回答
人生で初めてされた告白は、心の底から嬉しい気持ちにさせてくれるそんなものだった。
他人に好かれるということは、何かしら自分の中の良さを見つけてもらえたことと同義であり、他人よりも自分に自信がない僕にとって、それが嬉しかった。
認めてもらえたんだ。
文化祭実行委員の仕事を前のめりにこなしたのは、利己的な理由。でも、それを見て憧れてもらえるだなんて。それを機に、興味関心を持ってくれるだなんて。
前回の時間軸とは違い、どんな動機でさえ行動を起こすことに意味があるとそう思えた。
疑心暗鬼な部分もあった。
文化祭実行委員の皆は、最終的には僕を称えてくれた。でも僕は、あの日の行いが正しかったと心から思えていなかった。
だから、誰か一人にでも面と向かってあの日の行動を認めてもらえるのが嬉しかった。
「ごめん。僕、好きな人がいるんだ」
そんな彼女に僕の想いを伝えるのは、心苦しいものがあった。
僕の頑張りを称えてくれた。
僕を認めてくれた。
そんな彼女に非情な回答を突きつけるのは……心が傷んだ。
と同じくらい、心が傷んだ。
でも、それが僕の結論。
僕はもう、偽らないと決めたのだ。
紗枝を好きという気持ちを、偽らないと決めたのだ。
例えそれが原因で他者から後ろ指を刺されようが。悪魔と罵られようが。
それが、僕の答えだった。
「……そっか」
恵美さんの顔は見れなかった。
決意したのに顔を見れないほど、僕は怖かった。恐れていた。
でも、向き合わないといけない。
向き合うことが、僕の責任。
向き合うことこそが、あの日僕が犯した罪への、贖罪なんだ。
平坦な声を発した恵美さんの顔を、ゆっくりと見上げた。
恵美さんは、無表情だった。
一世一代の告白を無下にされたのに。
内なる想いが受け入れられなかったというのに。
まるで他人事のように、無表情を貼り付けて、俯いていた。
僕は今初めて、この場の環境に違和感を覚えた。
何かがおかしい。
そう気付くのには今の状況は充分だった。
その時、遠くから下衆な笑い声が聞こえてきた。
現れたのは数人の女子。
一人の女子の顔に見覚えがあった。彼女は確か、文化祭実行委員を担っていた柴田さん。
下衆な笑顔を貼り付けて、一体何がそんなに楽しいのか。
「徳井君、何マジになっちゃってんの?」
キャハハと柴田さん達は笑っていた。
反面、恵美さんは未だ能面のように無表情だった。
僕はただ困惑した。
僕への告白の結果に興味がなさそうな恵美さん。
そして、僕をあざ笑っている柴田さん達。
「ごめんね、徳井君」
平坦な声で、恵美さんは続けた。
「君が好きなんて、嘘なの」
「……え?」
「あたし、じゃんけんで負けちゃって。あなたに嘘告白をしたの。ごめんなさい」
全てを明るみにして、恵美さんは深く頭を下げた。
じゃんけんで負けた?
罰ゲーム?
……一体何故?
「あんた、最近調子乗っててうざいのよ」
柴田さんが言った。
「文化祭実行委員の時、いきなりしゃしゃり出て、そうして皆にたくさんの仕事をさせて。最終的に全部自分の手柄にしてっ! ふざけんじゃないっつーの」
怒気を孕んだ柴田さんの声に、僕はようやく全てを察した。
つまり、僕はあの文化祭実行委員での仕事ぶりを柴田さんに煙たがられていた。
そして柴田さんは、僕がそのことで周りから優しい目で見られる現状が気に入らなかった。
だから、仲間内で僕への告白を罰ゲームとし、じゃんけん大会を開き、僕の間抜けな姿を拝みたかった。
……つまり、恵美さんは僕なんかに別に、好意はない。
「……良かった」
「あ?」
「良かった。本当に良かった」
全身の力が抜けていった。
ずっと緊張していたようで、立っているのがやっとだった。
僕は怖かった。
僕のことを認めてくれた恵美さんを。
僕なんかに好意を抱いてくれた恵美さんを……振って、悲しませてしまうことが、怖かった。
でも違う。
そうじゃなかった。
僕は僕を認めてくれた人を悲しませずに済んだようだ。
だから僕は思った。
良かった、とそう思ったのだ。
明確な性格悪いキャラを出してみた。
少しでも面白いと思ってくれたら、評価、ブクマ、感想よろしくお願いします。




