第二百二十七話
それからアタルたちが警備隊の詰所へ誘拐犯たちを連れて行くと、急いで駆けつけた様子のドウェインが対応をしてくれた。
「さっき出て行ってから、そんなに経っていないというのにもう一つ拠点を潰したのか……」
アタルたちの余りの早さにドウェインは呆れ、ジトっとした目で見ていた。
「まあ、目的は達成できなかったけどな。とりあえず俺たちは次の拠点に行ってくるから、悪いがその間にあいつらの尋問をしておいてくれるか?」
ぽいぽいと誘拐犯たちをドウェインに押し付けると、警備隊の者たちが慌てた様子で対応していく。
次へと気持ちを切り替えるアタルを見て、ドウェインはきっとすぐにまた戻ってくるのだろうとため息まじりに頷く。
「はあ、わかった。……それで、何を聞いておけばいい?」
「そうだな、他の拠点について、誰が元締めなのか、組織の規模について、その他諸々といったところか。タロサが教えた場所以外にもあるかもしれないからな」
少し考えたのちにそう告げたアタルは、タロサの情報を全て鵜呑みにしているわけではないようだ。
「――あいつの言ったことが嘘、だと?」
アタルの言葉に引っ掛かりを覚えたドウェインは訝しげな表情で質問をする。
先ほどアタルたちが向かった拠点が本物だったため、嘘であると判断する理由がないと考えていた。
「いくつかの拠点は吐いたが、それが全てだとは限らない。……あいつは話している時に、少し楽しそうにしていた。自由が増えるからだとも思ったが、俺があいつに礼を言った時、一瞬悪い笑いを浮かべていた。つまり、俺のことを騙せたことを喜んでいたんだよ」
やれやれと緩く首を振ったアタルは肩を竦めてそう説明する。
「そ、そんな反応まで見ていたのか……」
そこまで気づかなかったドウェイン。彼自身もタロサの尋問に同席していたが、便宜を図ることにつられて全て白状したと考えていた。
「まあ、絶対というわけでもないが、反応を確認していたからな。そもそも、あいつを捕まえたのは俺だ。その俺に対して完全に友好的になるとは思えないからな。それにプライドも相当高そうだ」
タロサの顔を思い浮かべながらそれを聞いたドウェインは、なるほどと頷く。
「じゃあ、あとは頼んだ。――キャロ、バル、ジャル、行くぞ」
必要な情報を交換し合えたと判断したアタルは、踵を返して警備隊詰所をあとにする。
ドウェインはその背を見送りながら、尋問へ向けて思考を切り替えると警備隊の建物の中へと戻った。
「それでは、早速次の場所に行きましょうっ!」
次の拠点に向かう道すがら、むんっとキャロは力こぶを作って、気合が入っているのをアピールした。
少しおどけた様子なのは、ジャルを元気づけるためだった。
「ふふっ、キャロさんすごく元気!」
その目論見は成功し、バルキアスの上に乗っているジャルも自然と笑顔になっていた。
ジャルが心を開き、懐いているキャロが明るく振る舞うことで、彼女も元気が出てきたらしく、バルキアスの上できゃっきゃと笑っていた。
「……さすがだな、俺には無理な芸当だ」
二人のやりとりを見て、柔らかい表情をしたアタルは感心していた。
キャロは先ほどの誘拐犯たちの拠点に姉がいなかったことで、ジャルが落ち込んでいるのがわかっており、心に大きな不安を抱いているのを感じとっていたようだ。
その気持ちを少しでも軽くできるようにと明るく声をかけている。
可愛らしい見た目のキャロが少し大げさなリアクションをすることで、ジャルの笑顔を引き出していた。ジャルの寂しさや不安を感じ取ったバルキアスもキャロに合わせてわざと身体を揺すったりすることで、キャロの手助けをしている。
その様子はアタルから見てとても微笑ましかった。
奴隷少女として不安におびえていた彼女を知っているからこそ、いまこうして誰かを励ますために一生懸命になれていることは彼自身も嬉しく思った。
