39 やってしまいましょうか
騒ぎを聞きつけたジェイクが私の所まで来てくれた。話したいことがあるので、休憩時間はいつかと聞いてみたら、もうすぐ勤務が終わると言うので待つことにした。
今日は酒場もお休みなので、特に用事もない。最近は部屋から出ることも控えていたことや、ジェイクから誘われたこともあり、夕食を共にすることにした。
彼を待っている間、元婚約者の様子を見ていると、騎士隊の人に病院に連れて行かれることになったので、辻馬車を拾い、代金を御者先払いして病院へと運んでもらった。
病院で診てもらえるかはわからないし、彼がお金を持っているかもわからない。
家を追い出されたとはいえ、もういい大人なんだし、何とかするでしょう。
『それにしても、あの男はなぜ騎士隊の詰所にいたのかわからないでござる』
「……そう言われてみればそうね。何か用事があったから来てたんでしょうけど、まあ、人の話に首を突っ込んでくるくらいだから、急ぎじゃなかったんじゃないかしら」
『自分の罪を認めて自首をするつもりだったのだとしたら、まだ救いがありますが、そうではなさそうでござるな』
「私もそんな風には思えなかったわ」
反省しているのなら、死んだ人が悪いだなんて馬鹿なことは言わないはずだもの。
詰所の近くにあるカフェで、サムイヌと話をしていると、ジェイクがやってきた。突然押しかけたことを詫びてから元婚約者の話をすると、わかっていることを教えてくれた。
「本当にごめん。昔と名前が変わっていてわからなかったんだ。今の名前はダゲスという名前で、レレール様のことを逆恨みしてるってことがわかった」
「今はもう、レレール様を好きじゃなくなったってこと?」
「そうらしい」
私が飲み物を飲みきれていなかったので、少しゆっくりしようということになり、ジェイクは店員に紅茶を頼んだ。
飲み物が運ばれてくるまでに、ジェイクに詳しい話を聞いたところ、現在、ローズコット辺境伯領ではレレール様の被害者が集まって、彼女を詐欺で訴えようとしているとのことだった。
「貢いだのに捨てられたとか、文句を言う人間が多いんだ。脅迫されて買わされたとかならまだしも、自分の好意でプレゼントしたものだから、普通は文句は言えないはずなんだけどな」
「買ってくれたら結婚するとか言われたわけじゃないのよね?」
「ああ。買ってくれる人は素敵だと言っていたから買った、とかだな」
「それは詐欺とは言えない気がするわ」
自分のものにならないとわかった時点で、自分たちも手のひら返しをしたってわけね。元婚約者もその輪の中に入ろうとしてやって来たようだった。
「リリーが来るって知ってたら、あいつがいないかちゃんと調べてたんだが……。本当にごめん」
「謝らないで! なんの連絡もなしに来てしまった私が悪いのよ。それに、あの人、私に気がついていなかったし困るようなこともなかったから気にしないで」
「でも、嫌な気分になっただろ」
ジェイクは眉尻を下げて私を見つめる。
私は大して気にしていなかった。だって、私の中での彼は、もうどうでもいい存在であって、過去のことで不快に思うこともないんだもの。
「ジェイク、私は彼のことはどうとも思っていないの。それにこれからはあなたのことを考えるようにしたいのよ」
「……それってどういう意味だよ」
お酒を飲んでいるわけではないのに、ジェイクの頬が赤く染まった。そんな反応をされると、こちらまでも照れてしまう。
『せ、拙者はいないほうが良いでござるか?』
私の隣の椅子の上に置いていたサムイヌがアワアワするので「大丈夫よ」と答えた時、ジュネコから連絡が入る。
『リリーノ様、大変です! レレールがローズコット辺境伯領に入ろうとしているんですが、どうしやす? 難癖をつけて入領を拒否しやしょうか?』
『レレール様はぁ、モテるのは女性として優れているからだとぉ、ニヤニヤしながら入領しようとしていますぅ』
平穏な生活を守るためにも、やってしまいましょうか。
ドクウサとジュネコからの報告を聞いた私は、入領の拒否はできないことを伝えたあと、ジェイクにこれからのことについて話をしたのだった。




