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高校時代にタイムリープした僕は、絶縁した幼馴染にただ幸せになって欲しいだけだった。  作者: ミソネタ・ドザえもん
文化祭をやり直す。

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悲痛

 文化祭二日目は、今日も生徒達の快活で楽しそうな声で埋め尽くされていた。メイド喫茶の客入りは昨日よりも好調。一年生の部門での売り上げ一位も目前に見えていた。

 僕は、作業に勤しみながらぼんやりと考えていた。


 まもなく、岡田君が紗枝に告白すること。


 その末、紗枝は一体どんな結論を導き出すのだろうか。

 その結果が待たれた。


 岡田君の人の好さを知り、彼の告白の成功を願っていた。その言葉に、その考えに偽りはない。

 でも、今胸に渦巻く感情は僕のそんな根底の感情が嘘だったと告げているような気がした。


 僕は今、僅かばかりに。ほんの僅かばかりに……。


 岡田君の告白が、実らなければいいのに、とそう考えていた。


 そんなことを思ってはいけない。

 そんなことを祈ってはいけない。


 でも、刻一刻と過ぎていく時間を前に、否定する気持ちとは裏腹に、そんな感情が膨れ上がっているのがわかった。

 どうしてそんなことを思ってしまうのか。


 自罰的に、叫びたく衝動に駆られていた。

 でも、それをするのは憚られた。


 今そんなことをしようものなら、途端、僕は自我が保てなくなってしまうような気がしたからだ。


 オレンジジュースの売れ行きが、昨日に比べて好調だった。冬真っ盛りだというのに、今日はいつにもまして温かい気候の日だった。

 手が震えた。

 これから待ち受ける絶望のせいで震えているのだと気付くのに、そう時間は要さなかった。


 あれだけ、願ったのに。


 岡田君と紗枝の幸せを願ったのに。


 裏切り行為だ。

 こんな感情、岡田君に対する裏切り行為に他ならないではないか。


 でも、でも……駄目だった。自制が効かなかった。


 不思議だった。

 こんなにも切迫した気分なのに、不思議で不思議でたまらなかった。


 このどす黒い感情に包まれながら、僕はこの感情と遭遇するのは初めてではないことに気が付いたのだ。

 このどす黒い感情と初めて出会ったのは……前回の時間軸。


 高校二年の夏、夏も終わりかけの夕暮れ。河川敷。下校途中。


 僕はこの感情と面識がある。

 いつ?


 それは、紗枝と板野君が仲睦まじく歩いている時のこと。


 浮かんだ感情に支配されて、僕は失態を犯した。


『あんたの顔なんて、もう二度と見たくないっ』


 結果、それは僕のトラウマになった。


「ちょっ、徳井君。オレンジジュース零しているよ!」


 カーテンの向こうに、紗枝がいる。

 そんな状況にも関わらず、僕は厨房で粗相を犯した。


 オレンジジュースがかかった手は、しばらく水で拭ってもべたついて、酷く不快だった。


 折角の文化祭。

 折角の高校生活。


 なのに、こんなにも自我を保つのが精いっぱいな時がやってこようとは、思ってもみなかった。

 この感情から解放されるにはどうすればいいのだろう。


 答えは簡単。

 でもそれは出来ない。


 僕にはその資格はありはしない。


 あの日、板野君の隣で見せた紗枝の笑顔。初めて見るあの笑顔を……僕は紗枝から引き出せたことはただの一度もない。

 そんな僕に、紗枝を幸せに出来るはず、ないじゃないか。


 わかっていた。

 そんなことはわかっていた。


 そんな資格がないって。

 そんな力もないって。


 わかっていたから、僕はこの時間軸でも縋った。

 板野君を。

 岡田君を。


 紗枝に幸せになって欲しかった。

 ただそれだけだった。


 あの日、悲しませた紗枝に。

 あの日、傷つけた紗枝に。

 あの日……謝罪することも出来なかった紗枝に。


 紗枝に、幸せになって欲しいだけだった。




 なのに、どうして今更こんな感情を抱くんだっ……!




 目覚めると、僕は保健室にいた。


「あ、起きた」


「……紗枝」


「まったく、具合悪いなら言ってよ」


 その声は、叱っていて叱っていなかった。


「ごめんね。昨日、あたしにブレザー貸したから。体冷えたんだよね?」


 しかし、途端に紗枝の声が暗くなる。

 倒れた理由は、いざ知らず……紗枝のその声に、僕は結局、彼女をまた悲しませたのだと悟った。


「ごめん」


「修也が謝らないでよ。本当、ごめん。ごめんね?」


 まだ頭の中はぼんやりしていた。

 でも、外が薄暗くなっていることには、窓の外を見て気付いた。


「今何時?」


「……十七時」


「もう、閉会式も終わったか」


「ウチのクラスは、無事一年生の部門で売り上げ一位になったよ」


「そう」


「あんたが昨日から、あれこれ販売戦略で口出ししたおかげだって、皆言ってた」


「そっか」


「そんなあんたに、早く元気になってね、って皆言ってた」


「……うん」


 まもなく、僕は気付いた。


「紗枝、岡田君のところ、行かないと」


「でも」


「僕なら大丈夫」


 体を起こして、そうアピールした。


「物理室に行って、最後の仕事を手伝っているから。だから、行ってきなよ」


「……でも」


「行ってくれ」


 その声色は、明らかに二人の仲を気にしたものではなかった。


 僕はただ……今は、一人になりたかった。


「……わかった」


 紗枝は、保健室を後にした。

 扉が閉まった音を聞いて、僕は再びベッドに倒れた。

寒くて売れないわ。零されるわ。散々なオレンジジュース。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鬱シーンは鬱シーンでもオレンジジュースの鬱シーンかよぉ
[良い点] 修也君が自分に資格が無いというのは、わきまえているなと思います。 自分は想い人をないがしろにし続けていたにもかかわらず、紗枝ちゃんと板野君が育んできた時間も想いも幸せも踏みにじって今にいる…
[良い点] 毎日高頻度での投稿がうれしい これからもこの頻度で執筆続けて欲しい
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