第31話 玲奈先輩って本当お馬鹿ですよね
期末テストの範囲発表があってから数日が経過し、いよいよ週末がやって来ようとしていた。この週末がテスト前最後の土日になるため、ここ二日間の過ごし方は重要に違いない。
「って訳で土日は自分の勉強に集中したいから勉強会は無しだ」
「えー、それは流石につまらなくないですか?」
「そうだよ、可愛い幼馴染の私を潤は見捨てるの?」
勉強会の休憩中にそう伝えたところ二人は不満そうな表情で騒ぎ始めた。多分こういう反応が返ってくるんだろうなとは思っていたが予想通りだったらしい。
「なら玲奈と叶瀬が二人で勉強すれば良いんじゃないか? 叶瀬は普通に英語以外でも玲奈より出来るっぽいし」
「まあ、確かに私は玲奈先輩よりもはるかに賢いですけど」
「ちょっと、潤も華菜ちゃんもあんまり私を虐めないでよ」
「だって事実じゃん」
そう、学年一位の叶瀬は二年生の範囲である数学や化学を普通に玲奈よりも理解していた。いや、下手すると俺よりも分かっている可能性すらある。
週末課題などを全く出さないくせに不真面目な生徒のくせに毎回学年一位を取る叶瀬の対応にはきっと先生達もめちゃくちゃ苦労しているに違いない。
「とにかく明日と明後日は一人で勉強したいから勉強会は無しだ」
「考え直す気は無いですか?」
「もし潤が考え直してくれるならおっぱいを見せてあげても良いけど?」
「……だから貞操逆転してる今の世界でおっぱいに価値なんてないからな」
冷静な顔でそう口にした俺だったが本当は興味津々のため少し心が揺れ動いてしまった。だってしょうがないだろ。俺は貞操逆転してないんだから。
「玲奈先輩って本当お馬鹿ですよね」
「あー、また私の事を馬鹿にした。潤、性悪で邪悪な後輩が虐めてくるんだけど」
「毎回言ってますけど私の事を性悪で邪悪な後輩認定しないでください」
玲奈と叶瀬は相変わらず言い争っていたがそれがコントのように見えて面白かった。まあ、何だかんだ二人は仲が良いのでこういう事を言い合えるほど信頼関係が構築出来ている証拠だろう。
その後も二人は何とかして俺を説得しようとしてきたが俺は突っぱねた。指定校推薦を狙っている俺としては定期テストの点は下げたくないのだ。
結局二人は説得が無理な事を悟り渋々引き下がったが、まだ諦めてなさそうに見えたため油断はしない方が良いだろう。
◇
一夜が明けて土曜日になった今日、俺は朝から机に向かって勉強をしていた。期末テストという事で通常の五教科に加えて家庭科や保健体育などの副教科もあるため大変だ。
計画的に進めてはいるが点数が悪いと内申点に悪影響を及ぼしかねないため油断は出来ない。そんな事を考えていると部屋の扉がノックされて母さんが入ってくる。
「突然なんだけどお父さんとお母さん、泊まりで親戚の家に行く事になっちゃったから家を空けるから」
「分かった、帰ってくるのは明日?」
「そうそう、明日の夕方には戻るわ」
という事は今晩は俺一人で過ごす事になりそうだ。今日と明日のお昼、それと今日の晩御飯は自分で用意しなければならない。
料理はあまり出来ないためどこかへ食べに行くかコンビニなどで何か買う事になりそうだ。そんな事を思っていると母さんはとんでもない事を言い始める。
「あっ、私達がいない間の事は全部玲奈ちゃんに頼んであるからよろしく」
「いやいや、よりにもよって何で玲奈なんかに頼んだんだよ!?」
「さっき玲奈ちゃんのお母さんに家を空けるって話を電話でしてた時に、それならうちの玲奈を好きに使っていいって言ってくれたからお願いしちゃった」
「おいおい、マジか」
何で母さんは草食動物しかいない檻の中に肉食獣を入れるような判断にオッケーを出したのか問いただしたい。あっ、でも母さんは貞操逆転前のスポーツ少女な玲奈の姿しか知らないのか。なら仕方がない気もする。
てか、そもそも料理が一切出来ない玲奈がうちに来ても役に立つビジョンが全く見えないんだが。どうせ来るならちゃんと料理が出来るらしい叶瀬の方がまだ良かった。
玲奈の性格上俺が面倒を見られるというより、俺があいつの面倒を見ると言った方が正しい気までする。玲奈はそれだけだらしないところがあるのだ。
余計な事をしてくれた母さんに色々と文句を言ってやりたい気分だったがもうそういう話になっているなら仕方がない。せっかくの玲奈のお母さんからの好意を無駄にするのも申し訳ないし諦めよう。
「って事でお父さんとお母さんはもう出発するから後の事はよろしく」
「ああ、また帰る前に連絡してくれよ」
「うん、お土産も買って帰るから」
そう言い残して母さんは部屋から出て行った。とにかく色々憂鬱で仕方ないが頑張って乗り越えるしかないようだ。
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