第百二十四話
そのあともアタルたちはしばらく食事を続けながら話をしていく。
「色々と話してくれて助かった。俺はあるパーティに所属していたんだが、わけあって別行動をとっていたんだ。その間にどうやら谷の調査依頼を受けていたみたいでな。街に来てみたら……」
話を聞いてみるとどうやらガンダルには彼なりの理由があった。悔しげに拳を作るその姿は無力を嘆くように力が込められている。
「そういうことか、残念だったなと言うのは簡単だが諦めはつかないって顔だな」
アタルはガンダルの表情が険しいものであるため、そう口にする。
「当たり前だ。あいつらは、仲間であり、家族であり、親友だった。それが、最後を看取ることもなく別れることになったんだ。はい、そうですかと諦められるわけがないだろ!」
そう言うと、ガンダルは苛立ちを込めてドンッとテーブルを強く叩いた。テーブルにある皿たちがガタガタと音を立てる。キャロが慌てたように皿をまとめていた。
「気持ちはわからなくないが、何が原因なのかもよくわかっていないんだ。敵を討つにしても、情報不足過ぎるだろ」
ガンダルの悲痛な面持ちを見たアタルは彼が感情のままに無茶なことをしなければいいと考えていた。
「忠告はありがたいが、俺はやらなきゃならない。あいつらの家族に何があったのかを説明してやらないとだしな」
だがそれでもガンダルの決意は固いようだった。アタルの気遣いはわかっているようだったが、ここは譲れないという真剣な表情をしていた。
「だったらそうだな……ガンダル、俺たちと協力しないか? 俺たちは恐らく狙われている。だから、今の人数で行動して敵をつり出す。あんたは、街で怪しいやつをみなかったかとか、近隣の街で冒険者が行方不明になったとかの話がないか情報を集めてくれ」
アタルの提案にガンダルは興味を持つ。彼は先ほどの暗い表情とは打って変わって何かに気付いたように考えている。
「ほう、行方不明か……お前はあいつらがその瘴気の魔物とやらとは別の何かにやられたんじゃないかと考えているんだな?」
アタルの考えをガンダルは当てた。
「その通りだ。もし、魔物にやられたのであれば、やられた冒険者の装備や服や道具、あとは馬車なんかが見つかってもおかしくない。俺たちは魔物をなんとかしたあとに、周囲を調べてみたが何もなかった。ということは、別の何かがあったんじゃないかと考えている」
静かに話し続けるアタルの考えを聞いて、ガンダルは一つの光明を見出す。
「あいつらは……生きているかもしれない?」
喜びきれない、しかし、まだあきらめなくてもすむかもしれない。そんな複雑な感情がガンダルの中に渦巻いていた。
「あくまで可能性だがな、普通に考えたら俺たちが姿も、その痕跡も見かけることもなく、街に戻った様子もないとあれば別の可能性があるかもしれない」
「それが、誘拐か」
今回参加した冒険者はアタルやキャロほどではないにしろ、それなりに実績を残してきた者たちであり、ガンダルの仲間も決して低い実力ではなかった。だからこそただ死んだとは思えなかった。
「不服そうだな。まあ、あんたの力量はかなりのものだと思う。だが、そんなあんたの仲間であっても回避できない状況だった。そう考えればそれだけの冒険者が一度に姿を消したことも納得できるんじゃないのか?」
ガンダルはアタルの言葉を聞いてしばらく黙り込んだ。
「どちらにせよ、私たちは私たちに害をなそうとしている方たちを放置しておくわけにはいきません。なぜ狙ったのか、何が目的なのか。それを知るために動きます」
そこまで言ってから、合ってますよね? とキャロはアタルの表情をうかがう。アタルはその通りだと頷いて返した。
「先ほどアタル様がお話ししたのは推測を交えた情報提供になります。それを受けてあなたがどう動くかはあなた次第です。美味しい料理をご馳走してくれたお礼だと思って下さいっ」
再度アタルの顔を見るキャロにアタルもゆっくりと頷いた。
「まあ、俺の言いたいことはキャロが全部言ってくれたわけだ。そういうわけだから、俺たちは俺たちのやり方で動くことになる。あんたは、自分の身を守りつつ最善の手を選択してくれ。それじゃ、ご馳走様」
テーブルの上に並んでいた皿はキャロによって運びやすいようにまとめられており、アタルは立ち上がって部屋をでようとする。
「お、おい、もう行くのかよ」
追いすがるようにガンダルが腰を浮かせて声をかけるが、アタルたちは手を振って部屋を出て行った。
「はぁ……なんなんだあいつらは……もっと、ガキかと思ってたのに俺なんかよりよっぽどものを考えていやがる」
ガンダルは扉が閉まると同時に椅子にドカッと座り、ため息をついた。
部屋を出たアタルたちは途中会った店員に、支払いはガンダルがすることを伝えて店を出て行く。
「意外と仲間思いのいいやつだったな。無茶なことをしなければいいんだが」
「そうですね。強そうな方でしたが、同じ魔物が出てきたら危ないですっ」
アタルもキャロもガンダルの身の心配をしていた。彼と話してみて悪い印象は抱かなかったからだ。
「まあ、忠告はしておいたからあとはあいつ次第だな。……それよりも、こっちをなんとかしないとな」
アタルは店を出たとたんに視線を感じたため、それをうっとおしく思っていた。
「今度はハッキリとわかりますねっ。街中では他の方を巻き込んでしまうでしょうから、街からでましょうか」
にっこりと笑顔を見せたキャロは落ち着いた様子で視線の主への対応を考えていた。
『ちょっとこの気配、普通じゃないかも』
『あぁ、一筋縄ではいかないようだな』
視線の主は隠すことなくはっきりと気配を露わにしており、アタルたちはそのおおよその居場所を感じ取ることができた。バルキアスとイフリアはぐっと硬い表情で感じ取った気配の印象を伝える。
「お前たちが言うと、少し怖くなってくるな」
言葉の割には恐れなどおくびにも出さず、アタルは楽しそうにそう言った。
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