表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家を追い出された令嬢は、新天地でちょっと変わった魔道具たちと楽しく暮らしたい  作者: 風見ゆうみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/42

14  任務を与えるわ

 私の包帯姿は『ケッタイ』の常連さんには好評価だった。素顔が見えないのに好評価というのは、冷静に考えてみると複雑な気分にはなるが、この店には小さな子供は入れないし、泣かせることはないと思うので、またやってみても良いなと思った。

 怖がって逃げた人がいるけれど、あの人は例外だと思う。

 私は知らなかったのだが、エイフィック様はよく騎士団の詰所に顔を出すらしい。

 包帯女がいる店にジェイクが通っているのも、仮装姿を楽しんでいるだけだと、騎士団のほうからエイフィック様にさりげなく伝えてくれるそうだ。

 もし、それを聞いたエイフィック様が店に行きそうな雰囲気ならすぐに私に連絡をくれるとのことだった。


 まあ、来たとしてもダンスを踊ってくれるので、その間に隠れるなり包帯の準備をすればいい。


 ジェイクが帰ってくるまで、あと5日はかかる。それまでにエイフィック様の関心を、この店からなくすことができればいいんだけど――。


 開店に向けて店の掃除をしていた時、お酒を仕入れている酒屋さんが「ビッグニュースだよ」と女将さんに話しかける声が聞こえてきた。


「なんだい。孫でも生まれるのかい?」

「違うよ。そうだったとしたらそれはそれでビッグニュースだが、そんなことじゃなくて聖女様の話だよ」

「聖女様? ああ、レレール様のことかい?」

「そうだ。なんと彼女が魔道具を探しに、ローズコット辺境伯領に来ると言うんだ!」

「なんだって?」


 私が魔道具を作っていることを知らないとはいえ、この店に不思議な魔道具があることは常連客ならみんな知っている。レレール様はどうやってこの店が魔道具を手に入れているのか確認するつもりかもしれない。


 あの人、自分よりも話題になっている人やことがあると、さりげなく潰しにかかるから面倒なのよね。


「そうかい。なら、これからこの辺も騒がしくなるんだね?」

「そうなんだ。話を聞いた奴らはお祭り騒ぎだよ。この店にも来るかもしれないぞ」

「ああ、残念だね。ちょうど休みが欲しかったんだ。バカな客が増えそうな日は店は休みにして、静かな場所に旅行に行ってくるよ」


 女将さんが豪快に笑いながら言うと、酒屋さんの困惑した声が聞こえてくる。


「いや、逆だろ。普通は店を開けるもんじゃないのか?」

「聖女様がここに来るということは、みんなが集まるということだ。他の観光地は人が少なくなるだろうし、旅行するにはいいじゃないか」

「聖女様に会いたくはないのか?」

「ないね!」


 女将さんがきっぱりと答えると、私がいることに気づいた酒屋さんが話しかけてくる。


「リリーちゃんは聖女様に会いたいよな?」


 興味ないです。

 と言いたいが、酒屋さんは私に同意を求めている。かといって、女将さんの顔もたてなければならない。


「私みたいな穢れた心の持ち主は、聖女様に会ったら浄化されて存在がなくなりそうなんでやめておきます」

「お、大げさだなぁ……」

「本当のことですから」


 酒屋さんが返答に困って苦笑しながら去っていくのを見送ったあと、女将さんに話しかける。


「もし、私に気を遣ってくださっているのなら、ご迷惑をかけないように自分で対処しますので営業してくださいね」

「気にしなくていいよ。稼ぎ時といえばそうなんだけど、余所者も入ってくるから治安が悪くなるんだ。酔っぱらうと喧嘩っ早くなるし、あんたみたいな若い子は体を触ろうとしてくる馬鹿も増えるから危険なんだ」

「魔道具で撃退しようかと思いましたが、レレール様は魔道具を探しに来ると言っていましたね」


 それなら変に目立ちたくない。


 レレール様が来るまでにはジェイクは帰ってきそうだし、猫の置物は辺境伯家に寄贈して検問所に使ってもらおう。


 そんなことを考えているうちに日は過ぎ、ジェイクが帰ってきた。


「おかえりなさい」

「ただいま。……これでいいんだよな」


 そう言ってジェイクが見せてくれたのは、私が魔法をかけた猫の置物だった。

 前回ははっきり見なかったので確認してみると、陶土で作られた私の太ももくらいまでの高さがあるふっくらしている白い猫だった。


「ありがとう! これで合ってる! 大変だったでしょう? お礼にできることなら何でもするわ!」

「自分で行くと決めたんだから見返りは求めないよ。それよりこいつ、自分の任務を邪魔されたと思ってるのか、夜にベッドの隣まで移動してきて俺を恨めしそうに見てるから困った」

「置物だから動くわけないし、表情は変わらないはずなんだけど、恨めしそうな顔してたの?」

「いやまあ、表情は同じなんだけど、そういう圧を感じるんだよ。それと調べてみたら、どうやら1時間に10センチくらいなら動けるみたいだ」


 気になって眠れなかったらしく、寝たフリをして確認したそうだ。


「あまり動けないから自分で帰ることはしなかったのね」

「扉も閉まってるから、自分では開けられなくて体当たりしてた」

「それはそれですごいわね。元気が有り余っているみたいだし、あなたに新たな任務を与えるわ」


 私は猫の置物に声をかけてから魔法を解除し、新たな魔法を付与したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