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第七話


 「咲也!勉強会しよ♡」


 「俺勉強苦手だよ、毎回赤点ギリギリだし」


 「勉強会しようぜ!咲也の部屋で♡」


 「話し聞けよ!」


 恐らくこのモードに入った千鶴は止める事が出来ない、諦めて勉強会やるか。


 「勉強会は承諾する、早く帰って掃除しとくからそれだけは許して」


 「アハッ!りょ♡」


 何そんなに嬉しそうにしてるの?すっごいツッコミたかったのを我慢し急いで家に帰った。


 速攻で部屋を掃除し千鶴を待った。


 程なくして家のチャイムが鳴り千鶴を部屋に受け入れる。


 「へぇここが咲也の部屋かぁ?何にも無いね」


 「物置たくないからね、麦茶でいい?」


 「うん、ありがと!でエッチな本どこ?」


 「んなのねぇし」


 「ふ~ん♡」


 疑いの眼差しを受けたが無いものはない!麦茶を取りに行き急いで戻った。なんかもう既に本の配置変わってるし⋯⋯


 「ち〜づ〜る〜」


 「アハハッ!ごめんて♡さ、勉強しよ!」


 「はぐらかすな」

 

 悪怯れた顔で千鶴はこっちを見るが、無いものは無い!部屋にあるのはベッドにテーブル!本棚、本棚には小説しかないし⋯⋯


 「何からやる数学?英語?」


 「苦手な数学からかな〜?」


 ガサゴソと音がしテーブルの上にお菓子が並べられて行く⋯⋯勉強せんのか?


 「ポッキーポッキー♡ん〜〜♡」


 ポッキーを口に加え俺に顔を突き出して来た!絶対にやると思ってたよ!


 「定番過ぎないか?」


 「え〜?しないの?」


 「するか!数学だせ!」



 不貞腐れた顔で数学のテキストを取り出し始めた、本当に何しにきたんだ?


 「ねぇ〜♡エッチな事しないの?♡」


 「するか!マジいい加減にしろよ」


 「てへっ♡ごめんて♡」


 毎回このペースに心乱される、嫌ではないむしろ心地良いまであるが、今日の趣旨を忘れるなよと俺は自分を律し一心不乱に公式を解く事にした。


 「さくや〜麦茶こぼした〜」


 「ブハッ」


 丁度麦茶を口に含んだ瞬間だった、満面の笑みでスカートをめくっている。


 「パ、パンツ見えてるし」


 ベタなリアクションを取ってしまった自分が恥ずかしい⋯⋯てか千鶴はどうしても勉強しないつもりだな?わかったそうゆう事ならとシカトする事にした。


 無言で俺のジャージを渡しだんまりを決め込んだ俺に流石の千鶴も察したのか?こちらをチラチラと見てはいるがようやく勉強をやり始めた。


 気付くと時計は22時を回っていた。

 『ガチャ』と玄関の鍵が開くのが聞こえた。

 

 「ただいま〜あらお客様?」


 「おかえり〜」


 とりあえず部屋の中から声を返した、勉強に集中し過ぎて女の子を部屋に上げてたのを完全に忘れていた。


 「お母さん帰ってきた?」


 「うん⋯⋯」

 

 そんな言葉を交わしてる間に部屋のドアが開けられ、母さんが入ってきた。


 恐る恐る視線を扉に向けると顔面蒼白の母さんが立っていた。


 完全に血色を失い、今にも倒れそうな雰囲気で。


 「ち、千尋ちゃん?」


 声が震えていた。名前を間違えたのか?それとも別の誰かと間違えたのか?ただ、母さんの視線は千鶴を一点に捉えている。


 「い、いえ私は千鶴です。千尋は双子の姉です」


 「そ、そーよね?そんなはず無いもんね?ごめんなさいね」


 母さんは千鶴に一礼し部屋を後にしたのだが、この一瞬のやり取りに聞き覚えの無いフレーズがあった。


 「ち、千鶴、双子の姉って?」


 「私お姉ちゃんがいたんだよ」


 「いた?どうゆうこと?」


 「私が小さい頃に事故にあって」


 「そ、そーなんだ、なんかごめん⋯⋯でもなんで母さんがお姉さん?千尋ちゃんを知ってるの?」


 「⋯⋯⋯⋯」


 千鶴が今にも泣きだしそうな顔をしている。俺は聞いてはいけない事を聞いてしまったのだと気付く。


 重苦しい空気が部屋を覆い、お互いに会話をする事も無く時間だけが無情に過ぎていった。


 「時間も時間だし、私帰るね」


 「うん」


 千鶴の言葉に反応する事ができたが、俺は気の利いた言葉一つ返す事もできずに千鶴を見送ったのだった。

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