第四十五話
「アタル様!」
キャロの呼びかけにアタルは無言で頷く。視線は交わされなかったが、この二人の考えは通じ合っており、同じだった。
そしてタイミングを合わせたかのように再びキャロがゴーレムの腕を弾きあげた。
今度は無言で弾丸をゴーレムに撃ち込む。弾丸は強通常弾を使っており、ゴーレムの岩を撃ち抜くほどの威力を持っていた。狙い通り的確に魔力の管を破壊し、その機能を停止した。
「次です!」
キャロは攻撃が決まることを確信していたため、既に次のゴーレムと対峙しており、同じようにアタルが撃ちやすいように隙を作ろうとしている。
「あぁ、さすがだキャロ」
そんな彼女の働きに心地よさを感じ、思わず笑みがこぼれる。その言葉と共にアタルは引き金に手をかけていた。そして弾丸は三体目も同様に鋭く魔力管を撃ち抜いていく。
「ふう、なんとかなるみたいだな」
三体目のゴーレムが機能を停止させて大人しくなったのを確認したアタルはほっと息をつく。精密さを求められる戦いのあとの独特の解放感からくるものだった。
「アタル様、今核をとり出しますので少々お待ち下さいっ」
倒れたゴーレムの元へ駆け出して行ったキャロは、アタルが撃ち抜いた場所から表皮である岩を器用に剥がしていき、核を抜き出していく。
キャロが作業をしているのをちらりと見たあと、アタルは周囲の警戒をする。しかし、どうやらこの辺りにいるゴーレムは先ほどの三体だけだったらしく、作業の間に魔物に襲われることはなかった。
「アタル様、三つとも回収できましたっ。どれも傷一つないようです!」
「あぁ、うまく撃ち抜けたみたいだ」
駆け寄って来たキャロが嬉しそうに差し出したゴーレムの核は言葉のとおり綺麗なものだった。ゴーレムの核を回収してくれた礼として彼女の頭を撫でると嬉しそうにキャロは身をよじった。
「どうされますか? 他のパーティは壊滅されたみたいですが……」
少しの間その感触を楽しんでいたキャロが確認するように上目遣いで聞いてきた。
本来、ゴーレムの核を手に入れるのは難易度が高いため、傷一つないものが三つもあれば十分だとも考えられた。
「うーん、そうだなあ。これで帰ってもいいんだが……少し奥の様子も探っておくか。あいつの話だとゴーレムの数が異様に増えているって話だ。この先、核を狙いにくるパーティが毎回全滅っていうのもまずいだろ」
今回競合したパーティに対して同情の気持ちはなかったが、今後も魔道具作りの為に依頼が出されることはあるだろう。その時、ここに来た冒険者たちがあっけなくその命を落とすことを考えると、その可能性を軽減しようという考えがアタルにはあった。
「さすがアタル様ですっ。他の冒険者のことも気にかけるとは……私はそのお考えに賛同します!」
感激するように手を胸のあたりでぎゅっと握っているキャロもその意見に異論はないらしく、ふっと洞窟の奥に目を向ける。
「悪いなキャロ、つきあわせることになって」
「いえ、もしかしたら生き残っている人もいるかもしれませんし、それに複数のパーティがほぼ全滅してしまうほどに大量にゴーレムがいるというのも気になりますから……」
気にするなといわんばかりに首を振ったキャロは洞窟の奥を見つめながら表情を固くした。アタルも同様のことを気にかけていたため、奥へ向かうために一歩踏み出した。
「何か原因があるのかもしれない……行こう」
そして二人は洞窟の奥へと向かって行く。
その道中でもゴーレムに出くわし、そのたびに最初の時と同じく二人の連携で倒し、核を回収していく。手に入れた核はマジックバックにしまっていくことによって、どれだけ増えても荷物になることはなかった。
「数だけでいえばそこそこになったな。あとはアレの原因を突き止められるといいんだが」
二人は岩陰に隠れながら声を潜めつつ、洞窟の最深部と思われる場所にそっと視線を送る。
「ですね……」
