第26話 第一ステージ 地竜の里
魔龍の眷属がビュンビュンと飛んでくる。
一見すると巨大なコウモリのような姿をしたモンスターだ。
ゲームでは大した大きさでは無いように見えていたが、こうやって見てみると守りの竜に近い大きさのコウモリなのだ。
でか過ぎる。
『セシリアと過ごすようになってから、世界の解像度が上がったからな……。関係は全然進展してないけど』
今までは流していたゲームの中の光景が、こうやって現実になった時に差異に驚いたり感動したりできるようになった気がする。
『お前ら、こんなに大きくてキモかったんだなあ……』
『キキキィーッ!! ネビュラゴールド様に逆らうものは血を吸ってコロス!!』
『しかもチスイコウモリだ! ショット発射!』
守りの竜の口からブレスが吐き出された。
初期のブレスは、炎の弾丸のような形をしている。
連射はあまり効かないから、早急なパワーアップが必要だ。
放たれた炎の玉が、コウモリたちの中で炸裂した。
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ド、ドラゴンだこいつ!! ウグワーッ!!』
コウモリたちは炎に焼かれると、結晶化して砕け散った。
魔龍の眷属はこうやって、死ぬと結晶になるのだ。
そしてこの結晶が……。
『回収~!』
チャリンチャリンチャリンと小気味いい音を立てて、守りの竜の体に結晶が吸い込まれていく。
『おっおっおっ、パワーが溜まっていく……。メイガスの時はデジタルだったけど、なんかドラゴンソウルは自分の体にも力がみなぎるような錯覚があるよな……』
溜まった結晶を使い、仮のパワーアップを決定する。
ブレスを連射するようにするか、頭を増やして二方向に撃てるようにするか。
『僕は連射派だ。それにこの肉体が実感を伴っている状態で、頭を増やしたらどうなってしまうことか……』
ブレスが二倍の速度で吐けるようになった。
これでまあまあ連射できる。
地上からは、オーガやリザードマンと言った眷属が、わしわしと歩いてくる。
空に向かって投石をしたり、矢を放ったりしてくるのだ。
そして、そんなモンスターに追い立てられている人間の姿がある。
ゴマ粒のようなドットで描かれていた彼らは、今やちゃんと人間に見える。
現実なのだから当たり前だが。
『よーし、今助けるぞ! やっぱり現実は違うなあ……。それに、これって生身なのか? 風や匂いまで分かるし……おっと!』
追いかけられる人々を救うべく、翼を羽ばたかせる遊なのだった。
※
「も、もうだめだーっ!」「これ以上走れない~!!」
『ぐへへへへ! 人間狩りは面白いぜ!』『でもよ、もうすぐ滅びちまうんだろ? そしたら楽しい人間狩りができなくなるぜ』『そいつは困る! 牧場でも作って養殖しないとなあ……』
「な、なんて邪悪なことを考えているんだ!!」「悪魔だ……!!」
『いかにも俺たちは魔龍ネビュラゴールド様の眷属! 悪魔の化身よ!』『俺たちの敵などいなあい!! 人間はおもちゃになるほか無いのだ!!』『あれっ? なんか飛んでたコウモリどもがいなくなってるんだけど』『あれじゃね?』『あんなに青かったっけ?』『げえっ!! あ、あれドラゴンだ!!』『なんだってー!!』『攻撃しろ攻撃!』
眷属たちは、わあわあと叫びながら武器を取り出した。
空に向かって攻撃を開始する。
これらは散発的にピュンピュンと放たれるので、空を飛ぶ竜は容易く回避している。
そして、竜は地上に向けてブレスを放った。
炎の塊が猛烈な勢いで飛来し、眷属たちを吹き飛ばす。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!!』『なんて威力だ!』『一撃だと!?』『くそーっ、攻撃だ攻撃!』『ウグワーッ! だめだーっ!』『攻撃しようとしたところを狙い撃ちされるーっ!!』
あっという間に、眷属はブレスに焼かれて全滅してしまった。
結晶化し、ドラゴンに吸い上げられる。
「おお……!!」
空を仰いだ地竜の里の人々は、感激した。
それは、伝説に歌われる守りの竜そのものであったからだ。
不思議なことに、里を襲う眷属を倒せば倒すほど、守りの竜の力は増すように思えた。
ブレスを吐く速度がどんどん上がっていく。
「あれ? でも……。伝承では、首を生やして縦横無尽にブレスを吐いて、悪を滅ぼしたって……」「ほーん、じゃああれはまだ成長途中ってことか」「いや、でも伝承ではあんなにブレスを連打してたって話はないなあ」「それじゃあ、ちゃんと成長した後の姿なのかあ」「でも首が一本だしなあ」「じゃあまだ成長途中かあ」
周囲からどんどん危険が排除され、里の人々にも生来の呑気さが戻ってきた。
守りの竜は悠然と空を飛び回り、次々に出現する魔龍の眷属を焼き尽くしていく。
強い。
圧倒的だ。
眷属たちの攻撃は、闇のブレスや投石、あるいは炎。
これらを守りの竜は優雅に回避する。
まるで、どこに撃たれるかが分かっているかのように、攻撃が放たれた瞬間にはそこから離れているのだ。
「やっぱり、竜は強いんだなあ……! 眷属が全く相手にならない」「でも……だとしたらだよ。おかしくなっちまった地竜様と、守りの竜はどっちが強いんだ……?」
「そりゃあ……」
答えられる者はいない。
自分たちが祀ってきた地竜を信じたい気持ちはある。
だが、魔龍に操られてしまった地竜を、守りの竜ならば倒してくれるという希望もある。
「俺たちはどうしたらいいんだ……」
里の人々は頭を抱えるのだった。
だが、守りの竜が眷属を退治するほど、その時は近づいてくる。
ついに、地竜がそこに戻ってきた。
亀に似た巨体から首を長く伸ばし、高らかに咆哮する。
その大きさは、守りの竜の数倍。
質量にして数十倍にもなるだろう。
圧倒的なサイズ差だ。
「これは……ダメだ……」「やっぱ地竜様は強すぎるんだ……」
里の人々は一瞬、絶望しかける。
そんな彼らの頭上を、岩の塊がゆっくりと通過していった。
「希望を捨てないでください! 遊……じゃなかった、守りの竜は必ず勝ちます!」
岩の塊から、少女の声がした。
人々は見る。
飛行する岩塊から突き出した突端に、一人の少女が立っているのを。
「竜の巫女だ……!」「巫女様までいらっしゃった……!!」「ということは、分からんぞ!」
この光景を見下ろして、竜の巫女に憑依したセシリアはニコニコするのだった。
「皆さん、しっかり見ているのですよ。絶対、遊が勝つに決まっているのですから!」
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