第二百六十五話
雷獣二体を横たわらせて、アタルたちは休憩をとることにした。
幸いイフリアの風の力によって空に立ち込めていた雷雲は姿を消していたため、青空のもとのんびりと休憩することができた。
時間にして、数十分ほど経過したところで伏せて休んでいたバルキアスが耳をピクリと動かしてから身体を起こす。
「お?」
その反応を見てアタルが雷獣親子に視線を移す。
「ク、クウウ……」
「クオオ」
するとちょうど目を覚ました雷獣親子。子雷獣は弱々しい声で、親雷獣はすぐに顔をあげて周囲を確認する。
「よう」
アタルが声をかけると親雷獣は敵意をむき出しにして、子雷獣はプルプル震えながら親雷獣に寄り添っている。
「あぁ、構えるなって。そう敵視しないでくれ。もう戦いは終わった、俺たちの勝ちだったけどこれ以上戦うつもりはない」
アタルの様子から敵意はないことは雷獣たちに伝わったようだったが、親雷獣はその理由が理解できずに未だ怪しいものをみるような目つきでアタルたちを警戒している。
『我が話してみよう』
サイズを小さくしたイフリアが両手をあげて敵意がないことを示しながら、雷獣の近くへ行く。
自分たちにはこれ以上戦う意思はないこと、ただしこちらが勝ったから手ぶらで帰ることはできない。
いくつか譲歩してもらえれば、これ以上危害を加えることはない。そう伝える。
しばらく考えたのち、親雷獣は子雷獣を見てから頷き、向こうからの条件を伝えてくる。
『ふむ、何を望んでいるかわからないが子どもに手を出さなければ要望を受け入れるとのことだ』
イフリアが翻訳をしてくれるが、子雷獣は自分の親が酷い目にあってしまうのではないかと怯えた悲しそうな表情になっている。
「そうか、それは助かる。だったらこちらの条件を話そう。条件は……」
アタルが条件を口にして、イフリアが翻訳し、それを雷獣が受け入れる。その判断は早く、即決で頷いていた。
条件が締結され、すべてがクリアされたことでアタルたちは下山する。
「うふふっ」
帰りの馬車でアタルの隣に座ったキャロが不意に笑った。
「なんだ? あっ、さすがに帰りはみんなのことは撫でてやらないからな?」
アタルがそんなキャロの反応を見て、山に向かった時と同じことにならないように事前に釘をさす。
「もうっ、心外です! 笑ったのは、アタル様ってすごいなあって思ったからですよ」
一瞬怒ったキャロだったが、すぐに笑顔に戻っていた。
「すごい?」
首をかしげるアタルだったが、キャロは笑顔で頷いているだけでそれ以上は説明しなかった。
『ううん……』
すると、後ろからバルキアスが寝ぼけたような小さな声を出す。
「起きたか?」
「……少し身体を動かしただけみたいです」
こっそりと後ろを振り返り、小さな声で確認するアタルとキャロ。
バルキアスとイフリアは身を寄せ合いながら馬車の中でぐっすりと眠っていた。
結果としては圧倒的な戦いであったが、二人とも戦闘中は常に集中して戦っていたため、疲労の色が濃かったようだ。
「今日は二人ともいい働きをしてくれたよ。竜との戦いでもかなり頑張ってくれたが、今回は二人だけで戦ったからな」
自分たちだけでもやれるということを示してくれたことは大きな成果であり、二人の戦いぶりは自分たちと肩を並べて戦うに十分なものであるという証明にもなっていた。
「二人とも恰好よかったですね。イフリアさんはもっと恰好つけたかった感じでしょうけど、ふふっ」
キャロは戦いを終えた時に見せたイフリアの不満そうな表情を思い出していた。
「まあ、わからなくもないけどな。それでもあれだけの強敵に、あれだけの結果を残せれば十分だ。それに、イフリアのためにかった腕輪がかなりの掘り出し物だったのも今回の収穫だ」
ザイン山に登る前、アタルたちは街をめぐって自分たちの装備を整えていた。
マントとベストは防具屋で購入した。
しかし、イフリアの腕輪は魔道具屋で購入したものである。
能力に関しては、風の魔道具であり、サイズによって効果が高くなり、流した魔力によっても効果が増す。
普通の人や多少大柄な者が身に着けても大きく効果はあがらず、魔力を流すといっても相当な量の魔力でなければ大きな変化は認められなかった。
それゆえに、その真価を知らぬものも多く、この腕輪が置かれていたのは格安お得コーナーだった。
「あれだけの魔道具で、イフリアのサイズに合わせても問題なくサイズが変更されて、それでいてあれだけの威力を発揮して、更に言えば全く破損した様子がないからな」
あれほどの暴風を巻き起こすほどの魔力を流されたというのにイフリアの腕にはめられているソレを見て、傷一つないことにアタルは肩を竦めていた。
「もしかしたら高名な方が作られたものの、うまく使える方がいなかったのかもしれませんね」
キャロがそう言いたくなるほどに、強力で頑丈な腕輪だった。
「金は持ってるけど、こうやって珍しい強い装備が格安で手に入るのは嬉しいものだな」
「はいっ!」
二人が自分たちの目利きで発見した装備だけあり、その喜びもひとしおだった。
「さて、あとは冒険者ギルドとのやりとりをうまいことしないとな」
「ですねっ! でもアタル様ならきっとなんとかしてくれます!」
笑顔で言い切るキャロはアタルを信頼しており、きっとアタルなら全て丸く収めてくれるだろうと信じていた。
どうしたものかと考えながらも、アタルもなんとかなるだろうと思い、ゆっくりと馬車を街へと向かわせていた。
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