昼食
映画を見終わり、僕達はターミナル駅の傍にあるショッピングモールへと足を運んだ。映画を見るだけで帰るのも侘しいから、と紗枝の提案で、昼食もそこで取ることにした。
「修也、何食べたい?」
「そうだね。……まずは、座席確保からじゃない?」
フードコートへ足を運び、紗枝は僕に尋ねてきた。カップルだけでなく親子連れも集ったフードコートは、とても喧騒としていた。二人分の席を見つけるだけでも苦労しそうな状況だった。
しばらくフードコート内を歩き回って、僕達は丁度親子がご飯を食べ終えて席を立ちそうな現場に居合わせた。
親子は、奥さんに促されて、わざわざ少し忙しく席を開けてくれた。
「ありがとうございます」
「いいえ、カップルさんも早く休みたいでしょ?」
「かかか、カップルではないですよっ!?」
ニコニコする奥さんに、紗枝が声を荒げた。
そんなに頭ごなしに否定しなくても。僕は唇を尖らせて、面白くなさそうに目を逸らした。
席に座り、僕達は何を食べるか思案し始めた。
まもなく、僕達は二人揃って洋食店のオムライスを食べることに決めた。
「じゃ、僕注文してくるから」
「え、あたしも行くよ」
「席取られちゃうから、待ってて」
これだけの人混みの中を、紗枝にも行動させるのも、少しだけ憚れた。
「う、うん。ありがとう」
「ううん」
微笑み、僕は洋食店を目指した。洋食店には十人前後の列が出来ていた。最後尾に並び、ぼんやりと僕は順番までの時間を潰した。
オムライスを注文し、アラーム機を受け取った。
しばらくかかると言われたので、僕は一度席に戻った。
「おかえり」
スマホもいじらず、両手は膝の上に。お行儀良い姿勢で、紗枝は僕の戻りを迎えた。
「もうちょっとかかるみたい」
「そっか。まあこの混みようだもんね」
「そうだね」
それにしても、本当に凄い人混みだ。席から周囲を見渡すと、丁度昼下がりな時間ということも相まってたくさんの人でフードコートは賑わっていた。
この様子だと、それなりに待たされることになる気がして、僕は少し紗枝に対して申し訳なさを感じていた。
が、意外にもすぐにアラーム機が調理完了を告げた。
「取ってくる」
「うん」
この人混みを予測し、お店側で対策を練っていたのだろうか。ぼんやり考えながら、オムライスを受け取り、僕は席へと戻った。
対面に座り、僕達はいただきますと言ってオムライスを食し始めた。
「この後、どうしようか」
尋ねたのは僕だった。最後まで僕は結局、今日何をして遊ぶかを考えてこなかった。
「あたし、色々モール内を回りたい」
「何か欲しい物でもあるの?」
「ある」
「へえ、そっか」
であれば、良い時間になるまでそれに付き合うのが良いだろう。
「……何かごめん。あたしばっかり色々させてもらって」
「え」
自分でどこに行くかを一切考えてこず、罪悪感も感じていた僕だったが、紗枝も同様、一方的に自分の行きたい場所に僕を連れ回しているようで、罪悪感を感じていたらしい。
「いいよ」
「そう?」
「うん。嫌だったら、僕は大抵ハッキリと嫌って言うだろ?」
「そう? 面倒臭がって、あー、とか、えー、とか、有耶無耶な返事を寄越すイメージの方が強いけど」
「こういう場では僕の顔を立てる意味で乗っかって欲しい」
「増長するだけじゃん。絶対ヤ」
頑なな態度ながら、確かにと納得させられるのだから、彼女も僕の扱いに長けている。
「……とにかくさ、僕は今日、君と遊ぶためにここに来た。君が行きたい場所に行けるだなんて、嬉しい限りだよ。そのためにもここに来たみたいなもんだし」
「……あ、そう」
照れたように、紗枝がそっぽを向いた。
僕からしたら、嘘偽りない気持ちを伝えたつもりだった。後悔しないため、彼女の楽しそうな微笑みを思い出として残すため、彼女の好きなことに付き合うのは、悪い選択ではないはずだ。
「それなら、今日はトコトン付き合ってもらおうかな」
「うん。最初からそのつもりだ」
「殊勝な心掛けだね」
微笑み合って、僕達はオムライスを食べ終えて、ショッピングモール内の散策を始めた。
ただのデートやん…。
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