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第九話


 「咲也⋯⋯」


 母さんの声が聞こえたのと同時に部屋の扉が開いた。重い体を起こし視線を母さんに向ける。


 「寝てないの?」


 「うん」


 「学校どうする?」


 「今日は休む」


 「わかった学校には連絡入れとくね」


 「あ、母さん!昨日はいきなり部屋に戻ってごめん、あとありがと」

 

 母さんは何も言わずに出ていった、その背中はいつもより小さく淋しげに見えた。


 まだ頭がボーッとしてる、寝てないのも影響してるのだろう、俺はこれからどうすればいいのだろうか?どうするべきなのか?そんな事を考えてたら携帯が鳴った千鶴からだ。


 話をしたい、声が聞きたいけれど電話に出れなかった、何を躊躇したのか出れなかった。


 その携帯を握ったまま眠ってしまったのだろう気付いたら昼過ぎだった。

 

 少し寝たのもあってか意識がハッキリとしてきた。腎臓移植に解離性健忘⋯⋯腎臓はもう大丈夫なのか?解離性健忘って?一旦落ち着こうと水を飲みにリビングへ向かった。


 「母さん?」


 仕事を休んでくれたのか?コップに水を注ぎ一気に飲み干した。


 「母さん、俺の体もう大丈夫なんだよね?」


 「えぇ、損傷を受けた腎臓も含めて健康そのものよ」

 

 意を決して聞くことにした。


 「解離性健忘ってさ医者に詳しく聞く事できる?」


 「もちろんよ、ちょっと待ってなさい」


 母さんはスッと立ち上がり紙切れを一枚持って戻ってきた。


 「連絡入れとくからこの病院に行きなさい」


 「わかった!ありがとう。」

 

 病院の場所そんなに遠くない!急いで部屋に戻り着替えて病院に向かった。


 母さんが電話を入れといてくれてたおかげかすぐに診察室に通された。概ね母さんが言ってた通りだった。


 『記憶が戻るかはわからない。また戻ったとしてその時どうなるのか?今の記憶は残ったままなのか?それとも無くなってしまうのか?都合良く全部の記憶が残ってくれるのか?断言できる事は何もないと』

 

 診察には然程時間はかからなかった、母さんが何度も連れてきてくれてたらしい。


 病院をあとにし考えながら空を見上げた、もう9月も中頃になろうとしているのに結構暖かい、てか俺の記憶は結構絶望的じゃね?


 今の状態だと治った方がいいのか?悪いのか全くわからない、どおりで幼い時の記憶が無い訳だなんか全部腑に落ちた、俺馬鹿だけど馬鹿だから記憶無かった訳じゃないんだ。


 考える時間が欲しい、今はそれが素直な気持ちだった。家に着き母さんに報告がてらお願いをしてみる。


 「母さん俺二、三日学校休みたい」


 「わかったわ、学校には連絡入れておく」


 「あとさ、マジで俺を守ってくれてありがとう」


 と一言伝えた所で母さんは泣き崩れていた。俺は精一杯の笑顔を振り撒き自分の部屋に戻った。


 今までずっと一人で生きて来たと思っている節があった。他人と距離を取り関わらないように生きて来た、でも実際は多くの人に守られ生きていた事実を知ったいや、知らされた。

 

 そしてこの二、三日で考えなくちゃいけない事は千鶴の事だ、あいつはどれだけ傷付き悩んできたんだ?俺と再会した時どんな気持ちだった?罵倒したかっただろうに、罵りたかっただろうに、いや殴りたかったかもしれない。


 まじ俺情ねぇなぁ、なんか悔しさで目頭が熱くなってきた。


 けど涙なんて流せない千鶴の気持ちを考えたら、でもその気持ちすら俺が考えた勝手な気持ちだから、真意は千鶴しか知らない。

 

 話をしよう千鶴と、そして伝えなくちゃ千尋ちゃんが俺の中にいる事を、千鶴に隠し事はしたくない。

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