第46話 三たび“ドリフト”
遊はふわふわした面持ちで帰ってきて、うなぎを食べた。
こう言う時、普通の人は味がわからなくなるらしい。
遊は違った。
「いつになく美味しい」
自分の今持っている感情が、どういうものなのか分からない。
だが、どうやら新たなる戦いがやって来たらしいことだけは理解できた。
「遊、どうしたのですか? 妙にそわそわして……」
「うん、なんていうか、詳しいことは帰ってから話す」
「そうですか。いつもの遊ですね」
「二人ともそのコミュニケーションで問題ないの……? すれ違うカップルみたいなそれなのに」
塩辺は実に不思議そうなのだった。
その後、食事会はつつがなく終了。
塩辺はいい感じに酔っ払い、二人に礼を言ってふらふら帰っていった。
「塩辺さんはいい方ですから、きっと気に入る女性も出てくると思います。私、彼を紹介する活動をしてみます」
「セシリアは真面目だなあ」
「受けた恩はできるだけ返したいのです。そうやって人と人の関係は続くものですから」
「なるほどなあ……。僕はこう、空気のようにあまり人から気にされずに生きてきたから……」
「あら、遊は私にとって、一生掛かっても返しきれない恩をくれた人ですから。恩返しはずっと続きますよ! ……それはそうと、さっきから心ここにあらずだったのはどうしたのですか? まるで、新しいゲームを見つけたみたいに」
「そう、それなんだけど」
マンションまで帰り着いた二人。
遊は靴を脱ぎ捨てると、普段はゲーム専用にしているテレビをつけた。
これもチューナーの無いネットテレビなのだが、インターネット接続がされている。
選択したのは、動画配信サイトアワチューブだ。
普段は遊の好きなゲーム動画ばかり並んでいるような状況なのだが……。
今日ばかりは様子が違う。
ニュースメディアがこぞって、新宿に起こった大事件を報じているのだ。
『新宿、物理的に封鎖さる!』『新宿が異世界に!?』『内部との通信は可能!』
「なんです? これ?」
「おかえりー。なんだなんだ」
セシリアの横に、のそのそやって来たスノンも並んだ。
「ええと、遠くに東京という大きな都市があるんだけど」
「ふんふん」
「ほうほう」
地方出身の遊と、異世界人のセシリア、人ですらない竜のスノン。
全員、ピンと来ていない。
「そこに新宿というとても大きい街があって」
「大きいと言うと、聖王都くらいでしょうか」
「聖王都って何人くらい住んでたの?」
「5万人はいましたよ!」
多いでしょう! と誇らしげなセシリア。
「ええと……新宿区は35万人住んでるって」
「えっ!? 35万!?」
「想像もできん数だ……」
「そこがおかしくなった。なんていうか魔界と同化したみたいな?」
流れるニュースとともに、遊が説明する。
「多分、魔物の類がどんどん出てきていて、新宿の社会そのものすごい速度で変質しているはず。そういう設定だった気がするから」
「やたらと遊が詳しい……。もしかして遊。ゲームの世界がその新宿という街に出現したというのですか?」
「間違いなく」
遊は頷いた。
テレビをゲーム画面に切り替える。
起動したのは、新宿アポカリプス。
魔界と化した新宿で、プレイヤーキャラを選択して冒険するシューティングゲームだ。
移動方向は360度どちらにでも。
主に使用するのは移動キーのみで、攻撃は自動的に行われる。
天使と悪魔のどちらかを相棒に選択し、それは戦闘スタイルに直結する。
レベルアップすると武器がランダムに表示され、これを取得することで戦闘手段が増え、重複取得で武器のレベルが上がる。
いわゆるローグライクシューティングと呼ばれる系統のゲームで、遊の遊んでいるものの中ではかなり新しい。
「まあ、これはゲームセンターには無いから、ドリフトが現れても遊べないと思う……。新宿は今、このゲームの中みたいになってると思うから」
「あっあっ、わらわらと敵が湧いてきます!」
「敵を倒すと結晶が出るんだな? それは自分の世界と一緒だけど……。あっ、途中で武器に交換できるのか!? へー」
「そうそう。こうやって、どんどん戦い方が派手になる。さらにキャラクターによって、他のシューティングだとボムに当たる攻撃があって……。ゲージが溜まると、例えばこの猫使いの探偵だとこんな感じで」
キャラクターは猫を連れているのだが、その猫がぶわっと何匹にも分裂した。
それが画面に溢れ出し、敵モンスターを殲滅していく。
「こうやって都市を戦いながら探索して、謎を解き明かしていくシューティングゲームなんだ。アドベンチャーも混じってるかなあ……」
「意外……。遊はもう、命を取るか取られるかだけのシンプル殺伐なゲームがメインなのかと思っていました」
「うん、そう思われるのは理解できる。実は僕はシューティングと名が付けばなんでもやるんだ」
「そんなん言われても冷静に返す遊、自分というものが分かっているんだなあ」
スノンが感心した。
「それじゃ、遊が行けないなら新宿って街はあのまんまなのか? どうしようもない?」
「どうしようもないんじゃないかな……。だって、新宿アポカリプスはゲームセンターには無いから……」
そう呟いた遊のスマホが、ブルブル震えた。
メッセージを受け取った通知だ。
普段はバイブレーション機能すら切っているのに、まるで遊に何かを知らせるため、震えたようだった。
「なんだろう? ……あれ? メルマガ入った記憶は無いんだけど……」
そこには、ゲームセンター“ドリフト”メールマガジンとあった。
『速報! 新作ゲーム入荷! インターネットゲームサービス、ディーゼルでおなじみのあのローグライクシューティング、新宿アポカリプスが当ゲームセンターにやって来ました! 救世主の来店を心よりお待ちしております!』
「……入荷したみたい。戦えるなあ」
「遊、とっても嬉しそうですよ!」
大変な事態で、笑い事ではないと分かってはいる。
だが、新たな戦いの予感に、遊の胸が踊るのだった。
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