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魔眼と弾丸を使って異世界をぶち抜く!(Web版)  作者: かたなかじ


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第三十三話


「話はこんなところだな。武器以外にも買い物をしたいからそろそろお暇させてもらおうか」

 一通り話し終えたアタルがゆっくりと腰をあげると、キャロもそれに続く。

「そんな! もっとゆっくりしていって下さい!」

 まだまだ聞き足りないといった様子で悲しげにアーシュナが止めるが、それをゆるりと首を振りながらグレインが止める。


「アーシュナ、彼らには彼らの予定というものがあるんだ。うちまで来て、話をしてくれただけでありが

たいと思いなさい」

「はい……アタル様、キャロちゃん、ごめんなさい」

 グレインに注意されたことで自分がわがままを言ってしまったことに気付いたアーシュナは素直に頭を下げた。


「いや、そんなに気にしないでくれ。むしろ、自分の都合を優先させてすまないな」

「そ、そうです。アーシュナ様、頭をお上げ下さい!」

 アタルは反対にあやまり、キャロは領主の娘に頭を下げさせてしまったと慌てていた。


「また何かあったら……いや、何もなくても気にせず寄ってくれ。アーシュナは君たちのことを大そう気に入ったようだからな。もちろん私もだがな」

「そう、なのか?」

 アーシュナは命を助けたからという理由が想像できたが、グレインに関してはなぜそう思ってくれたのかわからず、アタルは不思議そうに首を傾げていた。


「ふふっ、まあわからなくていい。そういうところが君の魅力なんだろうからな」

 その言葉に更にアタルは首を傾げるが、グレインはその様子を笑ってみていた。

「アタル様はすごいですからっ!」

 ぐっと拳を作ってにっこりと笑顔を見せるキャロにしてみれば、最低な状況から救い出してくれたアタルは尊敬の対象であり、そんな言葉がすんなりと出てくる。


「まあ、結局よくわからんがまた遊びに来させてもらうよ。それじゃあな」

 真っすぐ純真な気持ちで褒められたことにくすぐったい気持ちになったアタルはキャロの頭に手をポンッと乗せてから、ひらひらとグレインたちに手を振って部屋をあとにする。キャロはぺこりと大きく一礼すると、撫でられた嬉しさから緩んだ頬をおさえつつ、アタルの後ろを追いかけていた。

「ギール、アタル殿のお帰りだ。お見送りをするぞ!」

 グレインの呼びかけにギールはすぐにかけつけ、アタルとキャロをグレインたち三人で見送った。



「……アタル様、領主様のおうちは何度行っても慣れません」

 領主の家を出てからしばらくすると、キャロは歩きながら力を抜くように大きく息を吐いた。

 そんなに回数は行っていないが、前回も今回もキャロは心臓が爆発するのではないかというくらいの緊張の中にいたようだった。


「気持ちはわかるが、今回の戦いのほうが緊張したんじゃないか?」

「うーん、あれは命をかけているという緊張感でむしろ感覚が研ぎ澄まされる感じなのですが、領主様のおうちは何をしていいのかわからない不安と緊張といいますか」

 緊張の種類が違う、それを彼女なりの言葉で表現していく。一生懸命に言葉を紡いでいく彼女の様子にアタルもそれをくみ取ろうと耳を傾けている。


「なるほどな、わかる気はする。俺は精神的に動じることがすくないみたいで、そのへんがちょっと鈍くなっているのかもしれないな」

 驚いたりすることがないわけではないが、その基準がずっと高くなったのは神に与えられた精神的な強さの弊害だった。何かを倒すことに不安や緊張といった恐怖よりも高揚感が勝つのはそのおかげだった。


「さすがアタル様ですね」

 しかし、アタルに絶対的信頼を寄せているキャロにとってはこれも尊敬に値するものであった。

「まあ、その辺は色々あるからな……ここに寄ってみるか」

 歩いていたアタルがふと足を止めたのは、とある工房の前だった。


「武器を作ってもらうんですか?」

 それぞれが何本かの武器を購入したばかりであるため、武器屋のような看板が掲げられているお店に立ち寄ろうとしていることをキャロは疑問に思っていた。

「いや、解体用のナイフを作ってもらおうと思ってな。あの武器屋には戦闘用のものしかおいてなかったから、こういうところで作ってもらえればいい物ができるんじゃないか……ってな」

