら相談にのるよ!」
そのまますぐに店を出ようとするアタルにやや大きな声で店主が声をかけた。その後、店主はアタルのアドバイスを元にいそいそと回復薬の支度を始めたようだった。
「さて、他に必要なものはあるかな?」
店を出てしばらく歩いたところで、話を振られたキャロがしばし考え込む。
「……とりあえずは大丈夫だと思います。アタル様は武器の手入れは必要ないでしょうし、私のほうもゴーレムと戦いましたが、剣の状態は保持できているので問題ありません」
きっぱりと告げたキャロの答えに、納得したようにアタルは頷く。
「それなら、あとは食料の追加をしておくくらいか。さすがに依頼もすぐには出ないと思うから、最初できなかった街中散策をするのも悪くないな」
「はいっ!」
元気よく頷いたキャロはこれまで遠くの街に出かけるということがほとんどなかったため、内心この街に来たばかりのとき、色々と見て回りたくてうずうずしていた。すぐにテイルに話しかけられて依頼を受けることとなってすっかり忘れていたが、それが叶うという事で、アタルを見上げる表情は心から嬉しいと言わんばかりのふにゃりとした笑顔になっている。
時間帯が昼過ぎであったため、アタルとキャロは昼食もかねて買い食いをしながら街の中を気ままに散策する。最初の街と比較してみると、この街は商売人が多い様子だった。
「なんかこう、街ごとに特徴があって面白いな」
「そうですね。この街は獣人の方もチラホラ見かけますし、種族による差別というか区別というかもあまりないみたいです」
その言葉通り、街を行き交うのは人族に限らず多くの種族がいた。そしてどこを見ても種族を問わずみんながとても楽しげに話しており、浮かぶ表情も笑顔がばかりで全体的に明るい雰囲気の街だった。
領地経営がうまくいっていないと聞いていた時は不安に思っていたが、ガイゼルがそれでも一生懸命やっているのが街の様子から伝わってきた。
「こういう街も悪くないな……」
街を見ながらぽつりとアタルが言うと、キャロは笑顔で頷いていた。
そんな風にのんびりとしたやりとりをしていた二人が冒険者ギルドの近くまでたどり着いた頃、なにやら人が集まって騒がしくなっているのが見えた。
「思ったより動きが早かったな」
「はい……」
この先待ち受けるゴーレムたちとの戦いのことだとすぐに感じ取った二人の表情は真剣なものへと変わっていた。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




