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高校時代にタイムリープした僕は、絶縁した幼馴染にただ幸せになって欲しいだけだった。  作者: ミソネタ・ドザえもん
クリスマスをやり直す。

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押掛

ワイ算数苦手おじさん、一日三話目(四話目)を投稿する。


 紗枝と一緒にクリスマスを過ごす。

 親友岡田君に乗せられた部分は多いにあったが、それでも後悔をしないようにと僕はそれに向けて行動を起こすことにした。


 ファストフード店からの帰宅道。

 学校の最寄り駅で反対のホームに向かう岡田君とはそこで別れて、僕は家の最寄り駅へと向かった。


 電車に揺られながら、僕は考えていた。

 どうすれば紗枝と一緒にクリスマスを過ごせるだろう。

 色々と障害は思い付く。


 でも一番の障害は、たった今紗枝を怒らせてしまっていることではないだろうか。


 どうしたものか。

 どうやって紗枝に、許してもらうべきか。


 一先ず、紗枝が許してくれる気になるまで、日を待つべきか。

 そう思って、クリスマスまでの日数は残り七日もないことを僕は思い出す。迷っている暇はない。なりふり構っている余裕もない。


 後悔したくないのに、逃げの姿勢だなんて、おかしな話だ。


 家の最寄り駅に電車が辿り着くと、僕は電車を降りた。地下のホームからエスカレーターに乗って地上に出ると、景気悪く雨が降っていた。

 その雨に怖気づきそうになるが、僕は勇気を振り絞って歩き出した。

 いつも通りの道中。途中、僕はいつもと違う住宅街の路地へと進んだ。


 まもなく眼前に捉えたのは、紗枝の家。


 僕は謝罪とクリスマスの誘いを兼ねて、紗枝の家にやってきた。


 家の前に辿りつき、チャイムを押すと、


『はい。小日向です』


 紗枝が、呼び出しに応じてくれた。


「あの、徳井です」


『え、修也?』


「うん」


『……何よ』


「ごめん」


 僕は、謝罪を口にした。


「あの……その、有難い誘いだとは思ったんだ。両親が家にいないことは滅多にないし、どうせなら誰かの家に泊まるのも悪くないと思った。でもその……恥ずかしかった」


『あたしと一緒にいるのが、そんなに恥ずかしかったんだ』


「そうじゃない!」


 怒気を強めた紗枝の声に、僕も声を荒げていた。

 冷静になりつつ、チャイムから目を逸らしつつ、僕は頬を染めていた。


「その……この前の文化祭は、我ながら浮かれすぎた。君をダンスに誘って、今更あんな拙いダンスをさせたことがその……申し訳ないのと、恥ずかしくて」


『何それ』


「……ごめん」


 チャイムが切られた。失敗したか。

 傘もない中、強くなり始めた雨を前に、僕は今日は引き返すべきかと思い至った。

 

 ガチャリ


「何、凄い雨じゃん」


 玄関から出てきた紗枝の第一声は、そんな驚きの混じった声だった。


「紗枝、その……」


「謝る前に、早く入って」


「え」


「風邪引くでしょ。最近、ただでさえあんた、体弱いんだから」


 有無を言わさず、紗枝は僕を家へと連れ込んだ。

 慌ただしく家中を駆け巡る紗枝に、僕は玄関でただぼうっと突っ立っていた。


「何やってるの、風邪引くでしょ」


 紗枝から手招きされ、僕は靴を脱いで家に上がった。

 違和感があった。


「おじさんとおばさんは?」


「町内の会合」


 つまり……心臓がドキリと跳ねた。


「ほら、タオル」


「え」


「お風呂入ってきて」


「え」


「早く」


 鞄を引き剥がされ、僕はずぶ濡れのままタオルとおじさんの衣類を持たされ、脱衣所に押し込まれた。

 どうしてこうなった。

 ただ僕は、紗枝に謝罪し許してもらって、クリスマスに一緒に遊ぶ約束を取り付けようと思っただけなのに。


 どうして僕は今、紗枝宅の脱衣所にいる。


「クシュンッ」


 しかし、本当に風邪を引きそうな状況に……僕も、背に腹は代えられないと思い始めた。

 自宅のシャワーよりも熱めのシャワーを浴びながら、僕はこの後どうするべきかと頭を悩ませていた。


 棚ぼたとはいえ、こんな展開になることは予想だにしていなかった。


「出たよ」


「うん」


 リビングに行くと、紗枝はテレビを見て寛いでいた。

 僕は廊下とリビングが繋がる扉の前で、立ち尽くしていた。


「……そんなところで、何しているのよ」


 ぽんぽん、と紗枝が自分の座っているソファに座るように促した。紗枝の座るソファはあまり大きくなく、座る前から恐らく肩がぶつかることは目に見えていた。

 ……彼女より断然長い時間生きておいて、肩がぶつかるくらいで意識しすぎではないだろうか。


 僕は、平静とした態度で紗枝の隣に腰を下ろした。


「同じシャンプーの匂い」


「余計なことを言わないでくれる?」


 変に意識してしまい、僕は頬を染めた。

 紗枝は、どうやら先に風呂に入っていたようだ。そして仰る通り、さっき使ったシャンプーと同じ匂いが、紗枝からした。


「それで修也君。両親のいない隙を見計らって我が家に来て、どんな目論見?」


「謝りにきたの! さっき言っただろ」


 ニシシとからかう紗枝に、僕は再び声を荒げた。

 ……紗枝の態度にドギマギするが、どうやら紗枝はもう怒っていない様子で、僕は少し安堵した。


「この雨じゃ帰れないね」


 リビングのテレビからは、バラエティー番組が放送されていた。ただそんなテレビの音をかき消すくらい、大きな雨の音が外で鳴っていた。


「おじさんおばさんは、帰ってこれるの?」


「車で行ったし、その内帰ってくるよ」


「そっか」


 雨が窓を打つ音が大きくなっていく。

 先ほど高鳴っていた心臓は、ようやく落ち着いてきていた。


 落ち着いて、僕は懐かしい気分になっていた。


 こうして紗枝と二人きり。彼女の家で、リビングで。

 小さい頃は、両両親ともに忙しくて、僕達はどちらかの家に集まって時間を潰すことは少なくなかった。

 あれから彼女の家のテレビは大きく薄くなった。ソファも穴が開いていたのに、今では僕の家のソファよりも大きく品があった。

 時間の移り変わりを、彼女の家で感じることになるだなんて。


 そしてそれは、前回の時間軸の僕が気付くことが出来なかった景色。


 あの時、その変化に気付けなかった。

 それは僕が……僕が、変わってしまったからだろう。不真面目に。怠惰に。


 だから僕達の距離は、大きく大きく広がった。


 あの時、変化に気付けなかった。変化してしまったことを、僕は今悔いていた。


『……後悔するなよ、修也』


 そんな僕が思い出した言葉は、親友のかけがえのない言葉だった。

 

「紗枝」


「ん?」




「クリスマスの日、一緒に遊ぼ」

ヒロインの家に押し掛ける主人公。もう待ったなしやん。

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