第四十二話
みんなが同意したことにより、テイルが受付に申請しなおして、依頼を複数パーティ受注可能に変更した。それを受けてそれぞれのパーティの代表が出てきて依頼を受けた。
「これで四つのパーティが依頼を受注しました。期日は一週間、最も多くのゴーレムの核を持ってきたパーティに魔道具が報酬として渡され、それ以外のパーティは核の買取が報酬になるということになります」
依頼受領の処理をした女性職員の説明を受けて、納得した全員が頷く。
「それでは、皆さんの旅のご無事と依頼の達成をお祈りしております」
女性職員が柔らかな笑みと共に深く頭を下げて言うと、それぞれのパーティが散っていく。
「さて、俺たちも行くか」
人が少なくなったギルド内でアタルたちは他のパーティが全員出て行ったあと、ゆっくりと動き始める。隣にいるキャロにアタルが声をかけると、彼女はにっこりと笑顔を見せて頷いた。
「はいっ! ……でも、どうしましょうか。ゴーレムがいる山は少し離れていると他の冒険者の方が言っていましたが、私たちは徒歩で行きますか?」
二人の身体能力を考えるとそれでも問題はなかったが、ゴーレムとの戦いに備えて体力を温存しておくことと、移動の時間を考えると、あまり良い案とは思えなかった。
「あの山に向かうのであれば、馬車があったほうがいいと思うぞ。ゴーレムの核も大きいしな」
そこへ声をかけてきたのはテイルだった。彼は自分が声をかけて初めてちゃんと依頼の話を聞いてくれたアタルたちにぜひとも一番多く核をとってきてほしいと思っていたのだ。
「なるほどな。金には困ってないが、馬車を買うとなると場所をとるのが面倒だな……」
彼の助言を受けて、アタルはしばし考え込む。
「あの、アタル様っ。ガイゼル様に馬車を借りるというのはどうでしょうか?」
考え込むアタルを見たキャロがいいことを思いついたといわんばかりに顔を明るくしていた。二人が護衛依頼を受けた貴族ガイゼル。何かあれば声をかけてくれと言っていた彼らであれば、馬車を借りることもできるかもしれないと考えたのだ。
「なるほどな、話だけでもしてみるか。場所は……なあ、あんた貴族のガイゼルの家を知ってるか?」
アタルは受付の女性職員に質問する。すると女性職員はにっこりとほほ笑んで頷いた。
「えぇ、ここを出て右手に向かった方向にあります。大きい家なのですぐにわかると思いますが、そうですね……門の横の柱に弓のマークが彫ってあるので、そこを探してもらえば良いかと」
特徴をよくとらえたその説明を聞いて、アタルは忘れないように脳内に刻み込んだ。
「なるほど、わかった。もし見つからなかったら、近所で聞いてみるよ。ありがとうな」
「ありがとうございました」
アタルとキャロは女性職員に礼を言うとギルドをあとにした。
女性職員に説明された通りにギルドを出て右手に曲がり、道なりに真っすぐ進んで行く。
しばらく進んだところで、あたりの様子が変わったことにアタルとキャロは気付いた。
「ここらへんは……静かだな。閑静な住宅街といった感じだ、並んでいるのは住宅というより屋敷だけどな」
その言葉のとおり、この辺りは貴族が住んでいるお屋敷エリアだった。立ち並ぶ屋敷は皆きれいに整備されており、それぞれの門には特徴的なマークが刻まれている。
「確か弓のマークが彫ってある大きなおうちだって言ってましたね……」
その目印を頼りに一軒一軒、門の横の柱を確認していく。長い耳と髪を揺らしながら、少し歩いてはじっと門を見上げるその姿はとても愛らしい。
「デカイ家、デカイ家っと……」
一方でアタルは適当に歩きながら、家のサイズを頼りに探していく。
しかし、あたりにはそこそこのサイズの屋敷が並んでいるが、とびぬけて大きな家はなかなか見つからない。
目的の屋敷が見つからないまま、どんどん奥へと向かって行くとようやくひと際大きな建物が目に入る。
「キャロ、デカイ家があったぞ」
「アタル様っ、柱に弓のマークが彫られています!」
