第二百六十三話
「……こうきたか。まあ、あの一体だったら他の冒険者でもやれなくはなさそうだからな」
アタルは巨大な雷獣。おそらくは親だと思われるソレを見てつぶやいた。
「この大きさは、ちょっと厄介ですね」
キャロは起き上がってすぐにアタルのもとへと戻ってきていた。警戒しながら雷獣の親と思われる存在を睨んでいた。
「親子でいるとはな……二体同時に相手をするのはかなりリスクが高いな。――それに、もしかしたら」
そう言って目だけを動かしつつアタルは周囲に視線をめぐらす。
「……まだ、いますかね?」
キャロも周囲の気配を察知しようと集中しながらアタルに小さな声で質問する。
「あー……ダメだな。雷が多すぎる上に、雷の中には魔力がこめられてるのもある。これじゃあ、この場の魔素の流れが乱れていて読めないな。キャロはどうだ?」
「すみません、私もダメです。雷自体が強い存在感を持っていて、気配がうまく感じ取れません……」
このパーティのメインであるアタルとキャロが険しい表情で、親子の雷獣を見ている。
その様子を見たバルキアスとイフリアは一瞬視線をかわして頷きあった。
『小さいほうは僕が』
『デカいほうは我が』
そうつぶやくと二人はそれぞれ子雷獣と親雷獣に向かっていく。
この時点でイフリアは本来のサイズに戻っていた。
「バル! イフリア!」
「そんな、二人だけで!」
アタルとキャロは勝手に動き出した二人に驚き、そして心配から大きな声を出してしまう。
しかし、バルキアスは神獣フェンリル。イフリアは霊獣フレイムドレイクという特別な種である。
あまりに身近にいるため、アタルもキャロもそれを失念していた。
『正直、僕たちのほうが!』
『格上ということだな!』
楽しげな雰囲気と共にトップスピードまでギアをあげたバルキアスは、そのまま子雷獣の首元に食らいつくように噛みついて走り抜ける。
親雷獣との距離をとるための判断、加えて鋭い牙によって子雷獣にダメージを与えていた。
『ふう、これでイフリアの邪魔にならない場所までこられたね。――さあ、やろうか』
子雷獣を放り投げて、ニヤリと笑ったバルキアスが子雷獣を挑発する。
牙によるダメージといっても、攻撃のための行動ではなかったため、傷は浅く、子雷獣はすぐに立ち上がってバルキアスを睨みつけていた。
『来ないなら、僕からいくね』
気合をため込んだバルキアスは、軽くステップを刻んで子雷獣へと迫る。
その速さは目にもとまらぬものでアタルたちでようやく追えるほどの身のこなしだった。
「クオオオオオ!」
急に襲い掛かった痛みに苦しみの鳴き声をあげる子雷獣。するとその声に呼応するように無数の雷が周囲に降り注いでいく。
『すごいね、でも!』
まるで遊ぶかのように雷を避けたバルキアスは、子雷獣の周りに降り注ぐ雷に躊躇して足を止めるどころか、速度を上げて子雷獣に向かっていく。
「バル君!」
その様子を見てキャロが声をあげ、そして何かできないかとバルのもとへ行こうとする。
しかし、アタルによってそれは止められることとなる。
「キャロ、大丈夫だ、落ち着け。バルは戦う力が十分ある、それに頭も悪くない。普段の言動は子どもであるがゆえに幼稚なところもあるが、それでもずっと俺たちと一緒に戦ってきたんだ――信じてやろう」
ハッとしたように振り返ったキャロの先で悠然と立つアタルはバルキアスの行動を見ても動揺せず、彼の勝利を信じているようだった。
「バル君……」
アタルの言葉、そしてバルキアスの表情を再度見て頷くと、キャロは身体の前で手を組んで見守ることにする。
バルキアスの親から預かったという責任から心配だという気持ちを抱えつつも、キャロもまたバルキアスの成長に胸を熱くしていた。
『雷に当たったら、痛いよね!』
空から雨のように降り注ぐ雷を軽やかなステップで素早く避けていくバルキアス。
まるで、どこを通れば雷に当たらないか――その道筋が見えているようだった。
「ク、クオオオオ!」
攻撃の当たらない苛立ちに吠えながら子雷獣は更に雷を落としていく。
そのほとんどをバルキアスは避けていくが、角から発せられた変則的な動きの雷は予想外だったらしく、避けることがかなわない。
『そんなのもできるんだ……でも、きかないよ!』
感心したようにその雷を見つめながら、バルキアスは姿勢を低くして、雷をその胴体で受ける。
雷耐性の効果が付与されたベストは雷獣が角から放った雷を防ぐ。
しかし子雷獣の雷は強力であり、ベストだけでは受けきることができない。
それでもバルキアスは雷をものともせずに子雷獣に迫っていた。
「す、すごいっ!」
キャロは驚き、そして称賛の言葉を口にする。
「さすがです! アタル様!」
そして、視線はアタルに向いていた。
「まあ、予想通りの展開ってことだな。誰がこうなるかはわからなかったが、バルにダメージがないようでよかったよ」
アタルとキャロのマント、バルキアスのベストは雷を受けた場合のダメージを”軽減”させるためのものであり、完全に防げるとは誰も考えていなかった。
『――雷に強くなってる僕は、無敵だああああ!』
事前にアタルが雷耐性強化弾を使用していた。バルキアスのベストに、そしてバルキアス自身に。
「無敵は言いすぎだが、さすがだな。フェンリルは雷耐性が強いと聞いておいてよかったよ」
キャロにもイフリアにも耐性強化は施していたが、バルキアスは群を抜いて雷に強かった。
だからこそ雷耐性強化弾という特製の弾丸をこしらえたのだ。
『うおおおおおお!』
子雷獣の雷などものともせず、鋭く伸ばしたバルキアスの爪が子雷獣に襲い掛かる。
一撃にとどまらず、二撃、三撃、四撃、五撃、六連撃が子雷獣の身体を切り裂いていく。
「クオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
次々に襲い来るバルキアスの猛攻を全てその身に受けた子雷獣はのけ反りながらひときわ大きな声をあげると、力尽きたようでその場にバタリと倒れこんだ。
『……うん、やったー!』
倒れこんだ子雷獣を足でぺしぺしと叩いたバルキアスは完全に意識がないのを確認してから喜ぶが、子雷獣が倒されたことは、つまり親雷獣の怒りに火をつけたことになる。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
自らの子が倒れたことにショックを受けた親雷獣は怒りから雄たけびのような声で叫び、バルキアスを睨みつけると強力な一撃を放とうとする。
『――おっと、お主の相手は我だということを忘れないでもらおう!』
しかし、それはイフリアによってさえぎられる。
邪魔をするなといわんばかりの怒りに満ちた目でイフリアを睨みつける親雷獣。
――雷獣と霊獣フレイムドレイク、本気の戦いが始まる。
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