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家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい  作者: 風見ゆうみ


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21  私に聞いてるんだよね?

 ジュネコに体当りされてひっくり返った父の所へ、タクリッボの店長が駆け寄っていく。


「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫じゃないに決まっているだろう!」


 彼らの周りにいた人は突然、ジュネコが動いたことに驚いていたが「ああ、あの噂の魔道具かぁ」「生で見れた!」「怖い!」「見ちゃ駄目よ」など口々に話しながら、検問所の人に誘導されて、入国審査の受付をしていく。


 人の姿で二人が見えなくなった隙に、私は二人からは見えにくい建物の陰に移動した。ジェイクが彼らに近づいていくと、父が訴える。

 

「ジェイク様! この猫の置物はなんなのですか!? なぜ、私を攻撃してくるのです?  先日もこのようなことになって、ローズコット辺境伯領に入れなかったのです!」

「悪人を排除するように作られた魔道具なんですよ。だから、排除されるということはあなたが悪人だからでしょう」

「わ、私は決してそのような人間ではありません! この魔道具が間違っているのです!」


 娘を追い出しただけでなく、殺そうとした人が悪人じゃなかったら、どんな人が悪人だって言うのよ!

 今の彼らには殺意はない。だけど、ジュネコは私を傷つけた人間だとして認識しているみたいだ。


 ジェイクはため息を吐いてから尋ねる。


「リリーノに会わせろと言っていましたが、どういうことでしょうか。彼女は亡くなったはずですよね? 俺も葬儀に出席したんですけど」

「ジェイク様、とぼけないでくださいよ。先日、うちにこの猫の置物を取りに来られたでしょう? この猫はリリーノ様が触れていってからおかしくなったんです。今回のこともリリーノ様の私怨としか思えません!」


 タクリッボの店長がしゃしゃり出てきて、話題をすり替えた。かといって、ジェイクがそれに引っかかるわけもない。


「死んだ人間が魔道具を作ったとでも言いたいのか?」

「ではなぜ、この猫の置物を持って帰ったのですか!」

「それは俺の勝手だろう。リノが触れたものだと言うなら形見に持っていてもおかしくない」

「ど、どうしてそこまでリリーノにこだわるのですか?」


 父が不思議そうに尋ねると、ジェイクは答える。


「彼女のことが好きだったんですよ」


 私に背を向けているから表情は見えないが、きっと顔を赤くしているんだろうな。


「そ……、そんな。では、生きていれば、リリーノは」

「俺は彼女に婚約の申し込みをしていた」

「くそ……っ」


 父は悔しそうな顔をしている。次男とはいえ、ジェイクは辺境伯の息子だし、エイフィック様があの調子では、辺境伯家を継ぐのはジェイクの可能性も出てきた。

 それなら、私を家に置いておけば良かったと後悔しているんでしょう。


「伯爵! リリーノ様に戻ってきてもらいましょう!」

「タクリッボの店長に聞くが、あんたはリノは生きていて、フェルスコット伯爵がリノは死んでいないのに死んだと嘘をついたと言いたいのか?」

「えっ!? あ、いや、そんなつもりでは……っ」


 タクリッボの店長はジェイクと父を交互に見て、焦った顔をしている。


『どうしますか。やっちまいますか?』


 その時、頭に響いてきた声は先程と同じ声で、声変わりしていない幼い男の子のようなとても可愛らしい声なのだが、言っていることは物騒だ。


 ……私に聞いてるんだよね? 


『そうです。わしはリリーノ様の言うことでしたらできることは何でもやらしてもらいます』


 なんかイントネーションが違う気がするけど、まあいいか。


 気づかないうちに、ジュネコは私がいる方向に体を向けていた。


「ジェイクが危なくなったら手助けしてあげて」


 念話の仕方がわからないので声に出すと、また頭の中で声が響く。


『承知いたしました』


 ジュネコはこちらに向けていた体を、父たちのほうに向ける。


『おいお前ら。ジャックはわしの大事なお方の子分や。そいついじめたら容赦せぇへんぞ、ゴラァ』

「ジェイクだよ」

「ジャックじゃなくてジェイクよ」


 ジェイクと私は同時にツッコミを入れた。


 私たちは冷静だった……、いや、冷静なのかはわからないが、平静を保てていたが、父たちはそうではなかった。


「「ひいぃぃっ!」」


 ジュネコを見て悲鳴を上げると、二人は馬車の停車場のほうに足をもつれさせながら走っていく。


 ジュネコは一体、何をしたのかしら。


 二人の姿が見えなくなったあと、建物の陰から出た。ジェイクに近寄ると、魔道具の効果でジェイクが私を見失っていることがわかった。

 私の居場所をジュネコが伝えてくれる。


『あの建物のすぐ側にいはるやろがい』


「……わかった。ありがとう」


『礼はええで。お前はリリーノ様の子分。ということはわしの舎弟やからな』


「魔道具の舎弟になる日が来るとは思わなかったな」

「ごめんなさい、ジェイク! あなたは子分なんかじゃないわよ!」


 呆れ顔で近づいてきたジェイクに、私は手を合わせて何度も謝った。



 

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