第４４話　玲奈先輩って意外と根に持つタイプなんですね

　期末テストが終わってからあっという間に一週間ほどが経過し土曜日が来ていた。来週ある終業式が終わればいよいよ夏休みだ。

　三年生の夏休みは受験勉強で忙しい事が分かり切っているため高校生活の中でゆっくり過ごせる夏休みは今回が最後だろう。

　従姉妹曰く大学生の夏休み高校以上に長いためめちゃくちゃ楽しいらしいがそのためには受験戦争に勝つ必要がある。今回の期末テストは満足いく結果だったためひとまず安心だが受験生である来年はより一層勉強に励まなければならない。

「……それにしても遅いですね、もうすぐ集合時間のはずなのに二人とも全然姿が見えないんですが」

「だな、芦田も叶瀬も道中で何かあったんだろうか？」

「うーん、あいつの事なのでどこかで呑気に寄り道してる可能性もあるとは思いますけど」

　今日は雨宮先生からこの間の迷惑料を貰う約束をしていた。だから先に集合場所に来ていた雨宮先生と一緒にちゃっかり参加する事になった玲奈と叶瀬を待っているのだがさっきから一向に来る気配がない。

　もしかして何かトラブルに巻き込まれたんじゃないだろうな。そんな心配をしているとようやく玲奈と叶瀬の姿が現れる。

「潤、雨宮先生お待たせです」

「ごめんなさい、遅くなりました」

　二人は手に紙袋を持っていた。恐らくここに来る前にどこかで買い物をしてきたのだろう。玲奈と叶瀬はよく言い争ってはいるが何だかんだで仲は良い。

「二人とも約束の時間に遅れそうになるくらい買い物をするのに熱中してたのか？」

「私は全力で止めたんですけど玲奈先輩がエロゲコーナーから動かなくなっちゃって」

「ちょっと、私が全部悪いみたいな言い方をしてるけど最初にエロゲをみたいって言い始めたのは華菜ちゃんでしょ」

　どうやら遅刻しそうになったのはエロゲを物色していたからというくだらない理由のようだ。何かトラブルに巻き込またのではないかと本気で心配して損した。

「そもそも芦田も叶瀬も十八歳未満なんだからエロゲコーナーには入れないだろ、買う場合もしっかり年齢の確認があるんだし」

「ああ、私は中学生とよく間違われる幼児体型の華菜ちゃんとは違って制服を着てなかったら大学生って言えば基本信じてもらえるので」

「なんか棘がありますね、もしかして玲奈先輩は私に喧嘩を売ってます？」

「別に成績でめちゃくちゃマウントを取られたのが悔しかったからってわけじゃないから」

「玲奈先輩って意外と根に持つタイプなんですね」

　うん、玲奈と叶瀬は今日も平常運転のようだ。とりあえず全員揃ったので俺達は今日の目的地へと移動を開始する。

　迷惑料として今日はスイーツバイキングを奢って貰う予定だ。ぶっちゃけ俺は何でも良かったので二人の希望を優先させた結果こうなった。

「あっ、分かってるとは思うが奢るのは沢城だけだぞ」

「そこは大丈夫です、私はあくまで潤が心配で付き添ってるだけなので」

「私も同じくです」

「何度も言ってるが私は生徒に手を出すような人間ではないからな」

　相変わらず雨宮先生は弁明をしていたが二人は適当に聞き流している様子だ。俺にとってのラッキースケベは今の世界では凄まじいセクハラになりかねないため下手に喜べない。

　しばらく四人で移動をしてショッピングモール内にある目的地へと到着した。土曜日の昼下がりという事もあって店内は多くの人達で溢れかえっている。

「俺はスイーツバイキングに来るのは今回が初めてだけどやっぱりバイキングって名前がついてるだけあってめちゃくちゃ種類が豊富だな」

「でしょ、ここは結構種類が多いから人気なんだ」

「私の友達もよく来るって言ってましたよ」

「ただしカロリーが気になるからこういうところにはあまり頻繁には来れないがな」

　確かにカロリーはえぐそうだ。下手したら一日の必要摂取カロリーをここで飲み食いするだけで超えてしまえ可能性もあるだろう。

「私はまだぴちぴちの十七歳なので大丈夫です」

「そもそも玲奈先輩は食べた栄養が全部胸に行きますもんね」

「ひょっとして華菜ちゃんは私に喧嘩売ってる？」

「さっきの仕返しです」

「……二十四歳もまだ若いと思うんだが」

　叶瀬が玲奈に喧嘩をふっかける一方雨宮先生は一人でぶつぶつと呟いていた。玲奈の言葉を聞いて地味にダメージを受けたようだ。

「それにしても店内にいるお客さんは見事に女性ばかりだな、ぽつぽつ男性もいるっぽいけど」

「やっぱり女子の方が甘いものは好きだからね」

「ですね、今いる男の人はみんな女の子の付き添いで一緒に来てる感じですし」

「普通男性だけではスイーツバイキングには来ないと思うぞ」

　雨宮先生の言うとおり俺が彰人と二人でスイーツバイキングに来ていたらめちゃくちゃキモいに違いない。そもそも男同士で何かを食べにいく際の選択肢の候補にすら上がらないだろう。

　それに店の中に一歩足を踏み入れた瞬間周りにいる女性達からのギラギラとした視線が凄まじいので男だけでここに来るのは危険な気しかしない。玲奈や叶瀬、雨宮先生と一緒にいなければ絡んでくる女性がいてもおかしくないレベルだ。