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高校時代にタイムリープした僕は、絶縁した幼馴染にただ幸せになって欲しいだけだった。  作者: ミソネタ・ドザえもん
告白をやり直す。

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雄叫

 岡田君に聞こえるような声でそう言ったのには意味がある。

 一つはもちろん、チームメイトに難攻不落に見えた岡田君の弱点を伝えること。ここまでストレート一辺倒な岡田君の投球だったが、チームメイトは頭の中で変化球を捨てきれずにいた。僕が彼の持ち札を最初に伝えていたことが、そうなってしまった一つの要因な気もするがそれはこの際置いておいて……とにかく、岡田君に変化球がないことは僕達にとって勝利に向けた好材料だった。

 だから、変化球は頭から切り捨てろ。

 僕はチームメイトにそれを伝えたかった。


 そして、もう一つの理由。

 本当は、これが僕が周知の目を気にせず声を荒らげた意味。


 それは、挑発。

 僕は岡田君を挑発するべく声を荒らげ、わざと彼に聞こえるようにチームメイトにそれを伝えた。


 普通、弱点になる要素なんて相手にバラさず内密にチーム内で共有すべき内容だ。

 それでも僕は、今この状況においては敢えて岡田君にわかるようにそう言うべきだと思った。


 変化球を投げろ。

 暗に、僕は岡田君から変化球を引き出すべく、挑発をした。


 岡田君達クラスは、僕達のクラスを倒すことを目標に準備期間、二、三年含めてどのクラスよりも入念に時間をかけてこの体育祭に望んできた。

 その上で、恐らく事前のバッテリー間の話し合いで変化球を投げないことを取り決めた。

 つまり、それだけの時間をかけても半素人のキャッチャーでは岡田君の変化球を取ることは叶わなかった。

 そんな岡田君の変化球のキレには素直に称賛。だけど、こと勝負においてキャッチャーの取れない変化球なんて意味をなさない。


 だから僕は、岡田君を挑発した。変化球を解禁させるために。


 直球は僕に弾き返された。

 打順も二巡目に入り、岡田君のストレートにも打者の目はほんの少しだけだが慣れ始めている。


 もうここは向こうも、ここまで同様……つまり、ノーリスクでは抑えられない場面に差し掛かっている。

 そして、僕の挑発。


 岡田君達クラスの頭の中には、間違いなく変化球の解禁がチラついてるはず……!


「プレイ!」

 

 今日初めてのセットポジションからの岡田君の投球。

 初球に投じた球は……。


「逸れたっ!」


「走れ徳井っ!」


 キャッチャーが取れない捕逸となった。

 ガシャンと音をたてたボールは、バックネットの金網に叩き付けられた。


 キャッチャーが走るのとほぼ同時に、僕も二塁めがけて走り出した。

 悠々、二塁に到達した。


 タイムをかけたのは、明らかに悪いムードが流れている岡田君達だった。

 マウンドに、内野陣が神妙な面持ちで集まっていた。


 お祭り騒ぎの僕のチームメイト。


 反転、攻勢に乗じれそうな場面。


 この流れに乗ってない男が、このグラウンドには二人いた。


 一人は、僕。

 岡田君を挑発し、変化球をけしかけた僕だ。

 僕のヒット後、初球の岡田君の球は捕逸となった。


 ……でも、投じた球は変化球ではなかった。


 ストレートだった……!


 初ヒットを許し浮足立つ場面。

 相手からは弱点を煽られ……それでも尚、岡田君はストレートを投じたのだ。


 実際、変化球を投じて、キャッチャーが取れないかはわからない。

 試合になって突然レベルアップする。漫画やアニメなんかではお決まりの必勝パターン。


 味方の成長を信じ、賭けに出ることも岡田君の選択肢にはあったはず。


 でも、彼はそれをしなかった。


 ……この球技大会にて、岡田君が難敵であることはわかっていた。


 彼に特訓をしてもらって。

 傍から彼の投球を見て。

 そうして、実際に相手取って彼の球を目の当たりにして。


 僕は彼を、難敵であると認識していた。


 でも。



 ……僕は、まだ彼をみくびっていたのかもしれない。



 岡田君達のチームに流れる葬式ムード。

 僕達のチームに流れる押せ押せムード。

 この流れに乗ってない男が、このグラウンドには二人いた。

 

 一人は僕。


 そして、もう一人。

 このグラウンドで最も自信に溢れた男は……僕の親友は、神妙な面持ちの内野陣に、不敵に微笑んでいた。


「源君、ミットはど真ん中にだけ構えててくれ」


 ……敢えて。

 僕にも聞こえるような声で、岡田君はキャッチャーの子に言い放った。


「変化球は投げない。ストレートだけで大丈夫だ」


 自信に溢れる岡田君には、それを成すことが出来ると思わせる何かがあった。

 内野陣は守備に戻った。


「プレイ!」


 審判の掛け声の後、一瞬岡田君はランナーである僕を制すべく二塁に目配せした。


 その時の岡田君の目に迸っていたものは……。


「ストラックアウト!」


 自信と……。


「ストラックアウト!」


 プライドと……。


「ストラック、アウトッッッ!」


 誰にも負けないという意地。


「よっしゃああああぁぁぁあ!!」


 岡田君の雄叫びは、グラウンドだけに留まらず随分と遠くまで響いていった。


 試合は、六回に飛び出した岡田君の二本目のホームランが決め手となり、0ー二で岡田君達のチームが勝利を収めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  更新ありがとうございます!  いいねえ挑発に乗らないのはそれだけの実力に裏打ちされた自信があるから。  もちろん考えに考えて最善の策を講じた主人公も悪くない感じでしたが。  岡田君の方…
[良い点] 更新嬉しい
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