二人が見合ってそれぞれ見つけた特徴を指し示し、一致したのが目の前の屋敷だった。周りの屋敷より一段と大きく、キャロが指さした柱には丁寧な細工と共に弓のマークが刻まれている。
「ここか、門は開いてるみたいだな。とりあえず中に入ってみるか」
貴族の家とはいっても顔見知りの屋敷であるため、門番のいない門の中へ足を踏み入れ、そのまま屋敷の扉前まで進んで行く。特に誰に咎められるわけでもなくたどり着くことができた。
「これを叩けばいいのか?」
アタルが玄関らしき大きな扉の前に着けられたドアノッカーを指さすと、キャロがこくこくと頷いている。それにアタルがドアノッカーに手をかけ、二度ほど鳴らす。
小気味いい音が響き、そのままそこでしばらく待っていると、中から急いでいるようなドタドタという足音が聞こえてきた。
「はいはい、少々お待ち下さい!」
その足音が止んだと思うと、扉の向こうの声の主は慌てた様子で鍵を開け、扉を開いていく。
「どちら様で……アタルさんにキャロさん?」
どうやら予想していた来訪者と違ったようで、ガイゼルはきょとんとしている。先ほど別れたばかりの彼らが現れたことに驚いているようだった。
「久しぶりというには少し時間が短いな。ちょっと頼みがあって来たんだが……」
「わかりました、中へお入りください」
申し訳なさそうにアタルが話し始めると、詳しく内容を聞く前にガイゼルは二人を中へと通す。
「あぁ、悪いな」
「お、お邪魔しますっ」
まさかの即答に一瞬呆気にとられるものの、ガイゼルに促されるまま二人はそのあとをついて行く。
中に入った二人はジロジロというわけではないが、それとなく家の中を観察している。
「華美なものは置いていないが、掃除が行き届いている感じだな」
「はい、すごくきれいですっ」
先導するガイゼルは二人の話し声が聞こえており、嬉しそうににっこりとほほ笑んでいた。
ガイゼルは決して金銭的に余裕があるわけではないが、それでも屋敷は綺麗にしておく。それが彼なりの矜持であった。
そうしているとほどなくして応接室にたどり着いた。扉を開けるとそこも落ち着いた雰囲気のきれいな部屋だった。
「こちらの部屋にどうぞ。……誰か! 応接室にお茶を三つ頼む!」
「承知しました」
ガイゼルのお茶の要請に遠くから女性の返事が聞こえた。
「……お茶は家人に頼むのに、玄関は自分で見に行くのか」
ようやく見れた領主らしい態度に、アタルは不思議そうにポツリと疑問を口にした。
「いやあ、私はどうにもお茶を入れるのが壊滅的でして……それにこの屋敷で一番手が空いているのは私ですからね。玄関を見に行くくらいはお安い御用です」
苦笑交じりに頭をかくガイゼルにそれは貴族としてどうなんだ? と言いたくなるが、彼の腰の低さを知っているアタルはそれを口にしなかった。
「しばらくしたらお茶が来ると思いますので、少々お待ちを……。それで頼みたいこととは一体なんでしょうか?」
ソファに腰をおろすなり、ガイゼルは早速用件を聞いてくる。促されてアタルたちもソファに腰かけた。
「あぁ、それな。実はこの街に来るまでに使った馬車を貸してもらいたいと思ってきたんだ」
「構いませんよ」
理由も条件も言っていないというのにあっさりと即答したガイゼルにアタルとキャロは驚いていた。あれだけ大事にしている馬車を貸してくれということに、いくらなんでも多少は難を示すのではないだろうかと二人は予想していたのだ。
「い、いや、ありがたいんだが、なんでとかそういうのを聞かなくてもいいのか?」
「はい、アタルさんたちにはお世話になりましたから、それくらいであればお力になりたいと思います」
護衛の件だけでなく、息子カイルに修行をつけてくれたことも彼にとっては大きな恩となっていた。それに彼らなら自分が大切にしている馬車を傷つけたりしないだろうという信頼もあった。
「そ、そうか? でも、一応事情は話させてもらうぞ」
あまりに厚い信頼を寄せてくるガイゼルの言葉に戸惑いながらも、念のためにとアタルは事情を話し始めた。
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