憧憬
放課後のショートホームルームを終えて、僕は図書館へと足を運んだ。
「修也、一緒に帰ろ」
そういった紗枝を撒くため、咄嗟に思い付いた嘘が図書館に本を借りる用事があるという嘘だった。
「それなら、あたしも一緒に行こうかな」
「ごめん。その後職員室に寄る用事もあるから、先に帰ってて」
「え、何かやらかしたの?」
「進路相談、するつもりなんだ」
「まだ一年生なのに気が早いね」
紗枝が無邪気に微笑んで、僕はようやく彼女から解放されることが出来た。
それから図書館で少し暇を潰し、僕は待ち合わせ場所へと向かうことにした。
駐輪場には人気はなかった。
帰宅部の人は帰宅し終えた時間で、部活動に勤しむ人はそれに熱中する頃だったから。
そんな駐輪場を少し歩くと、ぽつんと一つの人影を僕は見つけた。
「……徳井君」
僕を見つけた女子が、緊張げな面持ちでこちらを見ていた。
僕も、少しだけ心臓が跳ねた。少女の反応を見て察せられた。どうやらラブレターの入れ違いというわけではないということを。
……だとしたら。
「……えぇと」
僕は、彼女の名前すら知らなかった。
「……近藤恵美」
「よろしく。恵美さん」
軽い挨拶の後、
「今日はその、ありがとう」
淡々と、平静と、少女は話し始めた。
「いきなりごめん。呼び出したりして」
「ううん。僕も暇だったから」
「そう。……ええと、不躾なんだけど、あたし、あなたのことが好きです」
好き、という言葉は、なんて魅惑の響きなのだろう、とぼんやりと思った。
「あたし、結構人に流されやすい性格してるの。いつも友達の後ろに立って、そうやって平穏無事な生活を送って生きてきた。それが悪いと思ったことはなかった。でも、文化祭実行委員でのあなたの話を、ウチのクラスの文化祭実行委員から聞いて、凄いと思った。そして、そんなあなたに憧れみたいな感情を最初は抱いた。いつしかそれが恋心になったの」
「そっか」
それ以上の言葉は出なかった。
素直に嬉しかった。
赤の他人に見てもらい、僕の頑張りを評価してもらえる。それがただ、嬉しかった。
恵美さんという人は、なんていい人なんだろうと思えた。
……僕なんかのことを評価してくれる彼女は、なんていい人なんだろうと思えた。
「……いつの間にか、視線があなたを追うようになった。そして最近だと、気持ちも。あなたの隣にいたいと思うようになったの」
誰かの隣にいたい。
好きな人の隣にいたい。
その気持ちは、痛いほど理解出来た。
彼女は僕と一緒なのだろう。
人を好きになる、という気持ちは、その人と結ばれたいということを
その人のためなら何でも出来る。
好意とは、少し崇拝にも近いな、と僕は思った。
ただ崇拝とはまた少しそれは違って……とても、美しくかけがえのない感情だと思った。
「……だから、あたしと付き合ってくれませんか?」
そして、そういう恵美さんに。
僕は……。
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