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魔眼と弾丸を使って異世界をぶち抜く!(Web版)  作者: かたなかじ


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第百十一話


 冒険者ギルドで揉め事が起きていることなどついぞ知らないアタルたちは宿を確保すると、街中をぶらぶらと見て回っていた。

 バルキアスとイフリアにとっては、初めてゆっくりと街中を見て回ることができる機会であり、二人とも期待と興奮に目を輝かせていた。


「二人には装備は不要だろうから、色々買い食いしよう。食いたいものがあったら俺たちにだけ聞こえるように声をかけてくれ。そうしたら、俺かキャロが買ってくる」

 アタルの言葉に喜んだバルキアスとイフリアはきょろきょろとあたりを見回して、気になるものがあるとすぐに念話で申告をしていた。


 数度回った頃にはアタルとキャロは腕いっぱいに料理を抱えることになっていた。

「も、もういいよな? 宿に戻るぞ?」

『えーっ! もっと色々見たいよ!』

 同じ場所を何度か回っているにも関わらず、バルキアスはまだまだ飽きない様子だった。


『アタル殿とキャロ殿が困っているであろう。このあたりで切り上げるのが契約しているものとしては良い落としどころではないかの』

『……はーい』

 同じ立場のイフリアに窘められるように注意されたバルキアスは大人しくその意見を受け入れることにしたようだった。年長者の意見を聞くと言うのは母親に教えられたことのひとつでもあったからだ。


「まあ、今日だけじゃないからな。最初から飛ばしたら徐々に味わう楽しみがなくなってしまう」

 そうアタルが言うとバルキアスは尻尾を大きく振っており、喜んでいるのが伝わってきた。

「ふふっ、二人とも嬉しそうですねっ」

 笑顔のキャロが言うとおり、バルキアスだけでなくイフリアも喜んでいるようで小さな尻尾を機嫌良く揺らしていた。




 宿に戻って部屋に到着すると備え付けの机の上に購入した料理を並べていく。

「この高さだとバルとイフリアは大変だろうから、下に置くか……」

 アタルはいらない布を取り出すとそれを敷いて、その上にバルキアスたちの食べる分を取り分けて並べていく。

「たくさん買ったからみんなで食べるのがいいですねっ」

 それを手伝うキャロはみんなで食べる食事を心から喜んでいる。これまでもアタルと二人で食べていたが、新しく増えた仲間とともに食べる食事は格別だった。


 出店などで売っていた料理はどれもなかなかレベルが高く、一行は次々と食べ進めていく。中にはハズレを引き当てたりしたが、それもみんなで食べれば楽しい思い出といった様子だった。

 そんな風にして夕食を楽しんでいると、部屋にノックの音が響く。ぴたりと会話が止まり、皆の視線が扉に集まった。

「……来たか」

 恐らく遠くないうちに誰か訪ねてくるだろうとアタルは予想していた。少し予想よりは早いが、誰が訪ねてきたかはおおよそ見当がついている。


「はーい、どうぞっ」

 すっと立ち上がったキャロが扉を開け、客人を迎え入れる。

「あなたは」

「ど、どうも失礼します。ミランです……」

 それはこの街に来てから何度か世話になっているミランだった。さっきわかれたばかりで会いに来たことに少し申し訳なさそうな表情で立っている。


「あぁ、よく来たな、と言うべきなのか……それとも、来てしまったかと嘆くべきなのか。少し判断に困るな」

 茶化すようなアタルの返事を聞いて、ミランは苦笑していた。


「できれば前者であることを望みますが、私が来た理由を聞いてからの判断ですよね、それは……はぁ」

 気が重いのか、ミランはため息をついていた。


「そのため息を聞く限りでは俺たちにとってあまりいい話じゃないみたいだな」

 これまで何度もやりとりをしているミランとアタルたちは、それなりに気安く話せる間柄であると思っていた。その彼女が言いづらそうにしていることからアタルはそう結論づける。


「そう、ですね。恐らくそうだと思います……こんな調子じゃダメですね。私がなぜみなさんを訪ねたか、それを話します」

 グダグダしていても状況は変わらないため、気持ちを切り替えたミランは覚悟を決めた表情で話を始める。


「実は、今回アタルさんたちが持ってきた封印球ですが、あれはここから北方にある街にある大きな教会に届けることになりました……どうもあれは当ギルドでは持て余すもののようです」

 封印の解除ができない、できたとしても魔物をどうすればいいのか対処方法がわからないといった理由から、ミランの母ブレンダはこの選択肢を選んでいた。


「ふーん、まあいいんじゃないか? その話からするに恐らくそこの教会にはそれなりの実力者がいるんだろ?」

 そうでなければ持っていく意味がないからこその予想だった。

「そのとおりです。元Sランク冒険者の方がそこの責任者です。母が昔、お世話になったそうで、信頼のおける方だとのことです」

 この世界の冒険者はランクが高ければ必ずしも実力があるというわけではなかったが、Sランクだけは別格だった。


「Sランク!? すごいですね、本当にいたんですね……」

 そのため、キャロはミランの話に目を真ん丸にして驚いていた。

「ん? そんなにすごいのか?」

 この世界の常識を知らぬアタルはやはりどれだけのことかわかっておらず、キャロに質問した。


「はいっ。通常、冒険者ギルドでは依頼をこなしていくことで実績が積み重なり、徐々にランクが上がっていきます。しかし、それはAランクまでの話です。Sランクは、複数のギルドマスターが認めるだけの実績を残すことが条件になるそうですっ」

 キャロは自分の知識にある情報を話していく。


「付け加えると、その認める実績というのは誰が聞いてもわかるレベルの大きなことであることがほとんどです。例えば、誰も倒せなかったような凶悪な魔物を倒す。例えば、今まで誰も発見することができなかったような薬を作り出す。戦争を一人で止めるなどなどです」

 アタルは目を細めて情報を付け足したミランのことを訝しげに見ていた。


「いや、その最後のやつおかしいだろ。戦争を一人で? それって個人じゃなくもう戦術級の戦力だろ……。まあ、とにかくSランクが化け物ってはなんとなくわかった。それで、そいつに封印球の調査を依頼するんだな。いいんじゃないのか?」

 アタルはどこか人ごとのように言う。ミランが何をしに来たのかわかったうえでの言葉だった。


「えっと、それで、アタルさんたちにその、封印球を届けてもらいたいのですが……他の方だと、道中球を紛失してしまう可能性が……」

 もごもごと言いづらそうに小声になっていくミランに、アタルは呆れたようにため息をつく。


「はぁ……それで報酬は何がもらえるんだ?」

 当然聞かれるであろうアタルからの質問を受けて、ミランの肩はビクンと大きく動いた。


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