 解体用のナイフをオーダーメイドで注文するというアタルにキャロは驚いていた。わたわたと慌てているキャロは解体用に安めのナイフをあとで買おうと思っていたのだ。


「あ、あの、私、まだそんなに解体上手じゃないので、そんなに良い物じゃなくても……あぁ、アタル様! 待って下さい!」

 驚きのあまり一瞬固まってしまっていたキャロは急いで遠慮しようとするが、その理由を言おうとしていたところで一足早くアタルが店の中に入ってしまったので、慌ててあとをついていった。


「っと、誰もいないのか?」

 アタルが店の中に入ると、そこはがらんとしており、人の気配はなかった。静寂に包まれる店内は少し居心地の悪ささえ感じさせた。

「……っわぷ! ……留守、なんでしょうかね?」

 急いだあまりにちょうど入り口のあたりで立ち止まっていたアタルの背中に激突してしまったキャロも鼻を押さえながらきょろきょろと店内を見回していた。


「あらあら、すいません。お客様ですか?」

 しばらくそうしていると、奥から一人の女性が出てくる。優しそうな顔立ちで穏やかな声音の人だった。

「あぁ、作って欲しい物があるんだが……この店はそういうのは受け付けているか?」

 アタルが質問をすると女性は少し困った表情になる。


「うーん、受け付けてはいるのですが……作るかどうかは職人の気分次第というなんともしがたいものでして、私も困っているのです」

 苦笑交じりの女性にアタルはどうしたものかと一瞬悩むが、キャロが遠慮がちながらも袖を引っ張ったことで言うだけ言ってみようと決断する。


「一応聞いてみてくれるか? 解体用のナイフを作ってもらいたいんだ。使うのは彼女だ」

 彼の発言に大きく目を見開いて驚くキャロは特別なものでなくていい、そういった意味で袖を引っ張っていた。だがアタルにはそれが背中を押す形になった。そっとキャロの背を支えつつ、女性にそう告げた。


「どうでしょうか……解体用のナイフ、ですか……一応聞いてみますが、あまり期待はしないで下さい」

 女性店員が再び奥に戻ろうとするのと同じタイミングで、奥から気難しい顔の背の低い男性がずかずかと出て来た。

「断る」

 そして、出てくるや否やはっきりときつい口調でそう告げた。


「一応理由を聞かせてもらっても?」

 何も言わないうちから拒否されたことでアタルは食い下がるように質問をする。

「俺が作るのは強大な魔物を倒すための武器だ。そして、俺は使い手を見て作るか作らないかを決める。悪いがその嬢ちゃんに俺の作ったものを使いこなせるとも思えんからな」


 男性は表情を変えることなく腕組みをしてそう答えた。それを聞いたキャロは自分に力がないせいだと耳をぺたんと垂らし、縮こまるように身をすくませて落ち込んでいた。

「ふむ、なるほどな。武器を頼んだわけじゃないから、断るのは納得できる。……だが使い手を見る目はまだまだのようだけどな。まあいいさ……キャロ、別の店をあたろう」

 自分の相棒である彼女を見た目だけで嘲笑れたことに呆れたアタルの言葉に、ぴくりと眉を動かした男は気難しい顔を更に険しくしていた。


「おい、ちょっと待て。……どういうことだ? 俺は今まで何人もの冒険者を見て来た。弱い者も強い者もだ、その俺の見る目がまだまだとはお前、ふざけているのか?」

 先程のアタルの言葉はどうやら男のプライドを傷つけたらしく、アタルを見る目つきは鋭かった。怒りを含んだ言葉は納得がいかないという気持ちが強く現れていた。


「ふざけてはいないさ。ただキャロの実力がわからないようじゃ、その程度なんだろうと思ってな」

 強く睨まれようと全く気にしていないアタルはそう言い捨てて店を出ようとするが、それを許さないと言わんばかりに再び男が声をかける。

「だったらそいつの力、見せてもらおうじゃねーか!」

 男に背を向けているアタルは男に見えない角度でにやりと笑う。


「どう見せればいいんだ? そして、見せたらどうしてくれるんだ?」

「俺も元冒険者だ、俺と戦って力を証明しろ! 納得したら最高の解体用ナイフをタダで作ってやる!」

 笑みを隠して首だけ少し振り返ったアタルが聞くと、男はどんと胸を叩きながら力強く宣言した。キャロの肩を支えながら男に向き直ったアタルは満足げに微笑んだ。

「のった。……キャロ、お前の本気を見せてやれ」

 アタルが自分のことを信頼してくれていることを強く感じたキャロは先程までの不安げな表情を一変させ、真剣な表情になっていた。

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