第三十八話
アタルとキャロの実力を低くみていたカイルの態度はすっかり改まり、二人の強さに興味津々の様子だった。最初の胡散臭いといった眼差しは消え、まるでヒーローを見るかのように目をキラキラと輝かせている。
「ど、どどど、どうして、あんなに強いんですかっ?」
街へと戻る道中、興奮を抑えきれない様子でカイルが質問をする。
「どうして、か。魔物を倒すことで、その魂の力を吸収して力が強くなる。という話は聞いたことはあるか?」
質問されたアタルがどこまで知っているのか知るために反対に質問をする。
「あ、はい! 聞いたことはあります。でも、それって強くなった気がするというだけじゃないんですか?」
そのことはカイルも知識としては知っていたが、自分で魔物を倒したことはないため、気のせいなのではないかと考えていた。
「いや、それは実際にあるんだ。そこで思い出してほしいのが、この間街が魔物に襲われたという話だ。ここだけの話、といってもあの時ギルドにいたやつらはみんな知っている話なんだが……俺とキャロはかなりの数の魔物を倒している」
そこまで聞くと、なるほどとカイルは手をポンッと打った。
「お二人はそのことにより、力が強化されているのですね……でも、その時点で魔物を倒せるだけの力があったということですよね?」
自らそのことに気付いたカイルの言葉を聞いて、彼は賢い子だとアタルはにやりと笑った。
「ははっ、そうなるよな。まあ、言ってしまえば俺の場合はさっき使って見せた武器の力によるものだ。これはとある筋で手に入れたもので、俺以外には使えない仕組みになっている。こいつが優秀だから、それだけの戦果を残すことができた」
大切そうに愛銃を撫でるアタルを見たカイルはそこで視線をずらし、彼が持っている銃をまじまじと見ていた。見たことのない形をしているそれがどういうものなのか興味津々というのがカイルの様子から見て取れた。
「私の場合は、アタル様に買って頂いたこのマジックウェポンのおかげですね。身体能力をあげる力を持つもので、そのおかげで魔物と戦うことができましたっ」
先ほどのショートソードとは違う装飾のされた短剣を大切そうに出して、キャロは自分の場合の補足をする。それを見たカイルはそんなに身長の差がない女の子が短剣で戦果を出したことに驚いていた。
「ふえー、二人ともすごいのですね。装備のおかげというのはもちろんあると思いますが、それを隠さずに話し、ご自分だけの手柄にしないところに謙虚さを感じます。通常、冒険者は自分の力や功績を誇示する方が多いので」
どこか他の冒険者と違う空気を持つ二人に対してカイルは尊敬の眼差しを送っていた。彼が最初アタルたちにいい顔をしなかったのはそういう冒険者たちのことを見てきたせいもあったかもしれない。
「まあ、褒めてくれるのはいいんだが……護衛の依頼は俺たちが引き受けるということでいいのか?」
「もちろんです!」
それはガイゼルの言葉だった。彼にしてみれば、これだけの腕前の冒険者に依頼できるという機会を逃すまいと必死だった。
「カイルが何度も失礼なことを言って申し訳ありませんでした。私は最初からお二人にお任せしようと思っていましたので、是非お願いします」
誠意を伝えようとしているのか、何度もガイゼルが頭を下げる。
それを見たカイルは、自分がこれまでに口にした言葉を思い出して恥ずかしくて顔を赤くし、失礼なことを言ったと青ざめながら同じように頭を下げる。
「すいませんでした。僕が浅はかだったばかりにお二人の機嫌を損ねるようなことを口にしてしまい……」
そんな二人を見てアタルとキャロは顔を見合わせると揃って苦笑する。
「あー、いいんだ。気にしないでくれ。自分たちの命を預ける相手の技量を見定めようという気持ちはわかるからな。ただ、今後はそのあたりを依頼に明記しておくといいかもしれないぞ。ランクいくつ以上、とか。力を確認させてほしいとか」
