第四十七話
街に戻ったアタルたちがギルドに入ると、彼らがなんの依頼に行ったのか知っている者たちから小さな歓声が上がった。
「おぉ、あんたたち無事だったか!」
嬉しそうに顔を緩めて声をかけてきたのは魔道具屋の息子テイルだった。それまでに帰って来たものが一人もいなかったことがより彼を心配させたのだろう。
「なんとかな……悪いが先にギルドに報告したいことがあるから、依頼のほうはあとでもいいか?」
「お、おう、そりゃ構わないが……何かあったのか?」
いつになくアタルが真剣な表情だったため、テイルも神妙な顔で質問をする。
しかし、アタルは首を軽く横に振って何も話さず受付に向かう。
「あんた、確か俺が依頼を受けた時の受付の人だったよな?」
「は、はい、依頼完了の報告でしょうか?」
硬い表情を崩すことなく話しかけて来たアタルに動揺しながら受付職員は問いかけるも、彼は首を振って否定した。
「完了報告はあとでさせてもらうが、それよりも今回の依頼のことで少々問題が発生したのでそれについて上の者に報告をしたい」
「重要な内容のようですね……わかりました、少々お待ち下さい」
口調から何かを感じ取った受付職員はそう言うと、急ぎ足でカウンター奥の階段を上がっていった。
しばらくアタルがそのまま待っていると、受付職員が一人の男性を連れ立って戻ってくる。穏やかそうな雰囲気を持つが隙がない立ち振る舞いをする、細身で長身の人族の男性だった。
「君が重要な報告があるという冒険者だね、僕はここのギルドマスターをしている者だ。良ければ奥にある部屋で話を聞かせてもらいたい」
柔らかな笑顔を浮かべながら男性はそう言うと、二人をカウンターの内へ招き入れる。
「わかった」
表情を崩すことのないままアタルは頷いて肯定の返事を返すと、彼に続いて奥の部屋へと向かった。キャロも無言でアタルのあとを追いかける。
「そちらにかけてくれ」
奥にある部屋に入ると、一足先に入った男に促されてアタルとキャロが椅子に腰かける。
「改めて自己紹介をしよう。僕はこのギルドのギルドマスターをやっているフラリアという。元冒険者でランクはAだった。よろしく」
簡単な自己紹介をするとフラリアは軽く頭を下げた。物腰柔らかな彼の雰囲気は警戒心を抱かせないものだった。
「俺はアタル、Bランク冒険者で、こっちは仲間のキャロでDランクの冒険者だ。早速で悪いんだが、報告をさせてもらっていいか?」
早く話がしたいというアタルの言葉にフラリアはもちろんだと頷く。彼もアタルの報告がなんであるのか気になっていた。
「俺たちはゴーレムの核を集める依頼を受けて南の山に向かった。最初は報酬が金だったんだが、それが魔道具に変更されたことで、複数パーティ競合の依頼になった。一番多く核を持ってきたパーティが魔道具をもらい、それ以外は金銭で核を買い取ってもらうというものだ」
アタルの説明を聞いてフラリアは頷いている。フラリアもこの依頼については気にしていたようだった。
「俺たちは馬車を人に借りてから向かったため、他のパーティより遅れて向かうことになった。到着したら洞窟前に一人の男がいて、聞いてみたらパーティが全滅したという話だった。どうやら俺たちより先行したパーティのほとんどが全滅したらしい……それで原因を探るために奥まで行ったんだが、そこには大量のゴーレムがいた」
「大量というと具体的には?」
実数を聞かずに判断することはできない、フラリアはそう考える。人によって大量のイメージが違うことを気にしているようだった。
「数を数えたわけじゃないが、俺とキャロが倒しただけで十は軽く超えている。そして、十ではきかないほどのゴーレムがまだ洞窟にはいた。更にいえば、倒しても倒しても奥から増援がきたから、俺たちは後退することにしたんだ……それともう一つ、普通のゴーレムよりもひと際大きなゴーレムが一体いた。恐らくだがあいつが他のゴーレムに指示を出していたんじゃないかと思っている」
