33 思い通りにはさせないわ
レレール教に入信してしまったからか、すっかり性格が変わってしまったココナ様を相手にすることはやめ、私はレレール様に話しかける。
「レレール様、あなたはすでに輝いていらっしゃいます。不満なのは誰かが目立つことなのでしょう? では、あなたが不満に思った時、あなたをより輝かせれば良いわけですよね。そうすれば注目を浴びることができますもの」
普通の平民が公爵令嬢にこんな余裕な態度で話すわけがないと思われるかもしれない。でも、中には、身分差がありすぎてこんな態度をとってしまう平民がいてもおかしくはないと思う。
「か、輝かせるというのは、こういう意味ではありませんわ!」
「では、どう輝きたいのでしょう?」
「私は人の注目を浴びたいのよ!」
レレール様が叫ぶたびに口の中から光が放たれてとても眩しい。私の魔道具の発動条件は目立ちたいと思った時に口を開けば光るなので、閉じている間は特に問題はない。
意味は違うが目を光らせる、という言葉もあるし、目を光らせることも考えたけど、本人の目に良くないかと思ってやめておいた。それに目と口から光が出たら、鼻の穴からも光を出さないといけない気がして、想像したら笑いそうになるのと、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだ。
あと、レレール様が話をしていても、こちらにダメージがあまりない逃げ道も考えておいた。
「レレール様、扇で口を隠して話していただけますか」
人と話す時に扇で口元を隠す。それもあって扇を魔道具にしたのだが、ちょっと遊び心も加えている。
言われた通りにレレール様は扇を開いて、私に尋ねる。
「これで光らなくなったかしら」
「光ってはいますが、先ほどのような眩しさはありません」
笑いそうになるのをこらえて答えると、ジェイクは顔を背けて口を押さえた。
笑いが堪えられないらしい。それもそのはず、扇面に『わたくしはレレール』という文字が浮かび上がり、光り輝いていたからだ。
本人はそれに気がついていないので文句を言ってくる。
「さっきのような輝きでは人には見てもらえなくってよ!」
「しっかり注目を浴びていますから大丈夫ですよ」
先程の光が強烈だったため、光の出処を確かめるために近づいてきたギャラリーを手で示して微笑む。すると、注目を浴びていると満足したのか、彼女の歯は輝かなくなった。
「今は注目を浴びていますけれど、他に大きな事件があれば、わたくしの存在が霞んでしまいますわ。そうなった時にはどうすればよろしいの?」
レレール様の目的は、やっぱり私を自分の元に置いて、魔道具を独り占めする、もしくは私が作った魔道具を自分が作ったことにしようとしているのかもしれない。
この人の思い通りにはさせないわ。
「レレール様の目的は輝くのではなく、注目を浴びるということでよろしいですか?」
わざと大きな声を出して言うと、レレール様は焦った顔になる。
「そ、そういうわけではなくってよ。わたくしは人のためになりたいんですの」
「……そうでしたか。では、この案はいかがでしょう?」
私は新たな魔道具を差し出す。それは手のひらサイズのピンク色のうさぎのぬいぐるみで、とても可愛らしいものだ。
「まあ、可愛いですわね」
レレール様が扇をココナ様に預け、私からうさぎのぬいぐるみを受け取ろうとした時だった。
『……みなさぁん! 聞いてくださぁい!』
まるで拡声器でも使っているかのような大きな声でドクウサは続ける。
『ここにいるレレール様はぁ、か弱いフリしてぇ、肉食系でぇっす!』
ドクウサはレレール様にしか反応しない魔道具で、レレール様の本性を暴く発言をする。本人は隠してはいるが、他人が知っておいたほうが良いものしか暴露しないような設定だ。
今回はこんな人だから騙されないでねと言いたいらしい。
ドクウサの暴露を聞いたギャラリーは真偽を問うようにレレール様を見つめた。




