表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校時代にタイムリープした僕は、絶縁した幼馴染にただ幸せになって欲しいだけだった。  作者: ミソネタ・ドザえもん
クリスマスをやり直す。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/65

旧友

 ショッピングモールを散策しながら、僕達は紗枝の目当てのお店に入店しては物色をしていた。雑貨屋。本屋。また雑貨屋。

 目まぐるしく変わる景色は、一人では目的のお店にしか行かない僕では中々出来ない体験で、新鮮ではあった。

 ただ同時に、それなりの疲労を感じずにはいられなかった。


「大丈夫?」


「余裕余裕」


 アハハ、と笑って見せるが、僕の様子は明らかに空元気だった。

 人気の多さ。そして歩き疲れ。十六歳の若輩者の体なのに、中年男子にでもなったようながたつき具合だった。


「どっかで休もうか?」


「大丈夫大丈夫。買いたい物があるんでしょ?」


「うん。まあ」


 明らかに遠慮がちな紗枝の背中を押して、僕達は更に色んなお店に入店していった。

 しばらく歩いて、


「ふう」


 僕はげっそりとした様子で、トイレの傍の長椅子に腰かけていた。


「大丈夫?」


 隣では、心配げに紗枝がこちらを見ていた。


「大丈夫。休憩したら、大丈夫」


「五・七・五で読めるくらいには元気みたいだね」


 安心したように、紗枝がため息を吐いた。


「でも、無茶は止めてよ?」


「してないよ」


「してる。明らかにしてるのに、誤魔化そうとするな、バカ」


 馬鹿とは酷く心外だ。

 でも、文句の言葉を返せない程度には、僕は疲弊していた。


「ごめん。折角の買い物日和なのに」


「いいよ。あんたに振り回されるのも慣れっこだもん」


「それは助かる」


「……ふふっ」


 何故だか、嬉しそうに紗枝は微笑んでいた。


「さっきも言ったけど、昔はあんたがあたしを引っ張ってくれたのにね。いつからあたしにおんぶにだっこになったのよ」


「……苦言?」


「ちが……くないね。うん。苦言。苦言だよ。だから、そんなに謝る必要、ない」


 ……謝る必要ない、か。

 これまで僕は一体、どれだけ紗枝に謝ってきただろうか。

 前回の時間軸での謝罪の回数は、もう覚えていない。

 ただタイムリープしてきた時から今までも、僕は相当紗枝に謝罪を繰り返している。今もそう。さっきもそう。

 そう言えばタイムリープ早々も、僕は裸足で駆けだし、紗枝の家の前で彼女に謝罪をしてきた。


 たくさん。

 これまでにたくさん、僕は紗枝に謝罪をしてきた。


 紗枝はそれをしなくて良いと言う。

 でも謝罪をするということは、僕はそれだけ紗枝に迷惑をかけたと思っているということ。迷惑をかけたのに謝罪をせずに済まそうだなんて、あの日のトラウマがある手前、僕が出来るはずがなかった。


