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家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい  作者: 風見ゆうみ


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17  どうしても気になる

 楽しかった旅行を終えて『ケッタイ』に帰ると、レレール様は諦めて帰っていたが、シャゼットは私が帰ってくるのを待っていた。

 魔法をかけられた紙は普通の紙と違い、濡れても大丈夫な仕様になっていた。書かれた文字は薄れてきているのに、紙は破れることなく、しっかりシャゼットの顔に張り付いていた。彼女の様子を陰から確認したあと、彼女や使用人たちに気づかれないように、エミーと私は裏口から入り、女将さんだけが表から入ることになった。

 私たちが裏口の扉から入って少ししてから、シャゼットの声が聞こえてきた。


「ちょっと、この紙が顔から剥がれないんですけど、どうにかしてください!」

「それ、うちの張り紙じゃないですか。イタズラされても困るんですけどねぇ」

「イタズラなんかしていないわ! というか、イタズラしているのはそっちでしょう! 剥がれないのよ! どうにかしてよ!」

「泥棒に入ろうとしたり、張り紙を剥がそうとした人にしかくっつかないんですよ。あなた、そんなことをしたんじゃないですか?」


 女将さんがシャゼットの相手をしてくれている間に、私たちは二階に上がった。

 女将さんたちは外で話を続けているから、二階に上がっても声は聞こえてくる。


「ここには魔道具師がいるんでしょう!? 会わせなさいよ! そして、この紙を剥がすように言ってよ!」

「魔道具師……ですか? そんな人、ここにはいませんよ」

「嘘おっしゃい! そうでなければ、こんな酷い張り紙が出来上がるわけがないでしょう!?」

「そう言われましても……、困りましたねぇ」

「とにかく若い女を連れてきなさいよ!」


 シャゼットのヒステリックな声が聞こえたので、二階からこっそり見てみると、シャゼットの状態を見て笑いそうになった。

 どうやら、鼻と口は自由になっているようで、ひらひらと動いているのが見える。切ることはできても切り取ることは無理らしい。


 最近の私は魔力が上昇しているのか、それとも経験値が増えたのか、魔道具というよりかは不可解な生き物を生み出している気がする。

 ここまで変な魔道具を作れるのであれば、もっと、人様の役に立つ魔道具を作らなければ!

 荷物を部屋に置いたエミーが、私の部屋にやって来た。

 

「若い女って言っているけど、私が行ってこようか?」

「エミーに迷惑をかけるわけにはいかないから行ってくるわ」

「たぶんだけど、視界は悪くても見えてそうだから、仮装していったらどうかしら?」


 エミーに促され、私は好評だった包帯をぐるぐる巻きにした状態で行くことにした。


「ここはあなたのような美しいお嬢さんが来る所ではありませんよ」

「顔が見えないのにどうやって美しいってわかるのよ!?」

「お美しいお顔ですから、張り紙も離れたくないのかもしれません」

「ふざけたことを言わないでよ!」


 のらりくらりとシャゼットの相手をしてくれていた女将さんの所に、私とエミーが裏口から出てきて合流する。


「騒がしいけど、何があったの?」

「いや、こちらのお嬢さんが若い女を出せって言うもんだから」

「若い女ということは、私たちのこと?」


 エミーが女将さんに尋ねると、シャゼットは鼻息を荒くして私を指さす。


「な、なんなのあんた! どうして包帯姿なのよ!? ブサイクだから顔を隠してるの!?」

「そうなんですぅ。人様に出せない顔なので仮装してるんですぅ」


 裏声で返すと、シャゼットは口と鼻の部分の紙をひらひらさせながら尋ねてくる。


「怪しいわ。もしかして、あなた、私の姉のリリーノなの?」

「怪しいのはお互い様ですぅ。失礼ですが、どちら様でしょうか?」

「シャゼット・フェルスコットよ! 姉のリリーノを捜しているの!」


 口と鼻の部分がひらひら動くのが、どうしても気になる。いや、そんなことに気を取られている場合ではない。


「……たしか、婚約を破棄されて自分から命を落とした方でしたわねぇ」


 新聞に載ったくらいなので、知らないほうがおかしい。そう思った私は頷いてから質問を返す。


「亡くなった方をどうして捜しているのですか?」

「い、生きてるかもしれないからよ」

「新聞では命を絶ったことは間違いないと書かれていたのに、身内の方が生きてると言い出すなんて変ですわねぇ? もしかして、死んでいないかもしれないという確信する何かがあるのですか?」

「なんですって?」


 張り紙女とミイラ女の戦いが幕を開けた。


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