試打
ファストフード店でたらふく飯を食い、外に出ると冷たい風が僕達を襲った。
「さみー」
「本当だ」
ガタガタ震えながら、僕達は駅までの道を駆け足で向かった。早く帰りたい。ただその一心だった。
「じゃあ、また明日」
「は?」
駅のホームを超えた先、僕は帰りの挨拶を岡田君にしたのだが、返ってきた返事は冷たいものだった。
「お前、何帰ろうとしてんの?」
「え、僕これからカツアゲされるの?」
「しねえよ。なんでそんな低俗な遊びしないといけないんだよ」
「あまりにも真っ当な意見」
「これからバッティングセンター行こうぜ。善は急げ。早速練習だ」
「……ああ、なるほど」
そんな提案であれば、断るわけにもいかず、僕は岡田君の後に続いて電車に乗った。家とは真逆の方向に進む電車。二駅先の駅で、僕達は下車した。
少し歩き、目的地に僕達はやってきた。
「とりあえず百キロくらい打ってみたら?」
千円札をバッセン用のメダルに返還しながら、岡田君は提案してきた。どうやら彼もバッティングしていくつもりならしい。
「俺は半分ストラックアウトに使うけどな」
「へえ」
「球技大会、ピッチャーに任命された」
得意げに、岡田君は微笑んだ。
「ここのバッティングセンターは一回二百円で二十五球。最新の映像機もあって、この辺のバッセンだとかなり良心的な価格設定だ」
「詳しいね」
「通ってたからな」
それだけ通っているくらい野球にお熱だったのに、染髪だけが理由で辞めてしまうだなんて。
「とりあえず打ってみろよ。後ろから見てるから」
「お願いします」
ペコリと頭を下げて、僕も千円札をメダルに返還し、早速先生の指導通りに百キロのケージに入ってみた。
日本ハム当時のエースの映像が動き出す。
セットポジションから足を上げて、タメを作り、豪速球(百キロ)は投じられた。
カキン
手には鈍痛。
ボールは真下にバウンドした。
「おお、当たるじゃん」
「そりゃ、当てるくらいは出来るさ」
そう言いながら、僕は久々のバッティングセンターを楽しんだ。
かつてはテニス部に所属していた経験もあるし、動く球を捉える行為自体は苦手ではなかった。ただやはり面で捉えるテニスと違い、野球は接触面が小さく、打球はあまり前に飛ばなかった。
「もっとダウンスイングで振れよ。遠くに飛ばそうとアッパー気味になってるぞ」
「ダウン? アッパー?」
「こんな感じ」
シニアでショートの四番の先生が、網の向こうからスイングのレクチャーをしてくれた。
「コイン」
「ん」
岡田君にコインを手渡すと、それを機械に通してくれた。
岡田君の指示通り、ダウン目のスイングでボールを打った。甲高い打球音が、バッティングセンター内に響いた。
「ようし、いいぞ。良い感じじゃん」
「そう? 全然打球上がんないけど」
「馬鹿。転がすことに意味があるんだよ。球技大会なんて全員が野球経験者じゃねえからな。適当にバチコン当てるだけでヒットになる」
「ふうん、そういうもん?」
「そういうもん」
釈然としない僕だったが、今自分が打った打球を内野で守る自分が取れたかと考えた時、確かにと納得出来た。
「バッティングは問題なさそうだな」
「ありがとう」
「守備はどうだろうな」
「僕も丁度、そっちがヤバイと思い始めていた」
「絶対、ファーストとかにはなるなよな?」
「なんで? ファーストなんて楽そうじゃん」
「お前……内野の全ポジションからショーバンだったり簡単に捕球出来ないボールが飛んでくんだぞ?」
「ああ、無理」
「だろ? 外野とか……一番はライトがオススメだな」
「プロとか見てるとレフトの方が楽そうだけど」
「球技大会は素人ばかりが集う大会だからな。大体皆右打席に立つし、流し打ちだなんて器用な真似は出来ねえ。だから、楽なポジションって言ったらライトだ」
「ほへー」
意外と理論的な岡田君に、僕は唸った。
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