アタルの背に隠れるようにしているキャロはその光景にごくりと唾を飲む。
二人の視線の先には大量にひしめくゴーレムたちの姿があった。その中にはサイズが一段大きいものが一体いて、アタルたちが心配していた以上の状況だった。開けた空間のはずがゴーレムたちの巨体のせいで見通しが悪い。
「どうする?」
「……二人でいけますかね?」
不安そうにキャロは質問に質問で返すが、この質問にはアタルも安易には頷けなかった。
「さすがにこの数は厳しいな……いや、いけなくはないだろうがさすがに無傷というわけにはいかないかもしれない」
最初の三体を相手取った時とは段違いに敵の数が多く、もしも一斉に襲いかかられた場合には連携をする余裕もないかもしれない。
「これじゃあ生き残っているやつもいないだろうし……」
ぽつりとつぶやくようなアタルの判断に悲しげな表情を浮かべるキャロも頷いていた。
「いっそこのまま戻ってギルドに報告するのも手かもしれませんね……」
キャロがそう言った瞬間、何かに気付いたのかぐるりと一体のゴーレムが振り返り、ずんずんと大股でアタルたちのもとへと向かってくる。
「……気付かれたか?」
いざという時の為にアタルが岩陰に隠れたまま銃の準備をし、その後ろではキャロも武器をいつでも抜けるように準備をする。
「私はいつでもいけます」
そして二人はゴーレムの動きに注視していく。ピリッと空気が緊張感で張り詰めた。
動き出したその一体は二人に気付かないまま、岩のこちら側へとやってきた。
この位置であれば、多少暴れても他のゴーレムに気付かれないかもしれない。少し音が漏れても岩場から石が落ちたとでも思ってくれればいいとそう思った二人は目線を交わすと頷きあい、このゴーレムへの攻撃を決断する。
それは吹き抜ける風のごとく素早い動きであり、キャロは足を後ろから攻撃して膝をつかせ、ゴーレムが首をキャロへと向けたところでアタルが既に消音機能をつけた状態で魔力管を撃ち抜いていた。
この一連の動きは他のゴーレムの視界に入らない位置で行われており、気付かれずに済んだと二人は思っていた。
しかし、ひと際大きいサイズのゴーレムの目があやしくゆらりと光ったことにキャロが気付く。
「ア、アタル様っ。あの大きなゴーレムの目が……」
それは赤く光り、更にいえば確実に二人のいる位置へと向いている。
「やばいな、気付かれたか……キャロ、向かってきたら迎撃するぞ」
逃げれば外にまでゴーレムたちがやってくるかもしれない、それは被害を広げることになってしまう。ならば危険を承知で戦うしかなかった。
他のゴーレムたちが巨大ゴーレムの指示を受けて、アタルたちへと向き直る。
「これは完全に捕捉されたか……先に数を減らすぞ」
先手を打とうとアタルは銃を構えると、戦闘体勢に移行していないゴーレムの魔力管を次々に撃ち抜いていく。中には管が見えづらいものもおり、それに対してはやむを得ず核を撃ち抜くことで対処する。
「持ち帰る分の核は手に入ったからな、数を減らすことを優先させてもらうぞ」
誰にともなく言い訳をしするアタルだったが、その攻撃に迷いはなかった。一体でも多く減らし、巨大ゴーレムをいい状態で迎え撃たなければという思いしかなかった。
「アタル様、そろそろ下がって下さいっ」
十体ほどをアタルが行動不能にしたところでキャロが彼の前に立つ。先頭のゴーレムとアタルとの距離がいよいよ狭まってきたため、キャロが近接戦闘の準備をする。
「わかった、俺もとどめだけじゃなく援護もするから二人で一気に倒していくぞ」
キャロもアタルもこれまで核を傷つけずに手に入れることを最優先に行動していた。しかしその制限を取り払うことで、二人の能力を最大限に活かした戦い方が始まっていく。
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