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魔眼と弾丸を使って異世界をぶち抜く!(Web版)  作者: かたなかじ


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第百六十四話


 それからはアタルもキャロも、そしてバルキアスも含めて職人と作成依頼者であーでもない、こーでもないと夜通しどう作っていくかの話し合いは続いていた。

 そして、一通りの話が固まると職人はそれぞれの工房に籠り、生まれ変わった工具と共に作業に取り掛かっていく。


「あいつらすごいな。俺たちと同じでほとんど寝てないっていうのに、もう作業に入るのか……」

 アタルはブラウンとテルムが熱意に満ちた真剣な表情で素材の加工に向かう姿を見て、呆れと感心の呟きを漏らす。

「二人は根っからの職人ですからねえ……私たちは休みましょうか。ふわぁぁ……」

 苦笑交じりに作業中の背中を見つめるナタリアは急激な眠気に襲われて思わずあくびをしてしまっていた。慌てて口をおさえて恥ずかしそうに照れ笑いを見せる。


「そうだな、俺たちも休ませてもらおう。バルは……」

 気づくと疲れからかバルキアスは完全に眠りについていたため、どうしたものかとアタルが腕を組む。

「バルくんは私が連れて行きますねっ」

 ぴょこんと耳を揺らしながらアタルの視界に入ってきたキャロは優しくバルキアスを腕に抱え、アタルに微笑んだ。


「それじゃ、また明日というか昼ぐらいになるかもしれんが、その頃に顔を出すのでいいか?」

 キャロに微笑み返すと、ようやく落ち着いた状況に気が緩んだのかアタルも眠気がこみあげて来て思わず目を押さえる。

「はい、それで大丈夫です。ではまた、明日……」

 眠たそうに頷いたナタリアはそのまま近くにあったソファにゆっくりと崩れ落ちると、そのまま眠りについた。


「ナタリアもお疲れ様だな。キャロ、行くぞ」

「はいっ」

 近くにあった毛布を彼女にかけてやったあと、アタルたちは宿に戻って行った。







 翌朝、いや翌昼になった頃にアタルたちは再度ブラウンズ工房にやってきていた。思っていた以上に疲労がたまっていたようで、昼頃までなかなかベッドから抜け出せなかったのだ。

「……なあ、ずっとやってるのか?」

 心配そうにアタルが声をかけた相手は工房の主であるブラウンだった。彼は素材の基礎的な加工を終えており、防具の作成に取り掛かっていた。


「ん? あぁ、来ていたのか。休憩はしたぞ……一時間程度の仮眠はとった」

「それを休憩というのか……?」

 大丈夫なのかとアタルは頭に疑問符を浮かべたが、目の前のブラウンの顔からは疲れを感じることはなく、むしろ気力に満ちているように見える。


「こんなもんだぞ? というか、俺はやる気にならないと仕事をしないからな。お前たちが来るまではずっと休業していたから体力もありあまっているんだ。それに、俺は巨人族の血をひいているからな、見た目以上の体力がある」

 自分の尺度で考えていたアタルだったが、巨人の血という言葉を聞いてそういうものかと納得する。


「だが、完成まではさすがにまだ時間がかかる。手伝ってもらうこともこっちはないからテルムのほうを見に行くといいんじゃないか?」

 そう話しながらもブラウンは作業の手を止めずにいた。テルムはブラウンとは違い、彼ほどの体力があるとは思えなかったため、同じように作業していないか心配になった。


「そうだな、それじゃあっちも見てくるよ」

 アタルも武器のほうの進捗が気になっていたため、テルムの様子を見に行くことにする。

「ブラウンさん、よろしくお願いしますっ」

 キャロも、バルキアスも頭を下げてブラウンの工房をあとにした。


 ブラウンは三人が出て行ったあともひたすら手を止めずに作業を続けていく。自分が今まで作った中で最高峰のものを作れるかもしれない。その手ごたえが与えてくれる思いから手を止めるのがもったいないと思っていたのだ。







 アタルたちがテルムの工房に辿りつくと、こちらでは受付でナタリアが押し寄せる客の対応におわれていた。

「ですから、今は一時的に受注をストップさせてもらっているんです。あの作業音は別の作業なんです。そうです、テルム本人の希望なんです」

 次々に質問してくる客たちを相手に、ナタリアは額に汗を浮かべながらも丁寧に返答をしていた。奥の作業場の方ではテルムが真剣な表情で作業をしているのが見えた。


 この状況にアタルたちはどうしたものかと困り顔になるが、裏から入るようにナタリアのアイコンタクトがあったため、他の客に姿を見られないように外へ出ると裏手へと回っていく。

「すごいたくさんのお客さんでしたねっ」

「あぁ、ブラウンと違って定期的に依頼を受けていたのかもしれないな」

 実際、アタルの予想のとおりであり、テルムは特別な武器を作る時以外は定期的に武器の作成をしていた。しかし、今は新素材による新規武器の作成にかかりきりになっている。テルムの腕前を知っている者たちからすれば今の状況は思わず問い詰めたくなるようなものなのだろう。


 アタルたちが裏手から工房に入り、表から見えないように作業場に向かうとテルムが必死の形相で武器の作成を行っていた。

「はぁはぁっ……これは、きついね……っ」

 基本的な加工についてはブラウン同様終えていたが、そこから武器にするのが大変だったようだ。浮かぶ汗を拭いながら息を乱している。


「……これは確かに大変だな」

 加工用の工具に関してはアタルが改造をしていたが、武器作成の道具に関しては一切手を加えていなかったため、加工には工具とテルムの力だけが頼りになっていた。


「テルム……おい、テルム!」

 かなり集中していたせいか最初の呼びかけではテルムから反応がなかったため、アタルは語気を強めて呼びかける。

「えっ? あ、あぁ……これはこれはアタルさんにキャロさん、それにバルキアス君」

 やっと気づいたテルムはゆっくりと作業の手を止め、苦笑交じりにアタルたちへ視線を向けた。


「はぁ、よっぽど集中していたみたいだが……それで作業は進むのか?」

 疲労の色が濃い顔、すり減ってきている工具、どちらを見ても進捗が順調であるようには見えなかった。

「ははっ、いや、まあ、なんとか……ね」

 集中が切れたテルムからはすっかり力が抜けており、乾いた笑みと力のない返事が返ってくる。


「……テルム、お前は休め。まず飯食って少しでもいいから横になって寝てこい。その間に俺が道具を用意してやる、鉱石もらうぞ」

 テルムの手から工具を奪い取るように取り上げ、あえて強い口調で言い聞かせたアタルは近くの机の上にあった昨日の金剛石を手に取ると、削り出しの作業に入った。

 あっという間の出来事に取り残されたテルムは困惑しつつ立ち上がる。

「い、いや、でも……」

「はいはい、テルムさんは休憩ですっ。アタル様が準備できるまであっちに行きましょう!」

 それでも作業をしないとと引かないテルムの背中を笑顔のキャロが捕まえて、応接室へと強引に連れて行った。


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