第百四十一話

「キャロ、竜は倒したぞ！　バルキアスの怪我も治癒弾で無事だ！」

　バルキアスの安否を心配していたキャロはアタルの言葉を聞いてほっと胸を撫でおろす。

「なら、こっちもがんばらないと、ですね！」

　憂いが晴れたキャロは目の前の敵に向かって再び剣を振り下ろす。普通の攻撃では甲羅に防がれてしまうので、魔力を流して同じ場所を攻撃し続けていた。

　そのため、甲羅には小さいながらも傷が入っていた。そして、今度の一撃でその傷は更に大きくなった。

「なるほど、一点集中か。手数の多いキャロならではだな。それなら俺もやってみるか……」

　キャロの戦術に感心しつつ、アタルは新しく弾丸をこめていく。

「……いけ」

　先ほどの弾丸同様、連続で十発程度を同じ場所にあてていく。今回の弾丸はアタルの弾丸の中でも貫通力だけで言えば最強といえる貫通弾。それも強化バージョンのものだった。

　これまで多くの魔物を倒してきたアタルの選択肢はかなり広がってきていた。

　狙いを定めた一点に向かい、大きな音をたてて一発目が甲羅に着弾する。続けざまに放たれた弾丸は連続して最初と同じ音をたてて同一の場所に着弾していく。一発、二発、三発と弾数が増えるごとに、寸分の狂いもなく着弾してできたその穴は深さを増していく。

「せえええい！」

　アタルと同一のタイミングでキャロが声をあげながら甲羅に斬りつける。それはこれまでで最も力と魔力を込めた一撃であり、相当な硬さを持つ甲羅に大きな亀裂をいれた。

「これが最後だ」

　既に貫通弾は奥深くまでめり込んでおり、次の一撃で胴体にまで達するのはわかっていた。アタルの愛銃から放たれた弾丸は真っすぐ向かって行き、着弾すると同時にそのまま胴体を貫いていき、そのまま反対側の甲羅まで中を引き裂き貫いたところで勢いが止まる。

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」

　自身の身体を大きく貫かれた衝撃は想像を絶する痛みを玄武に与えた。玄武の最大の武器である甲羅。それを貫かれる経験は初めてであり、今まで感じたことのない痛みにその叫びを聞いた者の鼓膜がやぶれるかと思うほどの大きな声を出した。

「きゃああっ！」

　兎の獣人であるキャロは聴覚が鋭いため、すさまじい音量に思わず耳をたたむようにして塞ぐが、それでも耳がキーンとなり、全く音が聞こえなくなる。

「ぐっ、すごいな。……だが、俺はいけるぞ！」

　アタルは距離が離れていたため、耳へのダメージは少なかった。そのため、次の一手にすぐに移ることができていた。

　既にアタルの指は引き金にかかっており、それをひくことで次の攻撃が始まった。

「精密射撃には自信があるんだよ」

　その弾丸は貫通弾が開けた穴に真っすぐ飛んでいき、するりと甲羅の内部に入り込む。

「弾けろ」

　弾丸は雷の魔弾だった。通常では着弾点を中心に込められている魔法が発動する。しかし、この雷の魔弾にはもう一つの効果を持つ特殊な弾だった。

　その効果は目に見えてわかった。アタルの言葉に合わせて魔法が発動し、内包されていた雷が一気に解放され、玄武を内側から感電させていく。

「もういっちょ」

　内側から発光するようにビリビリと雷が流れている玄武の身体に、アタルはもう一発の弾を撃ち込む。

　今度の弾は中に入った瞬間、玄武の体内で激しく燃え盛り、玄武の身体を内側から焼いていく。

「ガ、ア、アァ……」

　どうすることもできないまま次々に襲い来る強力な攻撃で既に玄武は息も絶え絶えだった。

「もう一発行くぞ、キャロ離れろ！」

　だがアタルは最後まで攻撃の手をやめない。キャロの耳は依然として聞こえづらい状態だったが、アタルが何か言ったのを感じ取り、更には玄武の状態からアタルがとどめの一発を放つのだと判断したため、耳を押さえつつ慌てて玄武から離れていく。

　それを確認すると、アタルは引き金を引いた。

　雷と炎によって煙をうっすら纏った玄武は既に瀕死の状態。

　さっき戦線離脱したキャロの剣は魔力をこめていたものの、刀身はすっかりボロボロになっている。

　離れたところにいるバルキアスは大きなダメージを受け、治癒弾を放ったもののいまだ気絶したまま。

　時間で言えば一時間も経っていない。

　唯一戦闘態勢をとっているアタルも自分が持つ弾丸をかなり消費している。大切な仲間を攻撃されて怒りが頂点に達した時もあった。

　しかし、それもこの一発で決着がつく。その思いを込めて放たれた弾丸が、玄武の体内目がけて飛んでいく。

　寸分の狂いもなく着弾した弾丸は次の瞬間には大きな音をたてて爆発した。アタルが放ったのは爆裂弾だった。着弾点を中心として、大きな爆発を巻き起こす弾。使いどころを間違えれば仲間をも巻き込んでしまうこの弾。

「弾けろ」

　再び口にしたアタルの言葉に反応して、弾丸は散弾のように玄武の体内で爆発した。

　あまりの衝撃に玄武は声もなく、その場に地震のような衝撃を残してドサリと倒れた。本来であれば爆裂弾による爆風が周囲に影響を及ぼすところであったが、かなりの強度をもつ玄武の甲羅がその爆風をおしとどめる形となっていた。

　しかし、爆発の余波による空気の震えはアタルまで届いていた。びりびりと身体に打ち付ける衝撃に甲羅の中は相当悲惨な状況であることは想像に難くなかった。

「ぐっ、かなりの威力だったな……」

　思っていた以上の爆発にアタルは驚いていたが、先に撃っていた雷と炎の魔弾の威力が残っており、爆裂弾と互いに作用した結果、これだけの大きな爆発となっていた。

　その震えが収まるとアタルとキャロは急いでバルキアスのもとへと向かう。

「バル君！」

　ぐったりした様子のバルキアスを見て、涙をうっすら浮かべながらキャロは慌てて駆け寄った。その身についた土埃など気にも留めずにキャロはバルキアスをいたわるように優しい手つきで撫でる。

「怪我に関しては治ってるはずだ、あとは意識を取り戻すのを待とう……」

　バルキアスはまだ目を覚ますことはないが、穏やかに呼吸をしているのがわかったため、アタルはそう言って再び玄武に視線を戻す。

「こいつを倒したって証拠がないとだよな……カメラでもあればよかったんだが」

　写真に撮って証拠を見せることができれば話が早いと思うアタルだったが、もちろんこちらの世界にそんなものはなかった。

「素材を剥ぎ取っていきましょう。あと核があるはずです。このサイズの魔物であれば、それ相応のサイズの核を持っているので、それが証拠になると思いますっ」

　核はかなり強固なものであり、アタルの弾丸による爆発にも耐えうるものだった。キャロは顔を上げて大きく頷く。

「じゃあ、バルが目覚めるまでの間にそっちを先にやっておくか」

　バルキアスがゆっくりと休めるように整えてから、アタルとキャロは玄武からの素材剥ぎ取りを行っていく。