そこまでを聞いてフラリアはごくりと唾を飲んだ。予想以上の状況に、彼らが大きな怪我を負わずに帰って来たことを内心安堵した。
「あれだけの数のゴーレムがいたら、他のパーティのやつらも恐らくもう生きていないと思う。一人だけ生き残りがいたので連れて帰って来たから、あいつからも話を聞くといいと思う」
気配に気づいていたアタルがその方向へ視線を向けると、どうやらここへ案内された男が扉付近でハラハラした表情をしてアタルとキャロのことを見ていた。
生還した自分も当然聴取を受けるだろうと思っていたが、パーティでも荷物もちなどをしていて偉い人物と話す機会が少なかった彼は緊張が強かった。焦りと緊張からか汗もだらだらとかいており、落ち着きなくしている。
「なるほど、彼にもあとで話を聞いてみることにしよう。……それで、君たちはどう考える? そのゴーレムについて、先ほどの状況報告以外に何か思うところや考えていることはあるかい?」
フラリアはアタルがここまで冷静に話をしていることに気付いており、何かいい考えを持っているのではないか? 何か気付いてることがあるのではないか? と考えた。それだけの状況をかいくぐって戻って来た彼らだからこそ、そう思わされた。
「……巨大ゴーレムの後方から何体ものゴーレムが出現していた。そこにゴーレムたちを作っている場所みたいなのがあるんじゃないかと思う。残念ながら俺たちはそこまでたどり着くことはできなかったがな。それと、指示を出しているのが巨大ゴーレムであることから、あいつを倒せば何か……事が動く可能性が高いと思う」
考えながら話すアタルの意見に隣にいるキャロも同意するように頷いている。
「あー、それとその巨大ゴーレムは他と比べてかなり強度が高かったな。他のゴーレムに通じた攻撃があいつには効かなかった。それと俺の攻撃が一発当たったあとは他のゴーレムたちを盾のように使っていたから、隙をみつけてもそこで仕留めないと次のチャンスはなかなか回ってこないと思う」
これはアタルも失敗したと思っていることだった。弾丸を頭部に命中させてからの巨大ゴーレムの隙のなさは自分の弾丸の選択ミスに起因していたためだった。あの時のことを思い出したのか、アタルは悔しさから苦い表情になった。
「ふむふむ、しかし聞けば聞くほど二人の能力の高さに驚く。その状況で敵の特徴や状況を瞬時に把握して、なおかつ切り抜け、更に言えば見たところ大きな怪我をしていないようだ。……少しどういった作戦で臨めばいいか時間をもらうことになるが、もし洞窟に再度向かうことになった暁には君たちの力もぜひ貸してもらいたい」
真剣にアタルの話に耳を傾けていたフラリアは感心したように彼らを見た。そしてギルドマスターという立場がありながらもためらうことなくアタルたちに頭を下げる。
それを見ていた生還した男はぎょっと目を見開いて凍り付いたようにかたまっていた。
ギルドマスタ―である彼に頭を下げられたら普通であれば即答するところだったが、アタルの返事は違った。
「……悪いが報酬次第だな。それと、もし行くとしたら俺とキャロには行動の自由がないと行くことはできない。今回はキャロとの連携があったから何とかなったんだ。あの洞窟内で他のやつらとの連携をとれと言われても難しいだろうからな」
一見すると不遜ともいえる返事だったが、気にした様子もなくフラリアは笑顔になる。
「もちろんだ、相応の働きをしてくれれば報酬は弾もう。僕も元冒険者だからわかるよ。たった二人でそのような修羅場をくぐり抜ける者と同じ戦い方をできる者などほとんどいないだろうからな」
大きく頷いたフラリアのその言葉に、アタルは器の大きさを感じ取ってそれならば構わないと静かに頷いた。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




