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高校時代にタイムリープした僕は、絶縁した幼馴染にただ幸せになって欲しいだけだった。  作者: ミソネタ・ドザえもん
告白をやり直す。

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謝罪

 教室にやってきた恵美さんは、人目を気にしている様子だった。


「場所を変えたいけど、いい?」


 抑揚な声でされたそんな提案に、僕は少しだけ気後れした。先程、柴田さんからの報復がしばらく続くだろうと考えたことが、この気後れの理由だった。


「わかった」


 ともあれ、ここでこの話に乗らない方が連中を増長させる理由になりかねない。煙たく思いながらも、僕は微笑みながらそれに応じた。

 恵美さんに連れられたのは、物理室。

 いつかの文化祭実行委員にて使用された教室。つまり、僕が柴田さんからの怒りを買った場所でもある。

 そんな場所で、一体どんな面倒事が繰り広げられるのか。


 僕は身構えていた。


「ごめんなさい」


 そんな僕に、恵美さんは深々と頭を下げて謝罪した。


「……え」


「本当、ごめんなさい」


 恵美さんからされたのは謝罪。

 いや、もしかしたら僕の警戒心を振り払う作戦かもしれない。


「ううん。大丈夫だよ」


「大丈夫なわけない」


「……え」


「……だって、あたしは自分がそんなことされたら、嫌だもん」


 まあ、そりゃあそうだ。


「……今日は、謝罪をしに来た」


「謝罪に?」


「うん。……わかっているの。謝っても許してもらえる話じゃないって。でも、謝りたい」


 昨日に比べたら声に活気のある恵美さん。もしかしたら本当に、謝罪に来たのかもしれない。

 そう思ったが、疑心暗鬼は拭えなかった。


「ごめんなさい。本当に」


 もう一度、恵美さんは頭を下げた。


「……あたしね、あのグループでの立場、微妙なんだ。だからあんな罰ゲームの話になったら従うしかない。しょうがなかったの。あれに従わなかったら、明日からあたしのクラスでの居場所は無くなっていたから」


