第十五話
「アタル様すごいです! あんなに怖そうな冒険者たちを一瞬で倒すなんて!」
ギルドから出てしばらくするとずっと黙って成り行きを見守っていたキャロは抑えきれないといった興奮気味に話し始めた。自分の主人には他の者にはない不思議な能力があることはわかっていた。しかし、戦いになってもあれほどの強さを持っていることを自慢に思っていた。
「実際あいつらが弱かったんだろ。動きも悪かったし、そもそも実力があったら新人いびりなんてしないだろうからな」
アタルの指摘はあたっていた。ランクでいえば男たちはそれぞれがDランク。素行が悪く、依頼を失敗することもあったため、上のランクには全然上がれずにいたのだ。
「それにしてもすごいです! たぶん見ている人は何がおきたのかわかりませんでしたよ! 一瞬で三人に攻撃するなんてすごいです!」
「キャロ……お前、俺の攻撃見えてたのか?」
強化された身体能力を使って、動きがみられないように攻撃したつもりだったアタルは驚いていた。その言葉にキャロはキョトンとした表情になった。
「えっ、は、はい。全部じゃないですけど、そのライフルでしたっけ? それから何かが飛び出て男たちにあたったのは見えました」
「そうか……思った以上にキャロは能力が高いみたいだな」
キャロは身体が動かない分、目で観察することが多くそれが今になっても活かされていた。ガシガシと少し乱雑な手つきでキャロの頭を撫でるとキョトンとした顔から一変して頬をほんのりと赤らめて嬉しそうに身をよじっている。
「それじゃあ、まずは俺が選んだほうから片づけるか。薬草は期間が長いが、ウルフのほうは切羽詰まっているようだからな」
「……うぅ、不安です」
長いこと不満足な身体でいたため、自分がどこまで戦えるか把握していないキャロはつい弱音が口をついてでる。
「大丈夫だって。とにかく村に向かうぞ、依頼主に話を聞いてからそのウルフを倒す流れらしいからな」
ころころと変わるキャロの表情に微笑んだアタルは内心、この依頼は依頼主が指定したウルフを倒せなければ意味がないため、色々と確認をとる必要があると考えていた。
「わかりました。アタル様に恥をかかせないよう、精一杯がんばります!」
奴隷の失敗は主の格下げに繋がる。ぐっと拳を作って意気込んだキャロは固い表情でそう考えていた。
「ん? よくわからんが、気楽にな。ウルフくらいなら軽く倒せるだろ」
アタルはキャロの身体能力をある程度自分の目で見て把握しており、武器屋で購入した短剣の能力を考えればウルフ程度であれば余裕で倒せると考えていた。もし何かあっても自分がサポートするのだから問題ないだろうと思っている。
「ア、アタル様……」
自分に対して思っている以上に過大評価をするアタルにキャロは肩を落とす。それは期待に応えられなければ捨てられてしまうかもしれないとまで考えていたからだった。
「全く、キャロは落ち込み過ぎだ。俺がフォローするから大丈夫さ。なんだったら、道中で俺の力を少し見せてやるよ」
へこむキャロを励ますように頭を撫でたあと、二人は街を出て依頼主のいる村へと向かう。
その道中、二人は街道から外れて魔物が生息する場所へと移動する。
「あいつらがちょうどいいか」
アタルが指し示した先にいたのはゴブリンだった。ゴブリンは繁殖力が高く、徒党を組んでいることが多い。そこにも六体いるのが確認できた。
「ゴブリンですか。でも、だいぶ距離がありますね。もう少し近寄らないと……」
そこまでキャロが言ったところで、アタルがライフルを構えてスコープを覗いていることに気付く。かろうじてゴブリンだと分かる程度の距離であるためにどうしようかと確認した途端のアタルの行動にキャロは驚いた。
「こ、ここから!?」
「しっ、見てろ」
静かにするようにキャロに言うとアタルは引き金に手をかけた。隣ではキャロが口に手をあてて不安そうに見守っている。
その後、音がしたのは二回。
だが一回に三発、それを二度アタルは放っていた。
一瞬のできごとだったが、キャロが視線をゴブリンに戻すとすぐにその結果を目にすることになる。
「えっ?」
自分が予想だにしていない状況にキャロはぽかんとした表情で間抜けな声を出してしまう。
先程までうろうろと動いていたはずのゴブリンたちは六体が全てその場に倒れていた。そして、そのどれもが頭を吹き飛ばされている。周囲を見れば吹き飛ばされた頭がごろりと支えを失って転がっていた。
「うーん、やっぱりちょっと威力が強いな。頭が吹き飛ばないくらいの威力のやつも作れるようにならないとだな」
一瞬でゴブリン六体を倒してしまったにもかかわらず、それでもアタルは不満な様子だった。
「えっ、あれ? あの、アタル様? 一体何を?」
現状を把握できていないキャロは戸惑いながらもアタルに質問する。
「これが俺の本来の攻撃方法だ。このライフルから弾を撃ちだして、遠距離の相手を攻撃する。街で絡んできたやつらを攻撃した時は、特殊な例だと思ってくれ」
この世界で遠距離で攻撃する方法として最初にあげられるのは弓だが、弓ではこの距離の魔物に的確に命中させられるのは弓が得意といわれているエルフくらいのものだった。
次に思い浮かべるのが魔法だが、魔法による攻撃も派手なものが多い。そして、先ほどのような精密な攻撃は魔力のコントロールに長けたものでなければ難しい。
それをあっさりとやってのけたアタルのことをキャロは尊敬の眼差しで見ていた。見たことのない武器を持つ主人はこの世界の誰よりも強いのではないかと思い始めていた。
「ま、まあこういう武器だからな。俺がすごいというより、武器が優秀なんだよ」
実際、神に与えられたスナイパーライフルは本来のものと異なり、汎用性に富んだものになっている。それゆえにこれだけの戦果を残せているとアタルは考えていた。
「それでもすごいのはアタル様です! そのライフルですけど、私にも使えたとして、使ってみても同じ結果を出すことはできません! だから、やっぱりアタル様はすごいのです!」
「お、おう、そうか」
キラキラとした眼差しで鼻息荒くキャロが断言するので、少し引き気味ながらもアタルは受け入れることにする。握り拳を作って話すキャロのウサ耳は興奮からかピンッとたっている。
謙遜しながらもなんだかんだとアタルもキャロに褒められるのは悪い気はしていなかった。純粋な好意を真っすぐ向けられるというのにくすぐったささえ感じた。
「それで、さっきのだが……あれなら少しは安心してもらえたか?」
「えっ……あ、あぁ! はい、大丈夫です!」
本来の目的を忘れていたキャロは、思い出すと慌てて返事をする。こんなにすごい主人と一緒にこれからやっていくのだから自分も早く強くならなければと思いを新たにしていた。
「弾丸ポイントも少し増えたから、これで少し幅が広がるな……キャロ、俺の力は見せたから次はお前の力を見せてもらう番だからな。楽しみにしているぞ」
「はい! 任せて下さい!」
アタルの言葉はプレッシャーになるかとも思われたが、力のある主人に期待されているということはキャロのやる気に繋がっていた。
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