第百九十六話
翌日、アタルとキャロとバルキアスの姿は王城の謁見の間にあった。
「――して、本日はどういった用件だ?」
迎えたのは王。
なぜ三人がやってきたのかを聞いていないため、不思議そうに質問を投げかけた。
「今日はちょっと気になることと、商売になりそうなことを思いついたもんで来てみた。別に難しければお蔵入りにしてもらって構わないんだが」
それを決めるのは王自身だとでも言わんばかりにアタルは他人事のような言葉だった。
「ふむ……まずは聞いてみないことには始まらない、か。良い、話してみよ」
今回は列席している者は少ない。
あくまで王とアタルたちの内々の謁見ということであり、手の空いた大臣と将軍が一人ずついるだけだった。なんの偶然か大臣も将軍も巨人族だった。
「あぁ。――俺たちはこの間とある貴族と話をとりつけて、巨人族のエリアへの入場許可証をもらった」
アタルは話を思いついたきっかけ、その始まりから説明していく。
「そこでたまたま出会った商人に街を案内してもらったんだ。食事や道具に武器防具、その他にも巨人族には当たり前となっている文化を色々と見て来た」
この話を王たちは別段珍しくない話だと聞いている。
「俺とキャロは商人の案内のおかげで、今までに見たことのない色々な場所に行くことができた。その上、店員とも色々と話をすることができてものすごく楽しかった」
アタルは昨日のことを思い出しながら話しているため、いつのまにか自然と笑顔になっていた。キャロもアタルの隣で同じように微笑んでいる。
しかし、何が楽しかったのかイマイチピンとこない王たちはそろって首を傾げていた。
「あー、お前たちが楽しかったのはわかったが、それを聞いても俺たちにはその楽しさは伝わらないぞ?」
それを聞いてアタルはにやりと笑う。
「そうなんだよ。俺たちにしたって、自分たちが普通に生活をしているところを見られて楽しい、面白いって言われても同じように首を傾げる」
ではなぜ? そう王たちは疑問を顔に浮かべている。
「自分たちには当たり前のこと過ぎてわからないことなんだよ。俺もキャロも最初はただすげーなって観光できればとだけ思っていた。だが、知っている者の案内があることですげーな、に加えて楽しい、面白い、他には何があるんだ? とどんどん好奇心が刺激されたんだ」
熱のこもったアタルの言葉に大臣は、これはもしかしたらと思い始めている。
「ここでポイントになるのが、巨人族のエリアっていうのは貴族に許可を得た商人、それに俺みたいに特別に入場許可証をもらったやつだけが入場を許されるということだ。つまり、それ以外のやつらは知ることができない」
知らない者からすれば面白い、そして知らない者が圧倒的に多い。この二つの事実を聞いて大臣は理解したようだった。
「大臣さんはわかったみたいだな」
アタルの言葉を受けて大臣は頷く。王と将軍は驚いて大臣を見ていた。
「えぇ、つまりは観光を売り物にしろということですね。確かにその案は我々では思いつかないことです。先ほどおっしゃったように当たり前のことですからね。それを面白いとは思わないのが普通です」
大臣は淡々とした口調だが、興味を持った表情でアタルの案について口にする。
「アタルさんと同じ案を今まで誰も出さなかったのは、城勤めの人族などは我々巨人族と触れあう機会があるため、そういった感動はないと思います、貴族も同様ですね。アタルさんは初めて見た巨人族の暮らし――更にいえば道案内人がいたことで感動も大きかったのでしょう」
大臣のその言葉にアタルとキャロは頷いていた。
「で、それをどう商売にするんだ?」
そんなものなのか、程度に考えていた王はアタルが言った商売という言葉に立ち戻る。
「まずは許可証なしに入場できるようにする」
「――それは!」
将軍が思わず声をあげるが、アタルはそれを手で制する。
「もちろん、無条件に誰でもということにはしない。巨人族、人族の案内人をつけるし、もちろん観光料を払ったものだけだ。それに一度に大勢入れても管理が大変になるだけだからな。一日に多くて数人程度にするんだ」
アタルの案に今では王も大臣も将軍も興味津々だった。
「そ、それならもう少し多くても大丈夫なんじゃないか? なんだったら数人を数回にわけてもいいだろ」
当たり前に存在していたものから王は金の匂いを感じ取って、少し前のめりで議論を始める。
「まず、最初にこの観光ツアーがなかなか参加できないという希少なものであるというアピールが必要だ。いつでもいけるのであればいつでもいいと思うのが人間ってものだからな。それに、最初のうちは少人数じゃないとその状況に慣れていない巨人族から不満があがってしまう。自分たちは見世物じゃないという風にな。こういった大きな変化は少しずつやるのが望ましい」
一度に大きく動いて失敗することはよくあることであるため、アタルは慎重に行くべきだと提案する。
「それと、案内する側も大事だ。ただ巨人族が案内するだけでは、何が面白いのかを理解していないから難しいだろう。だから人族で案内をできるものをつけるべきだ。――俺たちを案内してくれた商人のような人をな」
アタルの話は現実を見ており、一気に金を回収しようとは考えていない。少しづつ互いが歩み寄っていき、その末に利益が出ればいいと思ったのだ。
「な、なるほど……しかし、入場許可証がない者をいれるのは……」
入場許可証は一定数しか発行されておらず、おいそれと手に入れることはできない。簡単に手に入れたアタルたちが例外だった。将軍は巨人族たちが入場許可証で守られてきたことを知っているため、いまだ悩んでいるようだ。
「それは新しいルール作りが必要だろ。ある程度の料金を払えば一日入場許可証を発行するとかな」
そこからはアタルの案をどう実現させるかという話し合いにシフトしていった。
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