「そっか」


「……そっかって。怒らないの?」


「怒らないよ」


「……なんで」


「……もしかして、怒って欲しかったの?」


 恵美さんは口を閉ざした。

 彼女としたら、どんなことであれ自分が非のある行いをした以上、割り切るためにも被害者である僕に怒鳴って欲しかったのだろう。

 それが、一つの贖罪の形なのだから。


 でも、僕は彼女の行いに怒るつもりはなかった。

 彼女の狙いがわかっていたから、というわけではない。


「……僕は、怒らないよ」


「……優しいんだね、徳井君は」


「違うよ」


 僕は、物理室の椅子に腰かけた。


「むしろ、その逆さ」


 そうして、微笑んだ。

 最初から思っていた。嘘告白だなんて行いをされておいて、僕はそのことに関して怒る気持ちは最初から、一切、湧いてこなかった。


 ……だって。


「僕は、他人にもっと酷いことしたことあるからね。だから、怒ることなんて出来ないんだ」


 トラウマになった紗枝の顔が、蘇った。

 それが、僕があの噓告白の一件を怒らない理由だった。


 他人に酷いことを言ったことがある僕は、僕に対して酷いことを相手がしようが、怒る権利など一切ないのだ。

 微笑んで伝えた僕を見て、恵美さんは顔を歪めていた。


 逡巡しているように見えた。


「……取り繕いたいから言うわけじゃないよ?」


 そう前置きをして、恵美さんは続けた。


「昨日の嘘告白の時言った話。文化祭実行委員でのあなたの活躍ぶりを聞いて、あたしがあなたに憧れを抱いたのは、本当。本当なんだ……」


 僕は、目を丸くした。

 しばらく恵美さんの言葉を脳内で反芻し、そうして胸が熱くなっていくのがわかった。


「……そっか」


 照れくさくて顔は見せられなかった。

 優しく微笑みながら、僕は小さく呟いた。


「ありがとう、恵美さん」


 当初は彼女の贖罪のためのこの場だったのに、気付けば僕はお礼を言っていた。


「お礼を言われる筋合いなんて、あたしにはない」


「そんなことないよ。むしろ、僕はあれで良かったと思った。覚悟はあったけど、誰かを悲しませることが怖かった。だから断ってすぐ、君の顔が見れなかった」


 嘘告白だと言うのにそんなことを言うのは、少しだけ自意識過剰だと思って、言いながら僕は笑ってしまった。


「だからさ。本当に良いんだ。あれで良かった。心から僕は、そう思っているんだ」


「……面白いんだね、徳井君は」


 救われたような顔をした後、恵美さんは俯いた。


「さっき、あたし今のグループでの立場が微妙って言ったじゃない? あれね、キチンと理由があるんだ」


 そして、恵美さんは独白を始めるつもりらしかった。


「……あたし、板野君が好きなの」


「……そうなんだ」


「でもね、智恵も……。柴田智恵も、板野君のことが好きなの。彼人気者だから、多分そういうことあるかもと思っていたけど、あろうことか同じグループ内で二人、好きな人が一緒な人が出ちゃったの」


 女の子のグループ内のいざこざは良く話に聞く。

 確かに、好きな人被りがあれば、片方はグループに居づらくなる絵面は容易に想像出来た。


「……あなたへの嘘告白はジャン負けによる罰ゲームって皆言っているけど、あれも正直嘘。あのジャンケンは出来レースだった。智恵達は皆、ずっとパーを出すって結託してたの。あたしがチョキで勝てば、一抜けズルくないって難癖付けてもう一度仕切り直しをあたしの口から言わせた。あたしがずっとあいこにすれば、空気読めないよねって罵倒してきた。あたし、負けるしかなかったの」


「……それって」


「……智恵にとって、あの罰ゲームはあなたへの報復でもあり、あたしへの牽制でもあったの」


 ……少しだけ、恵美さんが不憫だと思った。

 たかだか自分の恋がバレただけで、一体どうしてそこまでされなければならないのか。

 ……でも、あの時の僕も、結局似たようなものだったか。


「……ごめんね。結局それは、言い訳でしかなかった」


 そして、恵美さんはそう微笑んだ。痛々しい笑顔に僕には見えた。


「……これ以降、もう君には声をかけないようにする。でも、一応連絡先だけ教えてくれない? あの子が何か画策しだしたら、連絡するから」


「うん。わかった」


 僕達は連絡先を交換し合った。


「……はあ。あたしの高校生活、散々だよ」


 そして、スマホを仕舞う頃合いに、恵美さんが言った。少しだけ明るい口調を装って、冗談めかして言っていた。


「本当こんなんじゃ、板野君に告白なんて出来っこない。アハハ。元々無理な話だったか。彼と恋人になるだなんて」


「……わからないよ」


「わかる。結果は見えてる。……振られれば、ううん。先抜けして告白した時点でグループでの扱いも余計悪くなるだろうし、お先真っ暗だ。アハハ」


 そう言う悲壮げな恵美さんに見覚えがあることに僕は気付いた。


 冗談めかしているが、恵美さんの今の言葉は全て本気。嘘偽りない、本気の叫び。

 助けて欲しいという、本音で言えない叫び。


 臆病な気持ちに気付いて欲しい。

 救われない状況から救って欲しい。


 言外に、恵美さんはそんな思いを込めて言葉を絞り出していた。


 憶測ではない。

 間違いでもない。


 彼女は、よく似ている。


 ……僕に、よく似ているのだ。


「恵美さん、余計なことかもしれないけど、聞いて欲しい」


「……何?」


「好きって、そんな簡単な気持ちじゃないと思うんだ」


 ……それは。


「無理だと思ったから諦めた。無理だと思ったから匙を投げた。そんな簡単に諦められない。そんな簡単に諦められるなら、好きになんてならない」


 僕の親友の受け売りだった。


「そう言う友達に、僕はそんなことないって否定をしたことがある。でも、少し時間を経て最近ようやくわかったよ。ああ、その通りだなって。好きな気持ちがある以上、僕はどんな困難だって立ち向かえるって思えた」


