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魔眼と弾丸を使って異世界をぶち抜く!(Web版)  作者: かたなかじ


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第百五十九話


いつしかブラウンとテルムの二人は周りの声が届かないほど談議に熱が入ってしまったため、アタルたちは別の部屋でお茶を飲んでいた。


「すいません、あの二人が揃うといつもああなんですよ」

 アタルたちが飲んでいるお茶を用意してくれた女性は苦笑交じりにトレイを抱きしめつつ謝罪した。視線の先にいるブラウンとテルムは時折言い争うほどヒートアップしては、次の案を出して冷静になり、また議論が発展していく。

「なるほど……まあ、初めての素材を加工するってなったら仕方ないのかもしれないな」

 そっとお茶を口に運びながら、アタルも小さい頃新しいおもちゃを手に入れるとそれに夢中だったことを思い出していた。


「二人の会話からおおよその部分は見当がついていますので、私のほうで武器についての希望を確認しておきたいのですが構いませんか? ……えっと、私のほうは名乗っていませんでしたね、この工房のサブマスターをやっています、ナタリアと申します」

 柔らかく微笑んでそう名乗り、ゆったりとお辞儀をすると後ろで縛っているナタリアの長い髪が揺れる。耳の特徴を見ると彼女はテルムと同じエルフのようだった。


「えっと……お二人はエルフの方です、よね?」

 ブラウンがこの国にいる理由は巨人族のハーフだからと予想できるが、エルフがこの国で武器職人として生きていくのは大変ではないのか? 案じるような表情でキャロは疑問に思ったことを問いかける。


「あー、よく聞かれるんですよね。色々な国で鍛冶師としての修行をしていたんですが、この国に来てブラウンさんと出会ったテルムが意気投合しまして、その流れでこの国で店を構えることになったんです」

 明るく説明するナタリアは当時の事を思い出したのか苦笑していた。今にしてみれば良い思い出、しかし急に決定したことには当初困惑していた。それらの思いがありありと顔に浮かんでいた。


「まあ、それ以外にも色々とあったんですけどね……さあ、それはさておき、お二人の武器の希望を確認していきましょう」

 彼女はこの工房で主に客の要望の確認を聞く役目を担っていた。折衝も行えるブラウンと違って、テルムは完全に職人気質だった。ナタリアがそのあたりをサポートしているのだろう。


「そうだなあ、俺のほうはいざという時に使えそうな小型の武器がいいかもな。そもそもが遠距離攻撃がメインで、武器も俺だけが使えるオンリーワンのものだから……」

 見た方が早いだろうと判断したアタルはナタリアに見せるため、愛銃をテーブルの上に置いた。


「これは……見たことのない武器ですね……独特のオーラを感じます。使い手を選ぶものの強力な力を持っている。そういった印象ですね」

 初めて見る驚きと見知らぬ困惑の色に表情を変えたナタリアは特に鑑定能力を持っているわけではないが、やはり職人ならではの目を持っているため、アタルの銃が秘める力を見抜いているようだった。


「すごいな、何も説明していないのにわかるのか……詳しいことは言えないが、俺以外には扱えないようになっている。それで、これが遠距離武器としては恐らくこの世界でも上位に位置すると思っている」

 淡々と話すアタルの言葉が決して大げさではないとナタリアは理解している。


「わかりました。それではアタルさんは携帯しやすい、小型の武器が良いみたいですね……キャロさんはどのようなものがよろしいでしょうか?」

 至極簡単なやりとりだったが、ナタリアはアタルの言葉以上のものをメモしているようだった。真剣な表情で書き留めたのち、キャロの方へ柔らかな笑顔を向ける。


「そうですね……あ、あのっ、一つではないのですがよろしいですか……?」

 キャロは普段から二剣を使っていたり、能力があがる短剣なども使っているため、もし一つしか駄目だとなれば、選別が必要だった。


「ちらっと見た限りではかなりの量の素材があったと思いますので、何本か用意できると思いますよ。もちろん三桁用意しろと言われたらさすがに無理でしょうけど……」

 さすがにそんなことは言いませんよね? という意味を込めた笑顔をナタリアはキャロに向ける。


「そ、そうですね、さすがに三桁は……って冗談なんですか!?」

 真に受けてしまったキャロは笑っているアタルとナタリアを見てようやくからかわれたのだと気づき、ぷくりと頬を膨らませていた。

「すいません、可愛らしい方ですのでつい意地悪をしてしまいました。……それで、キャロさんは複数の武器を作るとしたらどういったものがよろしいのでしょうか?」


 今度はからかいのない真面目な質問だったため、気を取り直したキャロは顎に指をあてながら考え込む。

「……私にも短剣の武器を二本、できれば今使っているものよりも強力なものが欲しいです。欲を言えば、身体機能強化などの特殊な効果があればより望ましいかなと。ちなみに、今使っているのはこれになりますっ」

 キャロは自分が使っている武器を並べていく。どこに隠していたのかと思うほど次々に出されるそれらに今度はナタリアが驚く番だった。


「こ、こんなに使っているんですか……確かに魔道具も含まれていますね。これなら……うん、大丈夫だと思います。これと同じ数の武器を用意すればいいですか?」

「い、いえいえっ、短剣を二本に通常の片手剣を二本用意して頂ければ十分ですっ」

 慌てたように取り繕いながらキャロ自身控えめに言ったつもりだったが、四本の武器を注文したと考えるとかなりの量だった。


「はい、承知しました。もし素材が足りない場合は、そちらにストックはあるのでしょうか?」

 作る武器の数が多いため、今ある素材だけでは足りないかもしれない。そのためにナタリアは予備の素材の確認を行うためにアタルへ視線を流す。


「あぁ、持ってきたのはブラウンが選別したいくつかだけだ。いくらでもというわけにはいかないが、ある程度の素材は用意してある」

 アタルが頷きつつ答えた内容に安堵したのかナタリアは大きく頷く。


「それなら大丈夫ですね。詳しいデザインや納期などはテルムと相談してという形でよろしいでしょうか?」

 ナタリアは慣れた様子で話を進めていく。ここまでよどみない会話はアタルに心地よささえ与えた。

「あぁ、それで頼む。俺たちはとりあえず宿を探すから、二人にはよろしく伝えておいてくれ」

 未だ話が終わらない二人を一瞥したアタルはひとまず宿探しに出ることにしたようだ。


「ふふっ、了解です。それではまた明日こちらかブラウンさんの工房にいらして下さい」

 工房をあとにするアタルたちの背中をナタリアは優しい笑みを浮かべつつ見送った。


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