第百十五話
二人の笑いが収まると、アタルから口を開く。
「それじゃ、これで依頼達成だからここに署名をしてくれ」
アタルはミランに渡された受領用紙を手渡す。
「あぁ、そうでしたね。それでは……はい、これでいいですかね」
どこからかペンを取り出してすらすらと署名をしていくギガイア。
「あぁ、ありがとう。これで、俺の仕事は完了だ」
用紙を受け取ったアタルは署名してあることを確認し、あとは任せたと、教会を出ようとする。
「もう少し、待ってもらえますか?」
静かに響いたのはギガイアの言葉だった。彼は背を向けたアタルの肩に手を置いている。
「なんだ?」
アタルは手を振り払おうかとも考えたが、力が強かったため、そのままゆっくりと振り返った。
「これ、あなたたちが封印したんですよね? だったら、協力してもらえませんか?」
にっこりと笑顔で言うギガイアだったが、強力な圧を放っており、とても断れる雰囲気ではなかった。
「だが、断る」
しかし、それにアタルは屈しなかった。きっぱりと言い放ち、首を横に振る。
そんな中、キャロとバルキアスとイフリアは完全に気圧されており、気を抜けば膝をついてしまうほどだった。必死に耐えているせいか皆そろって硬い表情だ。
「ほう、私の威圧に耐えるとはやりますね。ブレンダさんが推薦するだけのことはあります。それに、この封印球も簡単には解けないものですね。であるなら、あなたたちに解除してもらうのが一番でしょう」
「だが、ことわ……」
「やってもらえますよね?」
ねっとりとした口調と共に、アタルの肩に置かれた手は指が徐々に肩にめり込んでいく。ミシミシと骨が嫌な音を立てているのをアタルは感じた。
「わ、わかった! わかったから、離してくれ!」
いくらなんでも骨を粉砕されては困るとアタルが慌ててそう答えると、ギガイアはふっと力を抜いて解放する。
「わかってくれたなら助かります。それでは早速ですが……」
何事もなかったかのように話を進めようとするギガイアだったが、アタルはそれを遮って自分の言葉を続ける。ここで言いくるめられるのは納得がいかなかったからだ。
「早速だが、報酬を決めよう」
「はい?」
アタルの言葉にギガイアはきょとんと首を傾げる。
「あんたが元Sランク冒険者だというのは依頼を受ける時に聞いていた。そして、ミランの母親のブレンダは俺たちのことをあまり良く思っていないのはわかっていた。その二つが結びついたら、何か俺たちに不利益なことが起こるんじゃないかとも予想していた」
次々にあげていくアタルの予想は的中していた。
「だが、俺はそれを良しとはしない。あんたが強いのはわかっている。俺たちよりも強いのかもしれないな。……あぁ恐らくそうなんだろう。だが、それでも、ただただ言われるがままに動くつもりはない」
視線や態度に威圧を込めてアタルはそう宣言する。例え敵わない相手だとしても一矢報いる気持ちを表すように、キャロにバルキアス、そしてイフリアは距離をとって戦闘態勢に入っている。
「なるほどなるほど、君たちは強い心を持っているようですね……私もブレンダのことはあまり良くは思っていません。一時期彼女とパーティを組んだことがある程度なのです」
何度か頷いてアタルたちを見たギガイアは、アタルの言葉を受けて自分の思いを話していく。
「ですが、この封印球をなんとかするのにあなたたちの力が必要なのは変わりありません。しかし、報酬ですか……確かに冒険者なら依頼に対する代価を要求するのも当然ですね……」
ギガイアは腕を組んでしばらく考え込む。
「そうだ、私が昔使っていたアイテムをお譲りしましょう。自分でいうのもなんですが、Sランク冒険者だっただけあってそれなりにいい物があると思いますよ」
何かを思いついたというように微笑むギガイアの言葉にアタルは気持ちが動く。
「なんだったら、先に報酬を見てもらってからでもよろしいですよ」
「わかった、俺たちが気に入るものがあれば依頼を受けることにする。もし、見つからない場合は辞退させてもらう」
アタルはあくまでも自分たちが依頼を受けるかどうか決める立場にあると主張する。
「それで構いませんよ、それでは早速向かいましょう。教会の奥の部屋が私の部屋になっていまして、そこがアイテム倉庫に繋がっています」
気を悪くした様子もなく、ギガイアは身をひるがえすと早速自室に向かう。アタルたちは周囲を警戒しながらもギガイアのあとをついていくことにした。
「こちらが私の部屋になります。少々散らかっていますがお気になさらないで下さい」
苦笑交じりにギガイアはそういうが、アタルたちから見れば十分整理整頓された綺麗な部屋だった。
「さあ、こちらです」
案内された先は倉庫になっていて、中には灯りの魔道具が設置されていた。
「うわあ、すごいですね!」
「これは、壮観だな……」
倉庫に入った二人はそのアイテムの量に驚いていた。ほんのりと灯りの魔道具で照らされた倉庫内はざっと見ただけでも宝の山であることがわかるほど、たくさんの種類のアイテムで満ちていた。
「この中であればお二人が気に入るような物も見つかるのではないでしょうか。私は部屋のほうにいますので、気になるものがあればお持ちください」
ゆったりとほほ笑むギガイアはそう言い残して部屋に戻ると、何やら書き仕事を始めた。
「キャロ、とりあえず手分けをしてこれぞというものを見つけよう」
「は、はいっ。ですが……これだけあると、どれが良いものなのやら……」
アタルの言葉に返事をするキャロだったが、どこから手を付けて何を探せばいいのかわからず困惑していた。
「うーん、それならキャロは何か良さそうな武器を探してくれ。剣でもナイフでも槍でもいい。俺のところに持ってきてくれれば俺がそれを見てみよう」
そう言うとアタルは目に魔力を込める。灯りはついているものの、薄暗い倉庫ではアタルの目が青く光を放っているのがわかった。
「なるほど、それでアイテムが持つ力を見るんですね! わかりました、奥のほうから探してみますっ!」
アタルが行う選別方法がわかったキャロは宣言とおり、奥からアイテムの確認をするために意気込んで進んで行った。
「俺は何か便利そうなものを探してみるか……バルキアス、イフリア、二人も何か面白そうなものがあったら教えてくれ。ただし、触るなよ?」
『はい!』
『しょ、承知した!』
アタルがひんやりとした眼差しですっと目を細めていったため、思わず二人は背筋を伸ばして返事をした。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




