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29 ユニークモンスター:下

 自分が何をしているのか理解した途端。

 感覚が広がった。

 

 意識や感覚だけじゃない。

 もっと深い所が融けて合わさっていく。

 

 ――危険。

 

 ただ表層だけの時は感じなかった根源的恐怖。

 自分という存在が消えて無くなりそうな、そんな畏れ。

 

 下手に進めると、藤島拓郎という個が死ぬのだと。

 自分の端から溶け落ちそうな感覚と共に直感した。

 

 本来別々の存在を一つに纏める。その結果の一つが、人間の身でありながらモンスター並みの耐久力を得た。

 そんなものにリスクがない筈がない。

 

「っ……構うか!」


 何も手を打たなければここで俺たちは死ぬ。

 魔力を。蛍火に戦う力を与えないと。

 

 例えるならそれは、パソコンのセキュリティ。

 蛍火に、俺へのアクセス権を与えるようなイメージ。

 

 どうせ俺はもう碌に動けない。

 だったら、蛍火が一秒でも長く戦えるように!

 

 危険だと蛍火の意識も告げている。

 今すぐにやめてほしいとの懇願。

 そんなことをしなくても勝って見せるという気概。

 

 その俺を気遣う全てを蹴飛ばした。

 情けなく地面を転がりながら、だけど目だけは蛍火を睨んで叫ぶ。

 

「言ったはずだ……緋鞠を助けられないなら意味がない!」


 自分を賭けることで勝率が1%でも上がるのなら、迷う事なんて一つもない。

 

 視界の先で/繋がった感覚で、膝を折りかけた蛍火が再び立ち上がる。

 

「あああああ!」


 奪い取った神威の炎。

 それを下から掬い上げるアッパーと共に、本体の顎へと叩き込む。

 

 爆発と共に吹き飛ぶ頭部。

 そこで様子見をせずに、アッパーの勢いのまま飛び上がった蛍火は回し蹴りを胴体に叩き込んだ。

 

 蛍火の爪先が、柔らかな表皮を破って鳩尾に突き刺さる。

 そこから炎を流し込んだ。

 

 内側からはらわたを燃やし尽くす勢いでの爆炎。

 自らの炎で焼かれぬよう、トンボを切って蛍火は僅かに距離を取る。

 

 通常のモンスターならば確実に死んでいるダメージで、しかしこのユニークモンスターはまだ動く。

 時間遡行による超回復。

 それが完了した瞬間に、僅かに空いた距離を埋める為に飛び込んできた蛍火の肘が再び頭部に突き刺さる。

 

 ぐらりと、本体の身体が傾いた。

 

 予想通りなら、今は奴も回復できない。

 この一瞬で勝負を決める。

 

 蛍火の必殺の意思が俺にも伝わってくる。

 

 リソース的な面でも、鱗粉による魔力減少の面でも。

 俺たちはもう、あと十分と持ちこたえられない。

 

 だから蛍火も後先考えずに今全力で動いていた。

 

 その必殺は、しかし。

 

 本体は確かに回復しなかった。

 代わりに飛び込むように飛んできた蝶たちが、本体の時を戻して回復させていく。

 

「させ、ません!」

 

 それに負けじと、蛍火が速度を上げた。

 だけど、蛍火が壊すよりも回復の方が早い。

 

「たお、れろ! でないと、主様が……!」

 

 ガンガンと、俺の中から魔力が消えていくのが分かる。

 

 手足の感覚の喪失。それでも、まだ動く。自分の眼で、腕が指がどこを向いているかは分かる。

 

 本体の回復が終わった。その瞬間に、姿が掻き消える。

 蛍火の拳が空を切った。

 

「しまっ……」


 攻撃に前のめりになっていたが故の隙。

 姿勢を崩した今の蛍火は狙い放題だ。

 

「……ストーンピラー」


 だから俺がフォローする。その為に、地面に転がりながらもずっと蛍火の背を見つめていた。

 奴が蛍火との殴り合い時に描いていた軌道。

 それを思い出しながら、蛍火の死角かつ手の届く場所。

 

 そこに石の柱を生み出す。

 

 さあ、教えてくれ。

 過去の地点に自分を戻した時、そこに過去にはなかった物体があったらどうなるのか。

 

 本体の半分が石柱の中に埋まる。

 過去の虚像は、現在の実像によって捉えられた。

 

「そこだぁっ!」


 露出した半身を、蛍火の乱打が襲う。

 一発一発に炎を纏って、奴の身体のあちこちを焼いて行く。

 

 今度は回復に来た蝶にもその隙を与えない。

 近づいてきたのを炎で焼き払う。

 

 だけどそれでも、全ては排除できない。

 掻い潜って、回復と石柱を無かったことにしようとしていく。

 

「対象脅威度判定を更新――Fプラス。されど排除方針に変更無し」

 

 最初は広間を埋め尽くす勢いだった蝶も、目に見えて減ってきている。

 今度こそ、奴も限界だと思いたい。

 だけどそれでも、まだ蝶は十分な数が居る。

 

 このまま消耗戦では――勝ち目がない。

 その意識が、瞬時に俺たちの間で交わされた。

 

「ここに万物の根源は火であることを証明する!」


 殴りながら、蛍火が詠唱を開始する。

 

 いよいよ、追い詰められた。

 最大火力で、相手を燃やし尽くす。それに賭けるしかなくなってしまった。

 

 またごっそりと、魔力が蛍火に流れていく。

 

 魔力の減少に伴って、身体から熱が消えていくような気がする。

 魔力欠乏症が死に至る病ならば、俺は今死に近づいているのだろう。

 

 まだ、意識を失うわけにはいかない。

 ここで意識を失ったら、融合も解けるかもしれない。

 そうなったら俺という予備タンクを失った蛍火はこれ以上戦えない。

 

 辛うじて自由の利く口元を唇をかみ切る。

 血の味。

 鈍い痛みが、俺の意識を辛うじて繋ぎとめてくれた。

 

 もう少し。もう少しだけ、耐えないと。

 融合した感覚越しに、蛍火の限界が近いのも感じる。ここが、最後の踏ん張りどころだ。


「流転せよ!」

 

 石柱が消えた。

 奴が自由になる。

 

「対立せよ!」

 

 損傷が全て回復した。

 無傷の複眼が蛍火を捉える。

 

「そして万象調和せよ!」

 

 本体が、再び動き出す。

 詠唱と共に繰り出した拳が受け止められた。

 

 強く引き寄せられて、姿勢を崩した蛍火の頬へ蝶人の拳が突き刺さる。

 完璧なカウンター。蛍火の意識が一瞬消えかける。

 

 手放されそうになる制御。

 それを俺は必死に手繰り寄せる。

 

 仰向けに倒れそうになる蛍火。

 それを彼女は歯が砕けそうになる程食いしばって耐えた。

 

「絶えず変わりて!」


 身体を引き起こすと同時、その勢いで頭突きを相手の頭部に叩き込む。

 制御を手放さない。もう俺に出来ることはこれしかない。

 何が何でも、抑え込む!


「世界を成せ!」


 頭突きで額が割れたのか。美しい顔に血を流す凄絶な表情が、遠目にも見える。

 一瞬の怯み。

 そこを蛍火は見逃さない。


「神威、限定解放ぉ!」


 血を吐くような叫び。

 本来広範囲に降り注ぐ無数の炎弾。その全てを拳に集約。


「狐のよめいり、天気雨!」


 必殺の一撃が蝶人へと突き刺さった。

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