第百二十話
バルキアスたちがみつけたそれは徐々に距離が近づき、その姿が明らかになる。
数台の馬車がアタルたちの方へ向かってくるが、すれ違うのではなくアタルたちに用事があるようで徐々にスピードを落としていた。
「アタル様……」
相手の様子がおかしいため、警戒したキャロが抑えた音量で声をかけるとアタルも頷いて返す。
「俺がいいと言うまで手を出すなよ」
それはバルキアスとイフリアに向けた指示だった。
ほどなくして馬車がアタルたちと対峙する位置に止まると、そのうちの一台から男が降りて来た。
「あんた、冒険者のアタルだな?」
会って早々に名前を尋ねる男に対してアタルはいい感情を持たなかったが、話が進まないだろうと考えて頷くことにした。
「あぁ、そうだ。……お前たちは一体何者だ?」
アタルの問いに答えるつもりはないのか、勝手に戻っていった男は馬車に乗っている別の男たちに声をかけていた。何かの合図をしているところからキャロたちの警戒が高まる。
「おい、俺には答えさせて自分はだんまりか?」
そう追撃するが、それにも反応を示さず。ついに馬車から次々と男たちが降りて来る。
「な、なんなのでしょうか?」
無言で進んで行く事態にキャロは状況がわからず動揺していたが、腰に携えた剣と籠手をしっかり装備していることを確認していた。
「悪いが……死んでもらうぞ!」
最初に声をかけて来た男のその言葉が開始の合図となり、いっせいに男たちはアタルたちの馬車に襲いかかってきた。
「バル、イフリア! いいぞ!」
こちらはアタルの合図を受けてバルキアスとイフリアが飛び出す。
「な、なんだ!?」
後方で隠れていたバルキアスとイフリアの存在は男たちには予想外だったようで、取り乱している。
『ガアアアオオオオオ!』
狼のごとき唸り声をあげながらバルキアスは次々に男たちへ鋭くとがらせた爪を振り下ろし、次々に倒していく。
『やるな、それなら我も!』
バルキアスに負けていられないとイフリアはサイズをバルキアスより一回り大きくし、飛びながら次々に炎の玉を吐き出してそれをぶつけていく。
「な、なんだと!?」
どうやら男たちは標的であるアタルとキャロの情報しか持っていなかったようだった。思ってもみない戦力の登場に大きく動揺しており、ほとんど抵抗できずにあっという間に撃破されてしまう。
「あいつらすごいな……余程鬱憤がたまっていたということだな」
あっという間に場を制圧している二人を見て唖然とするアタルだったが、後方から魔法を撃とうとしている男に気づくとすぐさま気絶弾を放つ。
「……あの、アタル様。私もいったほうがいいでしょうか?」
「あー、いやいいだろ。あいつらもやりすぎないようにしてるみたいだからな。あとで意識あるやつを尋問すればいいだろ」
敵戦力のほとんどを倒している現状を見て、どうしたものかといったキャロからの質問だったが、アタルは軽く首を横に振った。警戒は怠らないものの、キャロは待機することにしたようだ。
そうして、しばらく経ったところでバルキアスが一人の男の襟首を咥えて連れて戻ってくる。
「バル、イフリア、ご苦労様。さて、なぜ俺たちを狙ったのか聞かせてもらえるか?」
バルキアスたちの攻撃によって既にボロボロになっているその男は、最初にアタルたちに声をかけてきた男だった。
「わ、わわわ、悪かった! 許してくれ! すまなかった!」
ぺっと吐き出されるようにバルキアスに開放された男は飛び起きると瞬時に土下座して、言葉をはさむ隙間もないほどに謝罪の言葉を必死に繰り返す。
「おい……おい!」
アタルは声をかけても謝罪をやめない男に対して呆れたように、だが二度目はいい加減にしろといった大きめの声で言う。
「ひ、ひい!」
びくりと大きく体を揺らした男は悲鳴を上げて黙り込む。バルキアスたちに一瞬で制圧されてしまったことで、男の恐怖は大きいようだった。
「ふぅ……少しは俺の話を聞いてくれ。なぜ俺たちを襲ったんだ?」
ため息をついたアタルは男の目を見て再度質問をした。
男は一瞬の躊躇をみせるが、後ろにいるバルキアスが一鳴きすると状況が最悪であることを認識したのか、うろうろと視線を泳がせながらポツポツと語り始めた。
「お、俺たちは教えられたんだ。プラタの街に向かったあんたたちがかなりの大金を持っているって……」
「誰に?」
間髪いれずアタルが次の質問をする。一瞬怯んだ男はどもりながら続ける。
「な、名前は知らない。フードをかぶった男で、顔を隠していたし、名前も名乗らなかった……」
「フードの男?」
ぐっと眉を寄せたアタルは思い当たるところがなかったため、首を傾げる。
「女じゃないのか?」
ブレンダの仕業じゃないかと考えたたための質問だったが、男はポカンとした表情をしたのち、勢いよく首を横に振った。
「お、男だった!! 間違いない!」
必死の形相で答える男の言葉をアタルは信じることにする。ここで男が嘘をつくことに意味があるとは思えなかったからだ。
「だとすれば、一体だれが……まあ、考えても仕方ないか。それで、お前たちは一体何者なんだ?」
アタルたちを襲うという行動自体は過激なものだったが、魔法使いがいたり、身なりが整っていたりと野盗の類には見えなかった。
「……俺たちは元冒険者だ。同じパーティというわけじゃなく、元々はバラバラだったんだ。今回、話を聞いてみたら、あんたたちを襲うだけで報酬をくれるって話があって集まった。そこにいたのがさっき言ったフードの男だ」
彼らは冒険者時代に依頼を達成できなかったり、違反行為を行ったため、冒険者ギルドから追放処分を受けていた。
「なるほど、食い扶持に困っているところにうまい具合に声をかけてきたやつがいて、その口車に乗ったってことか……」
アタルは一連の流れを理解して疑問を持つ。一体誰が? と。
「お前たちの中で誰か今こいつが言った以上の情報を持っているやつはいるか?」
最初の男を尋問している間にバルキアスとイフリアが他の男たちをアタルたちの近くに集めて来ていた。
怯えたように男たちは互いに顔を見合わせて、何か知っているか? と確認しては首を振っている。
「いないか……」
予想していたとおりの結果だったため、アタルは嘆息する。
「あ、あのー……」
その中で一人、アタルの気絶弾をくらったもののなんとか目を覚ました男が恐る恐る手をあげた。
「私、見たんです……そのフードの男が右手に大きな痣があったのを……」
その情報にアタルはにやりと笑った。
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