友達
それは、昨晩の出来事だった。
その日の昼休みに恵美さんの背中を押し、告白するべきだと勇気付けた。その結果、恵美さんは僕にメッセージを送ったきた。
『徳井君、本当にごめんなさい。そして、ありがとう』
簡素なメッセージに、僕は心が綻んだ。
彼女の気持ちの整理に一役買えたのなら、これ以上嬉しいことはなかった。
『ううん。こちらこそ、憧れだなんて言ってくれてありがとう。嬉しかった』
『本当、お礼なんてやめて。そんなこと言ってもらえること、あたししてない』
『これ以上はさっきの続きになるし、止めようか』
『そうだね』
しばらくそんな感じで、僕達は板野君のことだったり、色んなことをメッセージし合った。
そんな中、唐突に恵美さんは一つの動画を僕へと送ってきた。
『何これ?』
その返事を返しながら、僕は動画を開いていた。
『本当は、被害者の君は見るべきではないかもしれないけど……』
スマホの通知に、恵美さんのメッセージが流れた。
『いつか君の自衛に使えるかもしれないから、送っておく』
そして、その動画は……。
「恵美か。その動画をあんたに送ったのは!」
まさしく、恵美さんによる僕への嘘告白の現場の動画だった。
恵美さんは言っていた。
柴田さんは僕を貶めるために、この動画をグループ全員にメッセージした、と。その動画を送った後のグループの反応は、僕への中傷だったり、そんなことばかりだったとも言っていた。
『恵美、あんたもっとうまくやりなさいよー』
ただ、恵美さんはそのメッセージだけは酷く不快だったと告げていた。うまくやれとは、どういうことか。うまい結果とは、どういう結果か。それを考えるだけで、昨晩は寝付けなかったと言っていた。
「スクリーンショットももらったけど、見る?」
「……見ない。見る必要なんてないし」
柴田さんは、最早言い逃れ出来ないことを察して、本性を露わにしていた。不貞腐れた態度で腕を組み、そっぽを向いて唇を尖らせていた。
「あーあ。バレちゃった。まったく、あんたのせいで色々と酷い目に遭ってばっかり! 文化祭も楽しめないし、嘘告白って遊びで周囲の評価も落とした」
「……遊び?」
「そうよ、遊び。あんたを貶める遊びと、恵美を怖気づかせる遊び。あんたもっ、あいつも生意気すぎっ!」
眉間に皺が寄った。
「自分勝手なことばっかりやって。あたしの許可なく動いてっ!!! ふざけるなっ!!!!!」
僕は、怒りを堪えるのに必死だった。額に青筋が立つのがわかった。
「……はあ、で、何? 何すればいいの? 謝罪? あんたに土下座でもすればいいの?」
開き直った彼女の態度で、限界を迎えた。
ガシャンッ
音を立てたのは、地面に打ちつけられた反動で宙を舞った、僕のスマホだった。
「……僕のことはどうでもいい。僕は生憎、他人をとやかく言える程、真っ当な人間じゃあないし、文化祭の一件だって君が腹を立てる理由はよくわかる」
怖気づいた柴田さんを、僕はこれでもかと睨みつけた。
「でもな。……でも、当事者でもない人を巻き込んで辛い目に遭わせてっ、最終的には全ての罪を擦り付けてっ!!! 勝手なことばっかり言うんじゃねえっ!!!!!」
柴田さんが今流す涙は、恐らく嘘泣きのそれではなかった。
「……恵美さんに謝れ」
「……ぇ?」
「今すぐ……今すぐ恵美さんに、僕の友達に謝れっ!!!」
それが、僕が今彼女を怒鳴りつけた、ただ一つの理由だった。
ちゃんと主人公が主人公してて、もしかしてこいつ主人公なのでは、と思った。
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