アタルの指摘を聞いてカイルはなるほどと頷いているが、その隣でガイゼルは難しい顔をしている。
「……ご存知だと思いますが、私の依頼は他の護衛依頼に比べて報酬が少ないのです。その上そのような条件をつけたら……」
そんなことを言える立場にないとガイゼルはそう言って悲しげに肩を落とした。
「確かに、まあ、そういうこともあるか……まあ、今回は俺たちが引き受けるからよかったとしておこう」
そんな話をしていると街に辿りつく。
「それで、馬車はあるのか?」
先ほど歩いていた時のカイルのことを考えると、徒歩ではキツイと考えたアタルはガイゼルに尋ねた。
「あ、はい。駿馬とはいえませんが一応あります。宿に預けてありますので、とりに戻りましょう……っと、出発はすぐでも大丈夫でしょうか?」
「あぁ、俺たちは大丈夫だ。そっちは準備できているのか?」
普段からアタルたちは荷物の全てをバッグに入れて持っているが、いくら金銭的に余裕がないとは言っても貴族となれば大荷物であり、それなりに準備も大変だろうと考えての質問だった。
「私たちも宿の部屋に荷物をまとめてありますので、すぐに出発できます」
苦笑交じりにガイゼルが答える横で、コクコクとカイルも頷いている。
「そうか、だったらすぐに出発するとするか」
宿に戻るとガイゼルたちは荷物を持ち、清算を済ませていた。それをアタルたちは入り口近くで待っていた。
「お待たせしました。裏に馬車がありますので持ってきますね」
足早にガイゼルが宿の裏手に向かい、馬車をとってくる間、残されたカイルの視線はアタルの銃にくぎ付けだった。
アタルの戦い方を見る限り、体力のない自分でも戦うことができるかもしれない武器。そして、実際に結果を残している。それはカイルにとって憧れであった。
「なんだ? これが気になるのか?」
「はい!」
その視線の気づいたアタルの問いかけにカイルは元気よく即答する。
「……使うことはできないが、持ってみるか?」
そんなカイルを可愛らしいと思ったアタルによる提案は彼の望むものであり、感極まったのか声も出さずに何度も頷いていた。
「ほれ、意外と重いぞ」
軽く肩からおろした銃をゆっくりとカイルへと渡す。
「やった! って重い!!」
まさか触れると思っていなかっただけに、興奮を抑えながらそっと両手でアタルの銃を受け取った。だが予想外の重さが両手にのしかかったことで、力のないカイルは必死にバランスをとろうとする。そのおかげでなんとか落とさずにすんだが、これだけのものをアタルが軽々と操ることにカイルは驚いていた。
「一般的なショートソードよりも重いはずだ。重量も俺の身体能力だから問題なく取り扱えるが、カイルには大変だろ」
いたずらっ子のような笑みを浮かべたアタルがそう言うとカイルから銃を取り戻し、いつもと同じように担ぐ。
「うぅ、その武器なら力のない僕でも戦えると思ったのに……」
銃に対する期待が儚く散ったことで、カイルはしょんぼりと下を向いてうなだれた。
「カイル、お前が運動が得意じゃなさそうなのはなんとなくわかった。その上で、それでも戦いたいというのなら、俺ができるアドバイスはあれだ。短剣でもショートソードでも槍でも……まあ、俺のこいつは他にないから無理だとして……なんでもいいから、一つを決めて使い続けろ。そして少しでも走って体力をつけろ」
慰めではなく真剣に言葉を選んで話してくれるアタルに、カイルも真剣な表情で聞いていた。貴族の息子であるがゆえにか、子供だからか、これまでこうしてカイルをそういう目で見ずに真剣に彼へ助言してくれた人はいなかったのだ。
目標を見つけたカイルは戦う力を得るために、これから日々の訓練を行っていくことになる。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




