第二百九十三話
食事を堪能したアタルたちは片づけを終えると、本題に戻る。
「食べながら話しても良かったんだが、落ち着いて話したかったから今になった」
食事中に話さなかった理由を口にしつつ、全員が聞く姿勢になっているのを一人一人の顔を見ながら確認する。
「ニャムには少し話したが、この店はいくつかのグループに狙われている。恐らくはそれぞれが貴族だったり豪商だったりと、金と力を持っているやつらだ」
ニャムは顔を青くし、カッターは首を傾げ、バンブは欠伸をしていた。
「これまたニャムには話したが、この店自体に何かあるわけじゃないと思う。俺の予想ではこの店が建っている土地に何かあるんじゃないかと予想しているんだが……何か心当たりは?」
その質問にニャムはふるふると首を横に振っていた。
「何か、何か……」
しかし、カッターは何かひっかかりを覚えて思考状態に入る。
ここに店を建てることになり、不動産屋から情報を聞き、土地を確認し、そして大工に頼んで店を建てる。
「確か、あの当時何か言われたような……?」
ふと、大工に告げられた言葉がカッターの脳裏によぎる。
仕入れの手続きなどはニャムが行っていたため、代わりに建物関連はカッターが担当しており、その時のやりとりを思い出そうとしていた。
「もしかして、店を建てる前に土地のことで何か言われなかったか? そうだな、地盤のこととか」
アタルの言葉はカッターの記憶を刺激する。
だいぶ前のことであるため、もやがかかったような記憶であったが、徐々に鮮明になっていく。
「そうだ! ……いや、そんな大したことでもなかったが……」
その時思い出した大工の言葉で立ち上がるほどに大きく反応したカッターだったが、ほんのちょっとした話であったため、思いなおして再度席につく。
「いや、それで構わない。話を聞かせてくれ」
カッターにとってはちょっとしたことであっても、それが突破口になるかもしれないと考えてアタルは話を促す。
「あぁ、本当に大した話じゃないんだが、確か建築を担当してくれた大工たちが地面の調査をしていた時に普通の場所よりも地盤が固すぎるとか言ってたな。まるで何か建物がありそうだとかなんとか……」
その言葉はアタルの予想の裏付けをするものであった。
「そうか、やっぱり何かあるみたいだな。この建物の下に」
そう確信したアタルは店の床を見る。
「だ、だだだ、ダメですよ! 床を剥がさないで下さい!」
ニャムは立ち上がり、慌ててアタルのことを止める。彼の視線を塞ぐように床と視線の間に入り込んでいる。
「まさか、そんなことはしないさ。俺たちはこの店が繁盛するように手を尽くそうとしている。それに反することなんて選択肢にはない」
アタルはニャムの不安を払拭するために、普段キャロたち以外には見せない笑顔でそう説明した。
「ですね、今回の私たちの目的は美味しいものを食べたいというものですし、是非アタル様一押しのさしみを食べてみたいですっ!」
キャロもニャムの不安を和らげるために、アタルの言葉に乗っかることにする。
二人に言われたことで、ニャムはほっと胸をなでおろし着席する。
「俺たちはそれでいいんだけど、あいつらはそうもいかないみたいだからな……どうしたものか」
アタルが腕を組んで考え込む。
全員が黙り込む中、口を開いたのはバンブだった。
「何か考えがあるんだろう? 店のことは俺に任せておけ、そんじょそこらのやつらには負けん」
それがお前の目的だったのだろう? そう言外にバンブが語る。
「ふう、かなわないな。大雑把だと思いきや、意外と繊細な一面を持っている。それは料理にも出ているし、加えてバンブが言うようにその力もあてにしているのは事実だよ」
そこまで考えていたとは思わず、ニャムとカッターはアタルとバンブの顔を交互に見ていた。
「それじゃあ、俺たちは手下どもをつぶすところから始めていくか……バル、イフリア、殺すなよ?」
立ち上がったアタルが念を押すと、二人とも心外だと眉間にしわを寄せながら頷いていた。
キャロもアタルの後をついていく。その表情は散歩にでかけるような気軽さがあった。
「俺たちがこの店に力を貸しているのはばれてる。それなりに動くことができるのも、あいつらを撒いたことでわかっただろう。だが、ここからは慎重にやっていこう」
未だ監視されている。その視線を感じながらアタルたちは行動を開始する。
距離が取られているのはわかっている。
そのため、ばれないように行動する。
「まずは、今直接見ているやつらを気絶させてくれ」
アタルが指示を出したのはバルキアスとイフリアの二人。
バルキアスは力を抑えて、小型犬サイズに身体を変化させ、イフリアも小竜状態に変化させている。
アタルとキャロはそのまま入り口から外に出て、バルキアスとイフリアは時間をあけて裏口から外に出る。
たったこれだけのことだったが、アタルとキャロという大きなエサにくいついており、監視の目も二人にだけ向いている。
自由に行動できるイフリアは隙をみて空高く飛翔し、バルキアスは足音をさせないほどの俊足で崖を駆け上がり、監視者へと走って行く。
しかし、それに監視者たちは気づくことはない。
アタルとキャロがわざと早足で動いたり、急に止まったりと見ているものが不思議に思うような行動をわざととっていたからだ。
そして、何かがおかしいと気づいた時には既にアタルの術中にはまっており、イフリアとバルキアスによってあっという間に制圧された。
もちろん指示通り、殺さずに気絶させるだけにとどめておいた。
「視線は……消えた、か。キャロ、あいつらを一か所に集めて話を聞こう」
「はいっ! なんだか、ワクワクしてきました!」
いま自分たちがしていることがスパイごっこか何かのようであるため、キャロは歳相応の笑顔を見せていた。
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