「なんだか、あんまり謝られると……対等じゃないんじゃなかって思うの。それがヤ」


 対等、か。

 紗枝は僕達のことを、対等だと思っているから謝罪の言葉を嫌がっているわけか。


 でも……僕は到底、紗枝と僕との関係が対等だなんて、思えなかった。


 あれだけの失態を犯して。

 あれだけ傷つけて。

 最後には、謝罪も出来ずに死んだんだ。


 僕は、相応の報いを受けるべきなんだ。


 それこそ……。


「あれ?」


 深く目を瞑っていると、聞き馴染みの声が聞こえてきた。ただ最近では聞かなくなった声だった。

 少しだけ、下衆な波長が交じった声だった。


「紗枝ちゃん? 紗枝ちゃんじゃん」


 声だけしか聴いてないのに、その声の正体が目の裏に浮かんでくるような気がした。

 目を開けた先にいたのは、


「あれ、さっちゃん?」


 僕と紗枝の中学時代の同級生、北川幸子だった。

 紗枝は、彼女に応対すべく、椅子から立ち上がっていた。


「お久しぶり。えー、今日はどうしたの?」


「おひさー。いや、彼氏とデート。今日クリスマスじゃん? だから買い物行こうって話になったの」


「えー、そうなんだ。高校はどう? 楽しい?」


「うーん。まあまあかな。そっちは?」


「あたしは毎日楽しいよ」


 紗枝の声色が、一段と跳ねた気がした。


「へえ、そっかー。羨ましい。……で」


 北川さんの視線が、紗枝の後ろにいるダウン気味の僕に寄せられた。邪な感情が交じっているのは、火を見るよりも明らかだった。

 北川さんは、友人関係が多い女子だった。でも、そういうあからさまな態度をすぐに作る、敵が多いタイプの人間だった。所謂、我が道を行くタイプ。

 僕も中学時代は彼女が苦手だった。


 そんな彼女が我が校への高校受験に失敗したのは、不幸中の幸いだと失礼ながら思ったこともあった。


「徳井君と、未だに一緒にいるんだ」


 北川さんが中傷するように笑った。

 その瞳には見覚えがあった。一時期、鏡を見る度にその瞳をしていた人を、僕は知っていた。


 あれは、妬みの感情。

 さしずめ、自分が落ちた高校に進学した僕達が気に入らないが故の、中傷。


 僕が言えた口ではないが、実に程度の低い行いだ。

 ああいう行動は、最終的に我が身を滅ぼす。絶対に止めた方が良いと断言出来た。本当、実際に我が身を滅ぼした僕が言うと説得力が違う。


「……あたしが修也と一緒にいると、駄目なの?」


 紗枝の声は、少し冷たかった。


 既視感を感じた。

 酷い、既視感を感じた。


 紗枝は、拳を固めて震わせていた。後ろ姿しか見ていないが、明らかにいつもの穏やかな彼女のそれとは違った。


 まずい。


「いやあ、久しぶり。北川さん」


「……え」


「元気だった? 僕は今、ちょっとグロッキーでさ。折角紗枝と遊びに来たのに、いやはや申し訳ないよ」


「……男なのに、甲斐性なしね」


「そうだね。情けない限りだ」


 紗枝の逆鱗に触れそうなことを言ってくれるな、と思いつつ、僕は苦笑した。


「そう言えば、君の彼氏さんは今どこに?」


 さっさとこの場を去ってもらいたい。

 その一心でそう尋ねたが、どうやら僕は地雷を踏んだらしい。


 小林さんはギクリと肩を震わせていた。


「僕が言えた口じゃないけど、駄目な彼氏さんだね。女の子を待たせるだなんて」


「そ、そうね……」


 明らかに口数が減った北川さんに、僕はあー、と唸った。これは見栄を張ったな。

 一体、北川さんは今日、誰とここに来たのだろうか。


 友達?

 だったら集団で行動しているはず。

 

 一人で?

 その線もあるにはあるが、北川さんがあれで小物染みた性格をしている。そんな彼女の性格を考えると、本当に誰かと来たと言う後ろ盾があるからそんな嘘を吐いている気がする。


 つまり……、


「幸子ー、トイレ行くんじゃなかったの?」


 北川さんのご家族、とか?

 当たりらしい。

 本当、しょうもない見栄は張るもんではない。


「じゃ、じゃあね」


 そそくさとトイレに向かった北川さんに、紗枝は呆気に取られ、僕はただ苦笑していた。


「行こう。彼女が帰って来る前に」


「……うん」


 僕は呆ける紗枝の手を握り、歩き出した。

日間ジャンル別4位になっておりました。本当にありがとうございます。

土曜であることとランキング上がった歓喜で投稿頻度下がりそう!(投稿頻度が下がるとは言ってない)

日間ジャンル別1位までなんとか上がりたい。たくさんの評価、ブクマ、感想何卒何卒、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  おや?上手くいなしたな?と思ったけど主人公前回それなりに社会人経験有るんだった。  とっさに場を荒らげる事無く収めるのって結構難しいとおもうのですが。  良い大人の対応。
[気になる点] 北川さんの今後の出番数
[一言] いっそ開き直って全開で愛情表現して付き合ったらいいのにと思うが、それができないのは、前世での八年間がよっぽどこじらせだったんだろうな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