「……そっか。徳井君、好きな人いるって言ってたもんね」


「……うん。そして、困難だけじゃなくてこうも思ったよ。どれだけ後ろ指を指されようが。どれだけ悪魔の所業と非難されようが、僕は、この恋を叶えたいって」


 恵美さんは、俯いて黙っていた。


「……告白しなよ、恵美さん」


「……でも、あのグループに入れなくなる」


「気の良い女子を紹介するよ。アイツ優しいから、きっと君に過干渉になる」


「でも、成功するとも限らない」


「その時は、僕が君を慰める」


「……っ!」


 恵美さんの瞳に、光る何かが見えた。


「……本当だった」


 そして、呟いた。


「本当に、君は酷い人だ」


「ごめん」


「ううん。でも、それがきっと……きっと、正しいんだよ」


 恵美さんは涙を拭った。

 しばらくして泣き止んで、見せた瞳は決意が籠っているように見えた。


「ありがとう」


 恵美さんの憑き物は取れたように見えた。


「あたし、告白してみようと思う」


「うん。応援している。頑張って」


「うん!」


 微笑む恵美さんを見送って、その場はお開きとなった。

 色々あった昼休みだったが、戻る頃には僕の中には少し充実した気持ちがあることに気付いた。


 前回の時間軸では出来なかった行為だった。


 誰かの恋を、僕は前回の時間軸で後押ししたことはなかった。

 むしろ、誰かの恋の足を引っ張っただけだった。


 少しは。

 少しは……僕も成長しているだろうか。


 満ち足りた気持ちが、それを僕に応えた気がした。


 そして、翌日のことだった。


「修也!」


 学校に着くや否や、僕の傍に紗枝が近寄った。

 その顔は、切羽詰まった顔と言って何ら差支えがなかった。


「あんた……近藤恵美って知ってる?」


「知っているよ。友達だ」


 そう答えたが、紗枝の顔に笑顔はなかった。見れば、他のクラスメイトも僕に向けて同情するようなそんな目をしていた。少し異様な教室の空気に、僕は気圧されかけていた。

 緊張の面持ちで、紗枝は口を開いた。




「……近藤さんに嘘の告白されたって本当?」




 その瞬間、全身の血管が一気に巡っていくのがわかった。


「……違うよ」


「嘘つかないで。もう学校中で噂になってる」


「違う」


「修也っ!」


「彼女はただ、嵌められただけだ」


 気付けば横柄な口ぶりで、僕は紗枝に優しく鞄を預けていた。

 誰がそれを漏らしたか、そんなことは考えるまでもなく明らかだった。


 全身の血が脳へと巡っていた。

 こんな……こんな感情に駆られるのは、生まれて初めてだった。


『ごめんなさい。本当に』


 許せない。


『……優しいんだね、徳井君は』


 彼女の想いを部外者が邪魔する権利なんてない。


『あたしがあなたに憧れを抱いたのは、本当。本当なの……』


 僕の友達を愚弄することなんて、許せるはずがない。


 許せない。

 許せるはずがないじゃないかっ!!!

 

 僕は、柴田さんの教室へと足を運んだ。

次話、魂込めたざまあかちこみます。ざまあって言い方好きじゃないんだけどね。勧善懲悪なんだけどね。

たくさんの評価、ブクマ、感想頂けますと嬉しいです!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  主 人 公 覚 醒 。    まあ簡単に「ざまぁ」とは言えないよね。  あの鬱屈として逃げ癖のある主人公の、友達の為の義憤に駆られた行動なんて尊いもの、「ざまぁ」の一言で済ませられない。…
[一言] 柴やんには作るラーメンが尽くしょっぱくなる呪いをかけておきました
[良い点] 恵美さんはめっちゃ良い子だった。 柴田にも悲しき事情が…無さそう
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