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家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい  作者: 風見ゆうみ


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19  口先だけの謝罪なんていらない

 シャゼットは焦った声色で訴える。


「わ、わたしです! シャゼットです!」

「はあ……」

「久しぶりだからわかりませんか?」

「顔に喜んで張り紙をつける知り合いはいませんから」

「よ、喜んでないです! ああ、もう! どうして剥がれないのよ!」


 ジェイクは呆れ返った表情で貼り紙を剥がそうとしているシャゼットを見たあと、私に目を向けてギョッとした顔になった。

 

 うう。なんか、ジェイクには見られたくなかったかもしれない。考えたら、話したことはあっても彼に見られたのは初めてだもの。

 ……一応、私にも乙女心というものが残っていたんだわ。


「シャゼット・フェルスコットです! 信じてください!」

「……張り紙をつけたままアピールしても意味がないのでは? 顔を見せてあげてくださいよ」

「うるさいわね! そう思うのなら、早く剥がしてよ!」

 

 シャゼットが私に食ってかかってくると、騎士隊長が割って入る。


「俺は第八騎士隊の隊長だ。近隣住民が言うには、包帯をぐるぐる巻きにした女性の身元は分かるけど、紙を顔に付けたままの女性は誰だかわからないから怖いということだ」

「どうして私だけ!? 身元がわかっていたとしても明らかにミイラのほうが怖いじゃないの!」

「彼女のことはみんな知っているんですよ。あなたの場合は顔を見ていないからわかりませんし、遠く離れた伯爵家の令嬢を平民が知るわけがありません」


 隊長は微笑むと、一緒に来ていた女性騎士に目を向ける。女性騎士は頷くと、シャゼットに優しく話しかける。


「場所を移動して、ゆっくりお話を聞かせてください」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「お嬢様!」


 焦った声を上げるシャゼットと使用人たち。シャゼットの護衛騎士はどうすれば良いのか迷っている様子で、まったく仕事をしていない。


 父のことだ。シャゼットに言われて、この使用人たちをクビにするんでしょうね。


「お姉様、お願い! 助けてよ! 助けてくれたら謝るから!」

「別に謝ってもらわなくていいですよ」


 口先だけの謝罪なんていらない。というか、心が籠もっていてもいらない。

 シャゼットの言葉は、私の心には響かないのよね。


 私が手を振ると、シャゼットはジェイクに助けを求めたが相手にされず、女性に連れられていった。


「大丈夫だったか?」


 慌てて追いかけていく、シャゼットの騎士や使用人を見送ったあと、小声で話しかけてきたジェイクに頷く。


「私は大丈夫だけど、みんなに迷惑をかけてしまったわ」


 女将さんに目を向けると、店の中に入るように促してくれたので、ジェイクや他の騎士隊の人と共に中に入る。


「シャゼット嬢に正体はバレたのか?」

「たぶんね。私を連れ戻そうとしているみたいだけど、そうはいかないわ」

「どうするつもりだ?」

「撃退する魔道具を作るだけ」

「そういえば、話は聞いたか?」

「なんの?」


 レレール様の話だろうか。


 そんなことを思いながら聞き返すと、ジェイクは衝撃的な話をする。


「ジュネコを壊そうとする奴が現れたんだ」

「……どういうこと?」

「遠くから矢を打ってジュネコを破壊しようとした。だからジュネコは……」

「矢をはね返したのね?」

「そうなんだ。ただ、ジュネコは追いかけることができないから、賊は逃げた」


 こんなことをする輩が出てくるだろうと思って、呪い返しのような魔法をかけておいたのが吉と出た。


「父かタクリッボの店長の仕業でしょうね」

「たぶんな。だが、まだはっきりとはわからない。今、確認しているところだ」

「ありがとう。わかったら教えてくれる?」

「知ってどうするつもりなんだ?」

「ふざけたことをする人には、しっかりお仕置きをしなくちゃ」


 余裕の笑みを浮かべて答えたつもりだったが、ミイラ女姿ではまったく説得力がないことを、私はあとから気がついた。



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