36 輝いてない
レレール様が去ったあと、周りにいた人から不思議な魔道具のことで質問されるかと思ったが、みんな、ジュネコやヒメネコに慣れてしまっており「また、変な魔道具が増えたなあ」と和やかな会話をするだけだった。
さらりと流してもらえるのはありがたいことではあるけれど、慣れって怖いわ。
ちなみにクマリーノに動きを止められていた男性は、クマリーノから強烈なビンタを受けることで許された。
ぬいぐるみなのに、ゴツンという音がしたから、その時だけ手を硬い物に変化させたのかもしれない。ちなみに、私はそんなオプション機能を付けた覚えはない。
「魔道具って怖いわ」
「リリーが言うなよ」
「そうでした。私が生みの親でした」
「みんな、リリーのために頑張ってるんだから、ちゃんと評価してやれよ」
「評価というか、本当に感謝はしているのよ。ただ、どうしてこんな不思議な魔道具ができてしまったのか自分でも謎なだけ」
ジェイクと苦笑しあったあと、クマリーノに動きを止められていた男性を解放して、私たちは帰ることにした。
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次の日、新聞の地方記事に私たちのことが書かれていた。目を通してみると、レレール様のことよりも魔道具のほうが焦点に置かれていて、ローズコット辺境伯家のお抱えの魔道具師は何を思って、こんな不思議な魔道具を生み出したのかと疑問を呈していた。
この場に私がいたことはすでに知れ渡っており、何があったのか聞いてくるお客さんが増えた。
騎士隊の人や常連のお客さんは、私が魔道具師ではないかと薄々勘付いているようだが、良い人が多いので、魔道具師かどうか確認してくる人はいない。
中には悪い人もいたが、魔道具師の正体を探ろうとすると呪われるという噂が立ち、私に話を聞いてこようとする人もいなくなった。
父が私に刺客を送ったことについても調べがつき、父は王家の指示で鉱山での労働を強いられることが決まった。
これで私の生活も平穏なものになると思っていたが、そうではなかった。
ジェイクとの件もあるし、ドクウサたちのこともあった。
ドクウサはレレール教の信者からは嫌われていたが、公爵家の使用人にはいつしか可愛がられるようになっていた。そのため、公爵家はドクウサを処分できず、奇妙な同居生活を続けている。ドクウサはレレール様に罵られても『そんなに怒ったら血管が切れますよぉう』などと言って、相変わらずレレール様を目立たせようとしている。
ちなみに、扇はなんだかんだ言いながらも愛用してくれているらしい。
……どれだけ輝きたいのよ。
そして、その話はいつしかレレール様に婚約者を奪われた被害者の耳に入り、ジュネコたちを拝む人が続出してしまった。レレール様の件で魔道具師はレレール様に婚約者を奪われたのではないかという噂も新たに立ってしまったのだ。
魔道具師を探そうとすれば呪われるため、捨てられた女性たちは、ジュネコとヒメネコを拝むようになったというわけだ。
お父様はまだまだ現役のため、引き続き騎士隊にいるジェイクと一緒に、ジュネコたちの様子を見に行ってみると、恐ろしい会話が繰り広げられていた。
「ジュネコ様、ヒメネコ様、どうか私を捨てた男を痛い目に遭わせてください! もしくは魔道具師様に会わせてください」
『わしらの主は尊いお方なんや。一般人が姿を見ようものなら、目がつぶれてまうんや』
「つ、つぶれる!?」
『あ、目ぇ見えへんようになるってことや。あの方は神々しくて光り輝いたはるからな』
ちょっとやめて。輝いてない。レレール様と一緒にしないでほしい。
『ジュネコさん。あなたのお話はわかりにくいですわ! わたくしたちをお作りになった方は控えめに言って魔道具師界の神です。中途半端な気持ちで会おうとしますと燃やされますわよ』
燃やさないわよ。人をなんだと思ってるの。大体、魔道具師界の神って何なの。
心の中でツッコミを入れていると、ジェイクが呆れた顔で話しかけてくる。
「それにしても、まだレレール様は男性をたぶらかすことをやめていないんだな」
「……そうね。悲しむ人が少なくなってはいるみたいだけど、もっとレレール様の本性を暴露しないと駄目なのかも」
そんなことを話していた日の夜、ドクウサから連絡があり、レレール様が私からジェイクを奪おうとしているという連絡があったのだった。