「――ですねっ、アタル様っ!」
そんな風なことを考えていると、キャロから急に話をふられたことで虚をつかれる。
「……ん? なんだったかな? すまん、少し考え事をしていた」
それまでの話の流れがわからなかったアタルは、素直に謝って内容を確認する。
「いえいえ、大丈夫ですよっ。 あのですね、私も色々大変だったんだよってジャルに話していたところなんですっ」
アタルの思考の邪魔をしてしまったのではないかと慌てて詫びたキャロは、ふにゃりと笑って奴隷時代の自分のことをオブラートに包みながら話していたことを彼に告げる。
「アタル様に出会わなければ、私は今も辛いままだったと思います……」
先ほどまであんなに笑っていたキャロの顔に少し暗い陰がさす。
「キャロさん……」
それにジャルはつられて、暗い表情になってしまった。バルキアスはどこか不安そうに尻尾を揺らす。
「まあ、そんななかったことを考えても仕方ない。今俺たちはこうして一緒にいるんだから問題ないさ」
辛そうに笑うキャロを励まそうと、アタルはキャロの頭を撫でる。
キャロはハッとしたようにアタルの顔を見上げ、優しく微笑む彼に心が温まっていくのを感じた。
「そして、それはジャルのお姉さんも同じだ。絶対に助けるからな」
今度はジャルの頭に手を置いて優しく撫でた。
出会ったばかりであれば、ジャルはアタルの手を払いのけたであろう。
だが、今はアタルやキャロやバルキアスに対して信頼の気持ちが強くなってきており、大きく温かなアタルの手の感覚をかみしめつつ、静かに撫でられていた。
これを見て、キャロは先ほどのアタルと同様のことを思っていた。
「――やっぱりアタル様にはかなわないです……」
それは悔しさというよりも、さすがだなという気持ちが強かった。
「……ん? 何か言ったか?」
「いえっ、やっぱりアタル様はアタル様だなと再認識したところですっ!」
嬉しそうにぱぁっと弾けるような笑顔を見せたキャロに、何を当たり前のことを? とアタルは首をかしげるが、その反応がおかしかったらしく、彼女はくすくす笑っていた。
「――さて、そんな話をしていたら地図の場所についたみたいだぞ。ここはわりとわかりやすかったな」
角を曲がったところでアタルが足を止める。
その視線の先にある建物がタロサに教えられた拠点だった。最初に向かった拠点よりかはいくぶんこぎれいな建物だ。
「少し、急いだほうがいいかもしれないな。ジャル、バル、二人はさっきと同じようにここで待っていてくれ」
何か嫌な予感を感じたアタルはささっと指示を出すと、足早に建物に近づいていく。武器を構えたキャロもそのあとをついていった。二回目ともなるとジャルは大人しくバルキアスとともに身をひそめた。
建物は一見すると倉庫のような見た目をしており、入り口の門は重く閉ざされている。
「――キャロ、頼む」
扉は小さな南京錠で閉ざされているため、彼の小さな頼みに頷いたキャロは鋭い一撃でショートソードでそれを真っ二つにする。ぽろりと支えを失った南京錠をアタルがキャッチして適当なところに放り投げる。
侵入方法を作った二人は、敷地内の気配を探っていく。
「……中からは二十人ほどの気配がありますね。恐らく半分は誘拐犯で、もう半分が囚われた人だと思いますっ」
「あぁ、俺も同じ考えだ。今回も迅速な対応で行くぞ……あー、念のため言っておくが、今回も犯人たちは確保する――殺すなよ?」
厳しい表情で気配を探っていたキャロが内部の様子を告げる。続いたアタルの言葉に、一瞬ビクリとするキャロだったが、振り返るとふわりとした笑顔で頷いた。
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