第百五十一話
「あー、なんだったら後払いでいいぞ。あんたが言うほどにレアなものなら、いい値段がつくだろうし」
アタルが助け舟を出すが、笑顔を浮かべたアウリスは首を横に振った。
「そういうのは駄目だよ。そうやって先延ばしにして良いことはないはずだからね。……よし、お金のほうはなんとかしよう」
「それは……」
隣りにいたクライブはどうするつもりなのか予想がついたため意見しようとするが、アウリスが再び首を横に振った。
「いいんだ、それよりも今はこの素材を手に入れることを優先しよう。というわけだから、この素材の買取および職人の紹介は任せてくれ」
そう言うとアウリスは得意げにドンと胸を叩いた。一見すれば常に笑顔を浮かべた頼りないギルドマスターだったが、今は頼りがいがある男という風に見えた。
それから、お金を用意するまでの流れや他に情報を漏らさないなどの取り決めを行っていき、話が終わったのは昼過ぎだった。
「しかし、紹介してくれる職人が次の巨人の国にいるとはな……」
もちろんこのエルフの国にも武器防具職人はいたが、彼らではあの素材を使いこなせないだろうとクライブは判断しており、結果、紹介してくれた職人は巨人の国にいるとの話だった。
ギルドをあとにした彼らはいまエルフの街を歩いている。
「でも、寄り道せずに目的の場所に進めるのはいいことですねっ」
アタルの隣を歩くキャロは前向きにとらえている。獣人の国を目指すには必ず通る国であるため、むしろ良かったと考えていた。
「まあ、人族の国にいます、とかじゃなくてよかったな……そういえば、依頼の報酬貰ってない気が……」
「……あっ!」
すっかりキャロも忘れていたようで、森の魔物の討伐の報酬をもらい忘れていたことに二人は今更気づいた。話し合いが長引いたことでそのことから意識がそれていたようだった。
「別に金をとりに行くときにもらえばいいか。とりあえず俺たちは残りの素材回収に行ってこよう」
『……また、あの森に行くの?』
バルキアスがあえてその質問をしてきたことにアタルはおや? っと首をひねる。
「ん? バルは行くの嫌か?」
『ううーん、そういうわけじゃないんだけど……なんかあの森変だったから……』
もごもごと歯切れの悪い反応をするバルキアスの頭をかがんだキャロが優しい手つきで撫でる。
「大丈夫ですよバル君、私とアタル様がついてますから」
ふんわりとほほ笑みながらキャロが優しく言うと、不安そうだったバルキアスの様子は落ち着き、そっと頷いた。
全員の意思が確認できたところでアタルたちは馬車に乗って森へと向かう。
ギルドからの依頼で調査に向かったという話を聞いていたため、隠しておいた素材がどうなったか一行は気にしていた。
どうやら森の魔物が討伐されたことは結構広まっているらしく、森に向かう道中、何組かの冒険者とすれ違うこととなる。アタルたちは軽く会釈をしてすれ違うが、相手は会釈を返しつつもそのあと何やらひそひそと話していた。
「あー、やっぱり俺たちが倒したってのも広まってるんだろうな」
「ですねっ、私たちが報告に行ってからすぐ依頼が出たみたいですから」
それらを結びつけると、アタルたちが倒したという結論に至るのは至極当然のことだった。ちょっと嫌そうにしているアタルに心境を察したキャロは微笑む。
「……色々を片付けたら、さっさと次の国に向かったほうがよさそうだな」
少し考えたアタルは面倒ごとを避けたいため、そう呟いた。
「ふふっ、そうしましょう。巨人さんは見たことがないので楽しみですっ」
『巨人って大きいの?』
顔を出したバルキアスは好奇心旺盛な様子でキャロに質問する。出かける前の陰のある表情は既に消えていた。
「うーん、聞いた話では通常の人の三倍はあると聞いたことがあります。ですから、宿なども大きなサイズで作られているそうですよっ」
巨人族はその名のとおり大きな身体をしており、そのサイズに合わせた家や店が並んでいる。だが他国からの来訪者に合わせて中には人サイズの店もあるようだ。
『すごい! すっごいね! そんな人たちだったら、この間の魔物も楽に倒せるのかなー?』
「どうだろうな? ただ力があるだけじゃあいつは倒せないと思うが……武器さえいいものを持っていれば善戦はしたかもしれないな」
アタルも巨人族を見たことはなかったが、ただ力が強いだけでは玄武に勝つのは難しいだろうと考えていた。
「そうですね、よほど強力な攻撃ができなければあの装甲を砕くことは難しいかもしれません」
バルキアスの頭をそっと撫でながら玄武との戦いを思いだしたキャロも実際に自らの剣で攻撃をしてみて、玄武の防御力の高さを嫌というほど知っていた。
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