27 邪念を払いたい
付いてくると言ってくれたジュネコたちには引き続き仕事をしてもらい、私たちは検問所の裏側に移動した。建物と木々に囲まれたこの場所には、検問所の職員が静かに休憩したい時に来るくらいのもので、忙しい今の時間帯には誰もいなかった。
私の腕の中におさまっている熊のぬいぐるみは、今か今かと自分の出番を待っているのかそわそわしているように感じた。
父たちを連れてきてくれた騎士たちには、怯えているニースを連れていってもらい、四人だけになったところで、シャゼットが私に問いかけてきた。
「ちょっと、あなた、魔導師なのよね!? 何でもできるんでしょう? 私たちを助けなさい!」
どうして命令されないといけないのかしら。大体、何でもできるというわけでもない。
記憶を消したり、怪我を治したりすることは魔道具師の中では禁忌とされている。そんな魔導具が存在すれば、悪用する人物が現れるからだ。怪我を治す魔導具を作ることが駄目だと言われているのは、拷問に使う人間がいるからとも言われている。
死にかけたら治すを繰り返されたりなんてしたら生き地獄だ。
私のように条件をつけられる魔道具師は今まで存在していなかったそうだ。だから、王家からは条件付きであっても、禁忌と言われている魔導具を作ることは禁止された。
ジュネコたちはすでに領民の支持を得ており、凶悪犯などを排除することを目的としているため、許可を得ることができた。
そして、悪人相手のみと限定するなら、禁忌とされているもの以外なら、新たに意思のある魔導具を作っても良いと許しが出ている。
だから、今回の魔導具を作ることができた。
「暴れられても困るから、よろしく頼むわね」
声をかけると、私に抱かれていたぬいぐるみは、微動だにすることなく黒くて大きな目を、地面に膝をついている父とシャゼットに向けた。
その瞬間、父とシャゼットは困惑の声を上げる。
「ちょっ……、えっ……なんで」
「どういうことだ!? 体が動かないぞ!」
「体を動かせないようにしているんです。悪人にしか効果が出ないようにしているから、動けないということは、あなたたちは悪人で間違いないですね」
二人に言うと、ぬいぐるみの口が動く。
『そうクマ! クマリーノは悪い奴らの動きしか止めないクマ!』
「「ひいぃっ!」」
突然話し始めたぬいぐるみを見た、父とシャゼットは情けない声を上げた。
ジェイクは驚いた顔……というよりかは『また変なのがきたな』くらいの目でクマリーノを見ている。
クマと私のリリーノという名前を合わせてクマリーノだと言っていた。ちなみに声からすると女の子だと思う。
『質問に答えるクマ! どうして息子を人質にするだなんて、あんな酷いことをしたクマ!?』
語尾にクマをつけないといけない仕様になっているらしい。
どうしてこう上手くいかないのか。きっと集中しているようでできていないんだろうな。悪人のみと限定条件をつけると、悪人を思い浮かべるからイライラしてしまう時がある。
邪念を払いたい。そうすればもっと良い魔道具が作れそうな気がする。
「レレール様に魔道具師を連れてこいと言われたんだ!」
「「……レレール様に?」」
私とジェイクが聞き返すと、父が答える。
「そうだ! リリーノが死んだと発表した時、婚約破棄されたショックと伝えたせいで、お前の婚約者とレレール様への批判が殺到した。彼女は何らかの方法で上手く火消しをしたが、自分が悪者にされたことや、自分よりもリリーノを目立たせたと怒って、伯爵家を存続させたいなら、彼女を世界で一番輝かせろと言われたんだ!」
それで魔道具師を連れ帰って、魔道具を作らせようとしたってとこかしら。いま、ジュネコたちのおかげでローズコット辺境伯領は注目を浴びているもの。その注目を自分に向けたいわけね。
レレール様が来た時に魔道具師が見つからなかったから、父たちに魔道具師を連れてこいと言ったのかしら。
公爵家が伯爵家を潰せるかと言ったら、さすがに難しいと思うけど、相手がレレール様だからたちが悪い。
「輝かせることはできますよ」
レレール様の思っている「輝かせろ」とは違うでしょうけど、輝かせることは可能だ。
私がそう言うと、父たちの表情が明るくなった。
「た、助けてくれるのか?」
「ですが、一つ条件があります」
「な、なんだ……?」
「フェルスコット伯爵家の当主の座からおりてください」
「なんだと!?」
父は目を見開き、顔を真っ赤にして叫んだ。




