第十三話
武器屋からそのまま向かった防具屋ではそれぞれのサイズに合う軽いものを選択した。
キャロの戦闘スタイルは素早い動きでの攻撃、アタルの戦闘スタイルは遠距離からのライフルによる攻撃、どちらも機動力が大事になるので選択するのは軽装一択だった。
「あ、あの、私は軽装でいいとは思うのですが、アタル様はもっと、こう、防御に重きを置いた装備の方がよろしいのではないでしょうか?」
遠慮がちながらもキャロは遠距離から動かずに攻撃するなら万が一を考え、もう少し防御力をあげてもいいのではないかと提案した。
「まあ、俺も昔はそう思っていたんだけどな。遠距離攻撃をすると、弾が飛んでくる方向から自分がいる位置が割り出されてしまうんだ」
「なるほど、特定されないためにすぐに移動するんですね。そのためには動きやすい恰好がいいということですか」
アタルの言葉を途中まで聞いて、キャロは軽装の理由にまでたどり着く。幼い見た目に反して理解力は高いようだ。
「キャロは頭がいいな」
アタルはそれだけ言って優しくキャロの頭を撫でた。いいことをした子供を褒めるように甘やかされるのがくすぐったいのかキャロは顔をほんのり赤くしていた。
「ア、アタル様。そろそろつきますよ!」
そんな恥ずかしさをごまかすために、少し大きめの声でキャロは前方を指差した。
アタルが視線を前方に戻すと、そこには冒険者ギルドが見えていた。
「おっ、気付かなかったよ。それじゃあ入るか」
アタルとキャロが冒険者ギルドの中に足を踏み入れると、そこは大きなホールになっていて奥に進むとカウンターがあり、そこで依頼の受付などの手続きをしているようだった。今日もたくさんの人でにぎわいを見せている。
「とりあえず、登録からだな」
一番右側の受付が空いていたので、そこに向かう。
「いらっしゃいませ、どういったご用件でしょうか?」
担当したのは、精悍な顔立ちの男性職員だった。アタルに声をかけると、くいっと中指で眼鏡をあげた。
「冒険者登録をしたいんだがこの受付で大丈夫か?」
アタルの質問に男性職員は頷く。
「はい、こちらで承ります。私、担当させて頂きますブーラと申します。以後、お見知りおきを」
男性職員はブーラと名乗り、優雅な一礼をする。笑顔はないものの、その立ち振る舞いには礼儀正しさがにじみ出ている。
「ご登録ということですので、こちらの用紙への記入をお願いします」
整理されている棚からブーラが差し出した用紙には、名前、職業、得技を記入する欄があった。
「なあ、これって全部書かなきゃなのか?」
「いえ、名前は必須になりますが、職業や特技は任意になります。ただ、こちらを記入して頂くと他のパーティへのご紹介などがしやすいのです」
アタルの質問に的確に必要な情報をブーラが答える。
「だったら……アタルっと。はい、これでよろしく」
用紙に記入された内容は、名前アタル、職業なし、特技なしだった。名前さえ書いておけばいいのなら、そう易々と自分の情報を他人にばらす必要はないと判断してのことだった。
「こ、これでよろしいのですか?」
「あぁ、よろしく頼む」
名前以外に何も書いていないため、今までにない事態に困惑したブーラが質問するが、アタルが笑顔で即答する様子にこれ以上言っても仕方ないと引き下がる。
「しょ、承知しました。それでは手続きを行いますので少々お待ち下さい」
ずれた眼鏡を直しながらブーラはそう言うと、用紙を持って奥に移動する。
「あれでよろしかったのですか?」
隣で一部始終を見守っていたキャロが心配そうに聞いたのは名前以外を書かなかったことだった。
「いいんだよ。別に誰かのパーティに入りたいとも思ってないし、俺の力は、な」
「なるほどです」
他に類する武器を持つものがいないため、記録に残すつもりはなかった。
ここまでくるとアタルが全てを言わなくてもキャロはその言葉の意味を理解するようになっていた。
「お待たせしました。それでは、こちらの水晶に手を触れて下さい」
戻って来たブーラは元の落ち着きを取り戻し、水晶とカードをアタルたちの目の前に差し出した。
カードは水晶が乗っているのと同じ台上にあり、アタルが水晶に触れると個別認識情報がカードへと流れ込み、個人登録が完了する。
「こちらが冒険者ギルドカードになります。最初の登録は無料となっておりますが、紛失した際の再発行は金貨一枚となりますので、ご了承下さい」
説明を聞きながらアタルはカードを受け取り、特に意識することなく裏表を確認する。
「ふーん、了解だ。それで、ギルドについての説明ってしてもらえるのか?」
「こ、これは失礼しました。登録される皆さまはそのあたりの説明をしようとしても、断る方が多いのでついつい飛ばしていました。もちろん説明させて頂きます」
ブーラの説明によると、冒険者ギルドは七つのランクに分かれているとのことだった。Fから始まり一番上がSランク。登録したものは全員Fから始まり、通常はAが最上位だが国に功績などを認められると王族の推薦、そしてギルドマスターによる審査を通じてSランクに認定される者もいるとこのことだった。
依頼にはいくつか種類がある。常設依頼は依頼をわざわざ受けなくとも依頼の品を持ってくるだけで完了となる。それ以外の依頼は依頼掲示板に張られている紙を剥がして持ってくるというもので、依頼の内容も多種多様とのことだった。
最後にあるのが指定依頼。これは貴族や王族、または商人などが信頼できる冒険者を指定して依頼をするというものだった。
また、依頼にはランクがつけられる。冒険者ランクの一つ上の依頼までしか受けられないとのことだった。これは依頼を失敗する確率を減らしたいためのルールだった。
依頼の失敗についての補足としては、失敗回数があまりに多いとギルドの信頼に関わるためランクの降格となる。Fランクで失敗が多い場合は、受領可能依頼が常設依頼だけになってしまうとのことだった。
「なるほど、わざわざ説明助かった。なにぶん、冒険者ギルドについても最近知ったばかりなものだからな」
アタルの礼にブーラはゆるりと首を横に振る。
「いえ、話を聞かない方も多く、それなのに聞いていないというような難癖もありますので、説明をしっかり聞いて頂けるのはありがたいことです」
その言葉にアタルは目を丸くする。彼はゲームや機械を買うと説明書をしっかり読むタイプだったため、純粋に意外だと驚いた。
「そんなやつがいるのか、情報は大事なのに……まあ、あんた方も大変だろうががんばってくれ。俺は少し依頼を見せてもらうよ」
ねぎらいの声をかけると、アタルは踵を返して掲示板へと向かった。キャロも一度ぺこりと頭を下げてその後ろについて行く。最初は変わった人が来たと思っていたが、最後には気遣いのできる人だと知り、いろんな思いを乗せてその背中にブーラは深く頭を下げていた。
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